織子と鶴一と彦根君
DITinoue(上楽竜文)
七夕に月の・・・・・ウサギ?!
二人は小学校五年生の時に織子が告白してから異常なほどラブラブなカップルとなっていた。
これは、小学校でも中学校でも、ましてや高校でも一緒で、TikTokで「ラブラブカップルめっちゃ踊ってみた企画」でウケていることで有名なカップルとなっている。
そして、織子は学校では学級副委員長を務めているのだ。
ところで、我々三年三組に転校生がやってきた。
「初めまして、こんにちは。第四共栄高校から来ました、
彦根君。
彼はめっちゃキラキラしてた。
その後、彦根君はめきめきと勉強を進めていく。あっという間に成績ナンバー1。
そして、運動もめっちゃできてこれもナンバー3。野球部とか陸上部などの人間とかには多少やられたが、それでも柔道部最強と言われる人間は運動もヤバかった。
そしてそして、顔も体つきも良い。水泳の時は・・・・・いろいろバキバキだった。
そんな彦根君はクラスの人気を瞬く間に射てしまい、ファンクラブまでできそうな勢いになっていた。
――そのファンクラブには、私、入んないんだよね。
入ったら、何かが起こりそうな気がしたからだ。
それでも、鶴一よりもできる彦根君に、織子は思いを止めたくても止めることができなかった。
で、彦根君に思いをはせるうちに、鶴一と話すことができなくなっていった。
当たり前だ。
浮気してるのだもの。
鶴一からすればへんだなと思い、心配して余計話しかけてくるが、織子にしてはウザかった。
鶴一は悪くないのに。
ある夏の日。7月4日のことだった。
「なあ、聞いて! 俺さ、とんでもねぇもん拾っちまった!」
うん、何だなんだ。
「月のうさぎを拾ったんだよ!!」
彦根君が言うと、教室はシーンとなった。
それからハハハハハと、彦根君のことをバカじゃないのって笑う人とえ、本当にと彦根君に聞く派が現れた。
まあ、彦根君に向かってバカじゃないのっていう人はあまり多くない。後者の方が九割を占めていた。
――彦根君が言えば、ファンは何もかも信じちゃうんだなぁ。
アイドルとかの“推し”がいない織子にとって、その心境が少しだけ理解できた気がした。
月のうさぎ、ね。
7月4日の9時30分、ベッドの中で織子は考えていた。
月のうさぎか。
何も思い浮かばないのに、何かを考えている。その何かが分からないのがちょっとした不快感だった。
考えているうちに寝てしまっていた。
7月5日の1時50分。
鶴一と別れる夢を見てうなされていた織子の体は光を察知した。
「・・・・・なに。なんか光ってる・・・・・?」
ベッドから少しだけ上半身を起こしてみる。寝ぼけていたけれど、何かが来たのは理解できた。
「何・・・・・」
すると、ベランダのカメのプラ船に光が照っていた。
「何々?! え、何?! ゆ、ゆ、UFO?!」
めっちゃ混乱して、パジャマでベランダに出た。
空を見上げても、UFOはいない。だが。
「とぅあぁっつ!」
白いなにかが落ちてきた。ちょうどそこに月明かりが当たっている。そして、織子の頭の上にその白いものは落ちてきた。
それから、全く寝られずにその白い物体・・・・・月のうさぎ(自称)と話をしていた。
「俺様は
白兎を織子は冷めた目でにらむ。
「あんた、本当に言ってる? てか、何その方言。何で月のうさぎがしゃべるの」
「地球の文化は月に持つたわっちょるだけじゃ。なんか文句あるん」
「ない。それと一個質問。あんた、家のクラスの彦根彦幸君に会った?」
「会ったけん。全ては使命を果たすためじゃ。おーい、おっ母、もうすぐ行くけえのぉ!」
すごいな、このウサギ。って、使命って何?
「ああ、使命っちゅうのは俺に与えられた使命じゃ。彦根は俺になんか知らんが
白兎は私の考えを見透かしたように言った。
ってうん? 彦根君のためにも私と彦根君を両思いにする? 彦根君のためってことは、まさか彦根君、私のことが・・・・・。
「あん、そうじゃ。彦根彦幸はおみゃーのことが・・・・・」
わたしは、目をキラキラさせていた。鶴一のことなんか、端っこに置いて。
次の日は彦根君が話しかけてきた。
「もしかして、織子ちゃんも白兎と会った?」
まるで、小学生が読む絵本のようなやり取りをしているのは分かっている。でも、事実だ。高校生が出くわした事実なのだから。
「ええ、そうなの。うん、彦根君が・・・・・」
はっ。
と思って織子は口を閉ざす。
彦根君も大体察したのかうなずく。そして、自分の感情がバレたと思ったのだろう。
めっちゃ顔を真っ赤にし始めた。
で、当の私も顔が赤いわけで。だって、織田さんじゃなくって織子ちゃんって言われたもん。そりゃあドキドキするわ。
「じゃあ、僕はこれで。じゃあ・・・・・」
彦根君は顔を真っ赤にして去って行った。
7月7日。今日は七夕だ。
でも、私は受験のための勉強は忙しくて大変なのだ。
なぜ今この時期から勉強するかというと、彦根君が目指す学校はかなりハードな大学だったから。一年と二年の成績が良いとも悪いとも言えなかった織子は彦根君と同じ学校に入るために勉強している。
それも、白兎の勧めで。
「彦根彦幸はハードな
ほお。
ということで頑張ってたけど、やっぱり彦根君と鶴一のことを思うとシャーペンを持つ手がついつい止まってしまう。まるで織姫みたいに。
ピーンポーン
全く集中できない勉強をしている今、インターホンが鳴った。
「織子、いるか? ちょっと出て来てほしいんだけど」
それは、鶴一だった。
「え? 何? 今忙しいんだけど・・・・・」
「いいから、早く来い」
鶴一の強い口調に押し切られ、織子は外へ出る。
「トリマ、行こうぜ」
鶴一に連れられ、私は七夕で盛り上がっている街を歩いた。
そして、着いたのは「短冊の森」だった。
この街では毎年、七夕が近づいてきた7月1日から7月16日まで巨大な短冊を5本置
く。それが「短冊の森」という七夕名物だった。
「「やっと、言える」」
二人が言った。
って、え? 二人?
すると、鶴一の横になんと彦根君が立っていた。
「織子、彦根君が好きなんだろ?」
鶴一が訊いてきた。その目は何の悔いもないという爽やかな目だった。
「うん・・・・・」
その目に負けて、思わず言ってしまう。
「嬉しい、僕もそうなんだ」
彦根君が言った。
それから、少し間が空いて、鶴一が口を開いた。
「ふふ・・・・・俺は、元々白兎の申し子なんだ」
「白兎の申し子?」
意味が分からず、私はおうむ返しで聞いた。
「えっとね、彦根が引っ越してきて一週間ぐらい経ってから白兎と会ってさ。協力してくれって言われた。俺は、どこまでも織子を幸せにする。だから、織子が彦根が好きって聞いた時、決めたんだよ。織子を幸せにするために、二人を両思いにさせるってな。ちょっと動揺したけど」
鶴一は少しばかり苦笑した。
「七夕の場でできてよかったな。幸せに暮らせよ。次に俺と白兎と会うのは十五夜だな。白兎が月の日ってことで帰ってくるから」
まだ、あの広島弁うさぎと会わなきゃいけないのか・・・・・でも、少し嬉しかった。
「じゃあ、最後に彦幸、締めの一言あるだろ」
いつの間にか、鶴一は彦根君のことを彦幸と言い始めたらしい。
彦根君は顔を真っ赤っかにして切り出した。
「ええっと、僕は着てしばらくしてから副委員長が好きでした。それで、白鳥鶴一君、つまり白鳥座のデネブ、そして彦星・・・・・わし座のアルタイルの俺、それで織姫のこと座ベガの織子。この三角関係が続いてたけど、デネブが天の川に挟まれた僕らを会わせてくれた」
うわ、彦根君最後までずっと難しいことばっか言うじゃん。
「だから、白鳥君のことを無駄にはしない。——織子ちゃん、僕と付き合ってください」
言われてしまっては、返すしかないでしょう。せっかく言ってくれたんだし。
「・・・・・ありがとう。彦根君、そして・・・・・鶴一。これからもよろしくね」
天の川銀河の星空と満月はキラキラと輝いていた。
織子と鶴一と彦根君 DITinoue(上楽竜文) @ditinoue555
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