3夜目
その話は王家であれば、いつでも起こりえる話であった。「私には兄、姉、妹がいて、中でも兄は次期国王として期待される逸材でした。しかしある日、私が兄の部屋に行くと、真っ赤になった部屋で血まみれの兄が横たわっていました。現段階では反国王勢力に暗殺されたと思われます。」そして頼牙は続ける。「次に狙われるのはおそらく私です。兄の第一発見者が私である以上、私が兄殺しの濡れ衣を着せられる可能性だってある。父は…つまり現国王は、宗近を護衛につけ、私たちをこっそり森へと隠したのです。そうしてこうも言いました。14の年になったらお前が王位につけ、と。正式な王位継承は14歳以上でないとできないからです。そしてこれがその別れの時に預かった父の指輪です。」頼牙が取り出したのは、指輪がついたネックレス。王の大きな手のひらや太くがっしりした指を想像させる指輪は、王子の首元でネックレスへと形を変えても、なお堂々と光り輝いていた。
頼牙の話をずっと訝しげな顔で話を聞いていたヨルバアが、ゆっくりと口を開く。「その齢にして兄を目の前で亡くしていることには同情しよう。お前の話はいったん信用する。しかし王家だからといって偉くなんでも思い通りになるのだという勘違いはするでないぞ。」「何言ってるんですか!この方は・・・!」頼牙は宗近を手で制し、真剣な表情でうなずきながらヨルバアの話に耳を傾ける。ヨルバアは続けた。「王家は代々、我ら暁烏一家の使う黒魔術や烏たちに頼り、今世まで国を築いてきたのだぞ。それを数年前の魔女狩り第二波…我らはそう何度も過ちを許してやるつもりはない。」何十年、何百年分の恨みがこもった言葉。
頼牙は深呼吸を一つし、慎重に返答する。「…重々承知の上。王家は偉くなんてないです。そもそも国民をまとめられていないから反国王勢力が存在する。あなた方にもたくさん助けられてきたのに幾度も蔑ろにしてきてしまいました。歴代のご先祖様にかわり、次期国王の立場にある私が謝罪する、申し訳なかった…。ただ今この時こそ、厚かましいことも承知の上であなた方の力をお借りしたい。」まっすぐ真剣に訴えかけ、頭を垂れるその姿は、美織と同じ10歳の子供のものではなかった。次期国王になる覚悟を決めた、勇敢なる戦士…いや、王子の目だった。
「いいだろう、しばらくの間この森でかくまってやる。しかし、1年中休みはないと思え。しっかりと私の仕事を手伝うんだ。この森の中では私の言うことは絶対だ、いいな。」そう言ってヨルバアは立ち上がり頼牙と宗近に背を向け歩き出す。「…ありがとうございます、大魔女様。」頼牙は消え行くヨルバアの背中に深々と頭を下げた。
「私の名は夜羽(ヨルバ)。ヨルバアと呼べ。」そう言い残しヨルバアは暗くかすみがかった森の奥へと消えていった。
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