第14話 現在と過去が遮る今
「ダメよ!お外に出ちゃ。危ないわ」
あれは確か小学生のときのことだろうか。
友達と遊びに行こうと約束してから家に帰ってすぐ支度し、早く出掛けようと思ったときのこと。
何故か後ろには母が立って居たのだ。
「わたしね、友達と遊びに行く!」
にっこり笑顔で振り向くと嬉しそうにゆらゆらと揺れたり、今から行けるならすぐにでも動きたいと主張するように。
しかし、その言葉を遮った。
「そんなの許さない!」
私は予想外だった否定の意見に首を傾げる。
「どうして遊んだら行けないの?」
「近所の子と遊んだら、どんな悪影響を及ぼすか……」
冷静な声色に聞こえたものの表情はいつものお母さんの優しい表情ではない。
「はあ、あんたを公立になんて通わすんじゃなかった」
あのときの母の声と記憶が蘇る。
暴力を振るった挙句には暴言を吐いたり。
なんだか久々に思い出した気がするのだ。“あの寮”にお世話になることになった経緯を。
だが──
小学生の頃の過去のことはこれ以上。
絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対
思い出したくない。
「もう、いや……」
㐮衣は頭を抱えながらその場に座り込んだ。
思い出したくない。
もしあの記憶を思い出してしまったら㐮衣は今よりももっと、もっと狂ってしまう。
「私を……㐮衣を解放して」
最早、㐮衣自身がどう言う言葉を発しているのかが分からなくなってくる。全てが崩壊しているような気分に吐き気が催す。
「お願いだからあ…」
㐮衣には神頼みしかないのかもしれない。
「いいよ、1つだけなら」
「いい……の?」
「うん」
暗かった視界が明るくなる。
まさかこんなにあっさり承諾を貰えてしまうなんて。もう少し時間が掛かるものと考えていたのに。
「さあ、ここに願いを書いて」
目の前にはスケッチブックの白紙のページ。今まで手に離さず持っていたスケッチブックに、こんな使い方が──
私は言われた通りに願い事を書いた。
“ 㐮衣と言う存在ごと消したい“と。
何故か私は自身が消えることを願ったのだ。
好きな人も虚構だった世界に私は存在したくない。㐮衣の全てを裏切った相手を信じて生きたくない。
そう思ってしまったのだ。
「キミ……書いた、よ」
「OK」
スケッチブックを渡すと元好きな人を演じている役者だった相手、協が笑った。
「よし、じゃあ望みを叶えてあげる」
自信ありげに述べる彼の、片手に消しゴムを持っている姿が目に映る──
空無調ホリズライツェ 九に照 @kyuni__myumu
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