魔法少女6


ドリーム・ドレインは今まで夜に活動していた。

理由はこの世界の情報収集だったのだろう。


そのドリームドレインが堂々と名を名乗り、この世界に現れたということは侵略する準備が出来たということ。


日本政府だけではなく、各国の魔法先進国は既に備えをしているが、魔法少女には接触はしないようだ。


接触しない建前では、魔法少女が使っている魔法は別世界の魔法。

地球上にある魔法とは違う為、魔法少女は別の世界の魔法が使えるこの世界の魔法を知らない人物となる。


本当のところは単純にドリーム・ドレインとの戦いの準備が出来ていないからだろう。

この世界の魔力と似たような力、ジェムーは魔力に似ているが細かいところは違うらしい。


それと日本政府は対魔省庁に命令を出し、ドリーム・ドレインの捕獲を命じた。

退魔師の家々の協力もあり、魔魔法少女が見つける前にドリーム・ドレインを数体捕獲。

偵察目的に送られたこの怪物を調査した結果。銃火器、物理攻撃に強い耐性があることが分かった。

それと魔力での攻撃も少しではあるが耐性があった。

ただ、この耐性は個体差なのか、全ての個体に当てはまるのかはデータが少なく分からなかったようだ。

政府は不安要素が多いため、今は準備に専念をし、魔法少女の戦いを静観することを選んだようだな。


とは言え、魔法少女も隠蔽魔法で、この世界に魔法が存在していることが分かるだろうから、出来るだけ早くに接触はする方向で動いているらしい。

あまり放置していると、心証が悪くなるだろうしな。

ある程度社会経験がある大人ならば、政府のそういう部分を割り切れるだろうが。

魔法少女は学生くらいだから、その辺はちょっと難しいだろう。


「さてと、どうするかな」


このまま放置でもいいと思う。直感スキルも反応はしていない。

何かあった時に、フォロー出来るように色々としておいた方がいいか。



――夢の世界



俺が初めて女王プロミアと会う世界は夢の中。

なので世界はある程度、融通が利く。プロミアの住んでいた城だった時もあったし、俺が好きな桜の咲く公園だったこともあった。


今日は俺の家のリビングのテーブルで向かい合って椅子に座っている。

相変わらず、美しい金髪。頭にはティアラのような王冠。純白の気品あるロングドレス。


「魔法少女ダイヤが、【音速のエファース】を撃破したのですか!?」

「ああ、魔法少女ダイヤは結構強かったぞ」

「あの者は多くの戦士を打倒した強敵です。そうですか、これで少しは彼女達の無念は晴れるでしょう」


俺の記憶だと【音速のエファース】は、魔王の部下、四天王より少し弱いくらいの実力者だった。

戦闘で自身が音速を越えられるのはかなりの強さだ。

まあ、自身が音速を越えられなくても、音速を越えてくる敵は倒せるが。


「……武様は、やはり魔法少女ダイヤと共には戦ってはもらえませんか?」

「今日はそのことで少し話しておこうかと思ってな」

「それは?」

「恐らくだが、現時点では魔法少女ダイヤだけで十分だろう」

「ですが、幹部が複数来た場合、魔法少女ダイヤだけでは」

「ああ、それが懸念事項だが」


なんとなーく、新しい仲間とか出て来るか本人が覚醒しそうなんだよね。

そのことを考えると下手に介入するとあまり良くない方に進みそうだからな。


「女王プロミア、貴女が封印したドリーム・ジェムー以外に別次元に逃れたドリーム・ジェムーは複数あるのか?」

「【音速のエファース】が所持していなかったのですよね? でしたら、幹部に奪われる前に身を隠すことが出来たドリーム・ジェムーはある筈です」


ドリーム・ドレインならば、力を利用する為に使うはずです。と女王プロミアは言った。

ドリーム・ドレインは積極的に侵略した世界の技術や道具を使うらしい。


「なら、難を逃れたドリーム・ジェムーが地球に来る可能性は0ではない訳か」

「ですが、そんなに都合よく」

「まあ、だからこそ。女王プロミアにちょっとしたお願いがあって来たんだ」

「それは?」


俺は悩んだが。女王プロミアに提案することにした。

民間人が戦いに巻き込まれた時に忍者として参加すると中々煩そうだ。


だから、忍者ではない姿で参加すればいいと考えた。


「女王プロミア、貴女が所持している【ドリーム・ジェムー】を貸していただけないだろうか?」


俺の言葉に女王プロミアは心の底から驚きの表情を浮かべた。


「あの【ドリーム・ジェムー】女性にしか扱えません」

「ああ、それは分かっている。だが、現状は魔法少女ダイヤへの保険みたいなものだ。だから【ドリーム・ジェムー】を使いたいんだ」

「それはどのように?」

「こうすればいい」


俺は夢の世界と言うことで、勇者をしている時に魔族の街に潜入する時にやったことを思い出す。

人手が足りなくて、酷い目に合ったが。振り返るとアレはあれでバタバタして良い思い出だ。

そして、俺は魔力を操作して肉体に働きかける。


「まあっ」


女王プロミアが思わずッという感じで声を上げる。仕方が無いだろう。

何故なら、今の俺の姿は男の身体が急に顔つきや身体が女のそれに変わったのだから。


「た、武様?」

「【ドリーム・ジェムー】は女性にしか使えない。その女性と言う部分は魂が女性なのか。心が女性なのか。身体が女性なのか。ちょっと確認したい。ちなみに俺は魂も心も身体も男だ。身体だけ女になれば使えるのなら、使わせてほしい」


一時的に身体の性別を変える魔法薬はある。

あちらの世界にも倒錯した性癖の持ち主は大勢いたからな。

後は純粋に性転換を望む者も居た。


「武様、この【ドリーム・ジェムー】は特殊なモノなのです」


女王プロミアは、かなり悩んでそう呟いた。

国宝をまだ十数日しか付き合いのない人間に渡すのはかなり躊躇するだろう。


「武様が使えるのであれば、使ってあげてください」

「感謝する。女王プロミア。最悪の場合でも【ドリーム・ドレイン】は必ず、叩き潰そう」


魔法少女と言う存在が勝てなかった場合。俺は本気で【ドリーム・ドレイン】を潰すつもりだ。

その備えをしておかないとな。


女王プロミアは両手自分の胸の高さまで持ち上げ、何事か呟くと彼女の両手の少し上の辺りで光が収束する。

そして、数秒後現れたのは淡く光る十センチくらいのブリリアントカットだったか? の透明な宝石。


「これは我が国最で初の【ドリーム・ジェムー】と言われています」

「最初の?」

「はい、遥か昔。世界が滅びかけた時に、一人の少女がこの【ドリーム・ジェムー】を持ち現れ、世界を救いました。その後、その少女と仲間達が作り出したのが他の【ドリームジェムー】と言われています」

「今は【ドリーム・ジェムー】は作れないのか?」

「ええ、何時の頃からか技術が失われていました」


うーん、怖いな。もしかして、途中で何かあったな? そして、それを分からないように細工をしたと。


「他の【ドリーム・ジェムー】は普通にお話ししたりすることが多いのですが。この【ドリーム・ジェムー】は無口です。名前もその都度変わりますので、新しい名前を付けてあげてください」

「分かった」


俺は女王プロミアの両手の上にある【ドリーム・ジェムー】を取ろうとすると。【ドリーム・ジェムー】から、魔力。いや、ジェムーが放出された。

女王プロミアの方には圧力が行かないように操作しているということは、やはり自我があるんだな。


「そよ風だな」


俺の言葉に更にジェムーの放出を行うが。


「力を貸してくれないか? 嫌なら、別にいいから」


その言葉の数秒後、【ドリーム・ジェムー】からの、ジェムーによる圧力は無くなった。

俺は右手で【ドリーム・ジェムー】を受け取る。


「凄い。本当に極稀使い手が現れる【ドリーム・ジェムー」をこんなに短時間で認めさせるとは」

「凄いのか?」

「前任者は候補となり、一年かけて認められました」

「一年か」


【ドリーム・ジェムー】が、素質がある人を指名して、一年かけて自分を扱えるように鍛え上げたってところかな。

それに【音速のエファース】の力を見ると女王プロミアの世界に居た戦士達はそこまでステータスが高くなかったのだろうな。


「とりあえず、もしもの時は。この【ドリーム・ジェムー】を使って介入することにしよう」

「はい、お願いいたします。それと名前を付けてあげてください」

「名前? 分かった」


魔法少女がダイヤと名乗っているから俺も宝石系の方がいいか?

そう思いながら、受け取った。このジェムーは何と言う宝石なんだろうか?


「女王プロミア。このジェムーはダイヤモンドなのか? それとも水晶なのか?」

「分かりません。持つ者によって外見まで変わりますから」

「そうなのか?」

「はい、これを受け取る時は赤みのあるジェムーでした。ですが、今は最初の状態となっております」

「ふーむ、俺が持っても変化しないところをみると、力は貸すが所有者ではないってところか?」


俺がそう呟くと突然、幼い女の子の声が聞こえた。


『そうよ』

「「!?」」


俺と女王プロミアが驚くと幼い少女の声はさらに聞こえる。


『貴方のことはまだ良く分からないわ。人の身でありながら、魂をそこまで強大になるなんて』

「分かるのか?」

『ええ、分かるわ。けど、全てではない。でも、信じることにしたわ』

「何故だ?」


俺の問いに【ドリーム・ジェムー】はこう告げた。


『貴方が勇気ある者だからよ』


バレてるかな? うん、これ鑑定したけど、チートスキルでも詳しいことは分からないくらい、古くて力のある存在だな。

仮に戦っても、俺なら破壊できるが面倒くさいことになるな。


「分かった。力を貸してくれ。ええっと、名前は……」


いくつか候補を考えるが、物騒なモノばかりだ。どうしようかな。ダイヤモンドが一番近い見栄えだけれど。

ああ、少し青みが掛かっているな。うーんサファイアはそのままだし。

いや、緑っぽい部分も。ああ、混ざり合って宝石と言うよりは……。


「テラでどうだ?」

『テラ?』

「ああ、地球。この星の名前だ。惑星のように美しい宝石ってことで」

『ストレートな名前ですね』

「ぐっ、そうだな」


ネーミングセンス無いんだよ俺は。正直、このジェムーに内包されている力のことを考えると地球を滅亡させることが出来る隕石、メテオとか考えたけれど。

流石に止めておく。


『では、貴方の中に入ります』

「ああ、いいぞ。と言うかその方法じゃないと、俺の所に来れないだろうな」


どうやらテラは元々物質として存在していないようだ。

純粋な力の塊と言うべきか。

だから、女王プレミアと俺の夢の世界を通じて、俺と接触ができる。今までは女王プロミアの体の中で眠りについていたのだろうな。


光の粒子となり、俺の体の中に入って来るテラ。


「では、女王プロミア。そろそろ行こうと思う」

「はい、その。お願いいたします」

「分かっている」

「はい、御武運を」


やはり、心配なのだろう。

まあ、今は信じてもらうしかないな。

それに、テラがあれば女王プロミアの座標が更に早く分かるかもしれない。


これからも、まだまだ忙しいだろうな。


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異世界で邪神を倒して帰ってきたら、地球も意外とファンタジー アイビー @karumia4

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