4夜目
頼牙と宗近は、ヨルバアの歩いて行った道をたどっていく。すると。「シロ!」背後からなんだか懐かしい少女の声がした。どこからするのかと辺りを見回すが、声の主は見当たらない。「ハハッ、上だよ!」声の通り上を見上げると、木の上には先程の少女、美織が立っていた。「…僕は“シロ”じゃない。」睨むように見つめる頼牙。
「だってあなたの本名、あまり大声でよんじゃだめなんでしょ。あだ名よ。」ニコニコと屈託のない笑顔。頼牙はなんだか気味が悪くなった。「王子様にあだ名だと…?なんと無礼な…。」宗近は眉をひそめた。
美織は続けて口を開いた。「ねえ、おばあちゃんが研究に使う材料をとってきてほしいんだって。…2人でいかない?」「2人!?ダメです!お嬢さん、私は護衛です!主のそばを離れることは…!」「ムッチーは、おばあちゃんがよんでたよ!」「ムッチー、って…。え、私のことですか!?あなたさっきからね…!」頭に血が上り興奮した宗近を無視して頼牙は美織に歩み寄る。「…わかった。ちょうど森を案内してほしいと思ってたしな。これからここで世話になることになった、呼び名は先程のもので構わない。よろしく。」そう言って頼牙は美織の提案を承諾した。その言葉を聞き「わあ!じゃあこれからはかくれんぼもかけっこもできるんだ…!」と美織は笑顔で喜んだ。
「じゃあ早速行こう!ムッチー、ここをまっすぐいくと洞窟があってその奥に小屋があるからそこへ行ってね!小屋にはおばあちゃんがいるからそこで一緒に待ってて。」「いや、しかし・・・!」宗近はそう言いちらりと頼牙の方をみるが。「行け。」「・・・かしこまりました。」頼牙に言われ、渋々了承した宗近はスッと引き下がる。「行こー!」そう言ってすでに美織が先を歩き始めていたので頼牙はその後ろ姿を追いかけた。
2人で森を歩いていく。「必要なのはね、えっと、イモリの目玉と犬の舌。あとは、家にあるって言ってたから…。」指を折りながら淡々と怖い材料名を口にする美織。それを聞きながらああ、やっぱり魔女の一族なのだと確信する頼牙。「それ、毎回君が獲ってるの?」「あ、勘違いしないでね。これは、カラシナの種とオオルリソウ…つまり薬草のことをそう言い換えてるの。こういう風に、魔女が作るものを一般の人がマネしないように、材料名を暗号化してるんだ。このレシピ見たら作る気も失せるでしょ。まあ、一般の人がマネしても私たちと同じようには作れないんだけど。」美織はそう不敵に、しかしどこかいたずらっこのような笑みを浮かべる。「なるほど…。」頼牙は素直に感心してしまいそれしか返せなかった。そしてふと、あまり自分の心が荒んでいないことに気づいた。兄の死を受け入れた訳では無いが…自然に囲まれてるせいなのか、自分の中のトゲトゲしたものが少しとれて、心が少し浄化されてたような気分だった。
薬草をとりに行く途中で2人はお互いのことをたくさん話した。美織の両親は不幸な事故にあって亡くなっている。そのため美織に両親との記憶はほとんどない。それもあってか頼牙の両親の話を、興味津々といった様子で聞いていた。幼いころからヨルバアと暮らしてきた美織は、全くと言っていいほど現代のことを知らなかった。街の女の子が知っている流行りの服や装飾品を知らない、街の暮らし方を知らない。知っているのは家にある古い本にのってる体を使う遊び、この森で生き抜くための処世術、薬草の種類、そしてその薬草の生えている場所だけであった。
反対に美織からみても頼牙は不思議な存在だった。そもそも美織は自分と同じくらいの年の子と話すのは初めてだった。話していて特に興味がわいたのは頼牙が話す「両親」の話だった。頼牙の親はこの国を統治しており、この森すら領土に入っているというではないか。頼牙の母は肌が白く病弱気味だが国民のことをいつも考えている心優しい人。父は反国王勢力との和解を長年望んでいたが、頼牙の兄を殺されてからは家族以外に対して人間不信になってしまったという。そんな国王が家族同然のように信用し息子を託したのが宗近。宗近は前国王の時代、宮殿の前に預けられていた捨て子らしい。血はつながっていないうえに年は離れているが現国王とは本当の兄弟のようにして育ったという。
「ずいぶん珍しい境遇だね。」「でも、年の離れてた父にはかなりしごかれていたらしくて、いまだに宗近は父に怯えているよ。僕たち子どもと同じで父が絶対的存在なんだと思う。」「フーン…。」美織にはその絶対的存在は自分で言うヨルバアだなというのは理解できたが、頼牙の話す王家の話は自分の境遇とはかけ離れてすぎていて、特に両親の話はどこか別世界の話に聞こえた。
そんな身の上話をしてる間に無事薬草のおつかいを終え、2人は小屋へと戻った。
ネモフィラのエオス アーシャ @__Asha5
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