魔法少女5
休日、俺とアンネ、縁眼さん、麻山の四人で買い物に出かけることになった。
ここ最近、魔法少女の一件があったとはいえ、平和でアンネ達と穏やかな時間を過ごしていた。
街に出るので、アンネは姿を変える魔法道具を身に着けて、影ではこっそりと護衛もしっかりといる状態ではあるが。
俺の家から少し遠出して、普段いかないショッピングモールへ来たのだが。
その選択肢は間違えていたことを昼食を食べようかと反している時に知ることになった。
「日本って意外にファンタジーだよな。アレを見ていると」
「そうね」
「そうですね」
「そうっすね」
俺の言葉にアンネ、縁眼さん、麻山の三人は同意してくれる。
俺達の視線の先、ショッピングモール専用の広い駐車場の真ん中あたりで、件の魔法少女がドリーム・ドレインという組織の幹部。【音速のエファース】と名乗った全身機械のようで、戦闘機が人型に変形したらこんな感じというような、身体の敵と対峙している。
アンネと麻山の提案で、色々な店を見て回っている地中で外から爆発音。
勇者になる前ならパニックを起こしながら逃げていたかもしれないが。
念の為に外に出て状況を確認したら、ドリーム・ドレインの幹部が周囲の車を適当に爆破して、名乗りを上げていた。
幸いなの人質を取っていないところだろうか。
そして、数分後。白いフリルが多めのミニスカドレスのまさに魔法少女の主人公と言える容姿の少女が空から降り立った。
機械の雑魚戦闘員っぽいのが、周囲に展開されてショッピングモールの客たちを逃げないように包囲しているが。
俺は特に何もしない。理由は俺が介入する必要が無いと直感スキルで感じたからだ。
結構馬鹿に出来ない、直感スキル。
一応、俺も予知系のスキルもあるが、直感スキルに比べると使い勝手が良くないので使わない。
断片的な未来の情報は逆に悪い結果を引き寄せることにもある。
「でも、これどうするんですか? 武先輩」
軽く現実逃避をしていると麻山にそう言われてしまい、俺はどうしようかと考えているとアンネがこう言った。
「手出し無用よ。忘れたの? こういう時の計画を」
「ああ、隠蔽の」
恐らく、そろそろ日本政府の大規模な隠蔽魔法が使われるはずだ。
魔法少女とドリームドレイン側にこの世界にも魔法があると知られてしまうだろうが。
一般人に魔法と言う存在を知られるよりはマシと判断するだろうな。
いや、魔法少女の戦いが終わった後に時間をかけて隠蔽をするつもりかな?
この戦いも映画の撮影だと日本人は思うだろう。
と言うか、既に俺のスマホがネットに繋がらない。俺がスマホを見たことで麻山もスマホを確認している。
本当に危なくなったら、介入はするが。
「あ、始まったな」
「ええ、お手並み拝見」
さて、女王プロミアの話だとダイヤモンドだと思われるドリームジェムは、万能とも言える力があるらしい。
能力に特化していないが熟練の戦士が所有者になると最強だとか。
『行くわよ! 【音速のエファース】!』
『来い! 魔法少女ダイヤ!』
音速のエファースは魔法少女ダイヤに先手を譲ったようだ。
魔法少女ダイヤは一メートルくらいの先端にリンゴほどの大きさのダイヤモンドが飾られたロッドを虚空から出現させる。
そして、左手で杖を持ち、
「ん? 左手で杖を握る?」
「どうしたの武?」
「いや、何でもない」
先端を音速のエファース向けると魔法少女ダイヤは叫んだ。
『ダイヤモンド・フラーッシュ!』
『ぬっ!?』
杖の先端ダイヤモンドから拡散された虹色の魔力のビームが豪雨のように音速のエファースとその後ろに居た機械の雑魚戦闘員に降り注いだ。
「うわ、命中率悪そうに見えて、魔力ビームの密度が多いから凶悪ね」
「それに、あの威力。かなりではなく、凄い魔力量ですね。武様には敵いませんが」
「小夜子、比べる相手が悪すぎるわ」
「そうですね」
「わ~、綺麗ですね。先輩」
「うん、仕方が無いとはいえ。近くに合った車も吹き飛んでるな。あ、あのファミリーカーって最近発売された新しい車か? 新車なのに」
俺達は余裕をもって、魔法少女の戦いを観戦する。
俺達から少し離れた場所に居る一般人達はパニックだ。機械の雑魚戦闘員は逃げようとする一般人達を取り押さえ、一ヶ所に集めているようだが。逃げない一般人は放置しているようだな。
『小癪な!』
音速のエファースはそう叫ぶとその場でジャンプをして空中で両手を魔法少女ダイヤに向ける。
『食らえ!』
音速のエファースの腕が変形して銃器のようになり。
ダンッ! ダンッ! と魔力によく似たジェムーの弾丸が発射される。
当然、狙いは魔法少女ダイヤだ。
魔法少女ダイヤは即座に、スケートをしているように滑るように後ろに下がり、今度は単発の魔法ビームを発射する。
それも一度や二度ではなく。連続で。
「魔法少女ダイヤは、戦い方が上手いな」
「はい、これまでの戦いの痕跡から恐らく武道などはやったことが無いと報告されていましたが、これは」
「え、戦い方が上手なんですか? ただ、遠距離攻撃をし合っているだけじゃないんですか」
「ああ、魔法少女ダイヤはてっきり、直ぐに音速のエファースに殴りかかると思ったんだ」
「え、流石にそれは、魔法少女ですよ?」
「俺も最近変身ヒロインのアニメを見てないから分からないが。一昔前の戦う変身ヒーローって、肉弾戦が主な戦い方じゃなかったか?」
俺の言葉にアニメを見ない縁眼さんは分かりませんと首を横に振り。
オタクのアンネはそうね。と頷く。麻山もそういえば、そんな気がと呟く。
「敵の音速のエファースはまだ本気を出していないが、それでも開幕に威力と命中率が高めの拡散魔力のビームで敵を攻撃して、雑魚を蹴散らした。これで、うっとおしい雑魚に邪魔されることはない。更にそこから音速のエファースが直ぐに飛んだことを察して音速のエファースが攻撃前に移動を開始し。バックステップではなく。地面を滑るように移動しているが。ふむ、実際は数センチ浮きながら移動しているようだな」
「横に滑りながら、魔法で攻撃するのって、かなり集中力が必要よアレ」
アンネの言葉に頷く俺。
同時に複数のことを魔力、魔法少女だからジェムーだったか。を使ってやるのは難易度が高い。
「更に、魔力ビームを闇雲に発射せずに、牽制と本命の攻撃があるな。まだまだ、狙いとか敵の回避方向の誘導とかは甘いが」
右へ移動しながら回避したいけれど、左へ移動しながら攻撃が当たる位置に魔力ビームを発射している。
何だろう。なんか、引っ掛かるな。昔、どこかであんな感じで攻撃された気が?
「それと、魔力ビームを撃つ時に威力の調整をしているな」
魔力の収束がまだ甘いが。当たればかなりのダメージになる一撃もしっかりと考えて発射している。
「お、次はマシンガンのように連射になったな。お互いに」
「そうね。けれど。上を取られた魔法少女の方が不利ね」
俺の言葉に頷きながら、アンネは少し心配そうに魔法少女を見詰める。
「え、負けそうなんですか?」
「麻山、前にも言ったが上を取られると普通は不利なんだ」
空中から、下へ攻撃しやすい。だが、地上から上を攻撃するのは難しいんだよな。
「とは言え、何も備えがしていないわけではないと思うが」
と思っていると、魔法少女が右手を振って虚空から何かを引っ張り出した。
まず最初に目についたのは真っ白な腕のような鉄の部品。そして、胴体と言って良いのか微妙だが細い金属パーツがあり、下の部分にはキャタピラ。
色は真っ白だが、魔法少女の隣に出現するとすげぇ違和感のある物。
それは。
「対空戦闘車両?」
大量の魔力の弾丸とビームが発射されて、周囲にけたたましい発射音が鳴り響く。
俺はスキルや魔力による肉体強化で平気なのに、突然のことで思わず反射的に耳を塞いだ。
「う、うるさっ」
「耳がぁっ」
アンネがそう叫び。麻山が悲鳴を上げる。
縁眼さんは冷静にみみをちょっと塞ぎながら、魔力で耳を保護している。
「あの車両、的確に音速のエファースを攻撃しているな」
「え、じゃあ、音速のエファースってのが負けるんですか?」
「いや、そう言うわけではないな」
麻山に保護魔法、一言で言えばバリアを掛けてやる。
説明する前に、音速のエファースが背中から、ミサイルのようなものが発射されて、直ぐにミサイルのようなもので対空戦闘車両のようなものは一撃で粉砕された。
「やっぱり、直ぐに破壊されたか」
まあ、一対一の戦いで敵が出してきた雑魚は真っ先に潰すよな。
と思っていたのだが。
「ど、同時に五機も取り出したわよ!? あの魔法少女」
「あの武様、あれって魔力と恐らく何かを使って産み出されていますね」
アンネが驚き、対空戦闘車両を視た縁眼さんが俺に教えてくれる。
「もしかして、事前に大量に準備していれば、在庫がなくなるまで取り出せるってことか?」
「恐らくは」
他人がインベントリ、それに類似するものを使っているのを見るとちょっと怖いな。
俺もRPGのゲームをしていたから、ボスとかの前まで来ると無意味に必要以上の回復アイテムとか集めてからボスに挑む。
恐らく、魔法少女ダイヤも似たような考えなのかもしれないな。
まだ、他に仲間も居ないようだし。その状態で何時強い敵が来るか分からない状態で、日々を生きないといけない。
最近まで普通の女の子がだ。
「あ、またあの車が破壊された。と思ったら更に取り出しましたよ!?」
「凄いな。一機破壊されたら、更に五機出してくるとか、ゲームなら、地獄なんだけど」
ボス戦の雑魚敵の増援は本当に大変だ。けれど、なーんか気になる戦い方だな。
昔、似たような戦い方を勇者仲間がしていたような?
そう思っていると戦いに動きがあった。
いい加減に頭にきたのだろう。音速のエファースが全身から銃やミサイルを生み出して一斉に発射した。
ドンドン数を増やしていた対空戦闘車両と魔法少女ダイヤへ向かって殺到する弾丸とミサイル。
『ダイヤモンドシールド!』
魔法少女ダイヤは音速のエファースの攻撃を正面から受ける。
魔法少女ダイヤは数秒、攻撃に耐えていたが、それに耐えきれずに吹き飛ばされた。
『きゃあああああっ』
「あっ」
「やられちゃいましたよ!?」
「これは」
驚くアンネと焦る麻山。そして、気が付いた縁眼さん。
うん、これは大丈夫だな。
『なかなか手こずらせてくれたな』
二十メートルくらい吹き飛ばされて、うつ伏せで倒れる魔法少女ダイヤに音速のエファースはそう言うと空をさらに飛んで、こう叫んだ。
『この一撃で終わらせる!』
弱った敵へトドメの一撃。急降下攻撃しようとしているようだ。
うーん、遠距離攻撃で撃てばいいのに。それをしないのは武人系だまアイツ。
音速のエファースの右腕は鋭いブレードのようになり、トドメの一撃を行うために振りかぶる。
「これは勝ったな」
「そのようですね」
「え、どういうことですか?」
「あ、もしかして、ダメージが?」
「はい?」
俺と縁眼さんの言葉に、首を傾げる麻山。そして、少し遅れて気が付いたアンネが呟く。
「大きなダメージを受けて吹き飛ばされたように見えたけれど。違う」
アンネの言葉と同時に音速の名に恥ずかしくない速度で、どうにか立ち上がろうと、左手で杖を握る片膝立ちとなった魔法少女ダイヤへ迫る音速のエファース。
本当に一瞬の出来事。
周りの一般人達から、危ないとかああっ、と言う悲鳴が上がる。
そして、トドメの一撃が放たれた。
『ダイヤ流剣術、金剛切りいぃっ!!!』
一瞬、魔法少女ダイヤの顔が劇画調になった気がしたけれど、トドメを刺そうと油断していた音速のエファースの一撃が届く前に魔法少女ダイヤの左手に持っていた仕込み杖から抜き放たれた刃の一閃で音速のエファースは頭から一刀両断にされた。
『ま、まさか、この私がっ! 主様ああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!』
最後にそう叫んで、音速のエファースは爆散した。
「ま、魔法少女なのに居合切りをした?」
「武先輩、一瞬あの魔法少女、魔法少女がしちゃいけない顔をしていたように見えたんですけど」
「気のせいだ」
頬を引きつかせるアンネに、ドン引きしながら俺にそんなことを聞いてくる麻山。
縁眼さんは魔法少女がどんなものか分からないから、何も言わない。
「じゃ、帰るか」
「「「え?」」」
何事もなかったかのように帰ろうとする俺に驚く三人。
いや、だって、ここに居ても面倒なことにしかならないし。
今は魔法少女ダイヤがやっているのって、幹部が倒されて右往左往している敵の残党狩りだし。
魔法少女が、仕込み刀片手に逃げ惑う雑魚戦闘員をバッサバッサ切り倒している姿を見続けたいか?
「えっと、もしかして、あの雑魚的っぽいのって自力では帰れない?」
「いや、どうだろう? あ、何人か姿消え始めたから、独自でワープして逃げ出したな」
アンネの言葉にそう答える俺。
うーん、あの戦闘員は逃げ帰っても無事なんだろうか? 敵前逃亡とか? ま、関係ないか。
ってか、本当にあの魔法少女ダイヤは容赦なく敵を切り捨てているな。
でも、まだまだ詰めが甘いな。
敵の幹部の音速のエファース。人型ではあるが機械系の生命体。人間なら身体を真っ二つにすれば死ぬだろう。
「さて、まだまだ続きそうだな」
俺は音速のエファースの残骸を、見てみぬふりをした。
既に猫サイズの機械がエファースの残骸から何かを取り出して直ぐに虚空に消えた。
縁眼さんも気づいたのか一度俺を心配そうに見つめてきたが、俺がしっかりと縁眼さんの眼を見て大丈夫だと頷くと、縁眼さんはホッとしたのような表情になった。
とりあえず、備えだけはしておこう。
それと女王プロミアにも、今日のことは教えておこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます