命のなり損ない

 自分自身のクローン(それも失敗作の)を部屋に匿うことになった人のお話。

 ほとんどホラーのような絵面が最高に素敵なSF掌編です。

 父親が生み出した、可愛い我が子(=子たる主人公からすれば自分自身)の生物的な複製。
 人間のクローンを平気で作っちゃうところも問題なら、その動機が「いろいろあって訣別したからその代用を」というのも最低で、とにかくこの倫理観のなさが本当にひどくて素敵。
 そりゃ見限られちゃうよお父さん……。

 とはいえ、このお話においてなにより異彩を放っているのは、やはりそのクローンの存在そのもの。
 失敗作とはいうものの、本当にその失敗ぶりが凄まじい。
 一応生きてはいるものの、でも多少の衝撃で即ぐずぐずに自壊する。本当に文字通りの〝とろけたにく〟が、でも部屋の中でまでギリギリ生きている——それも、姿形はまったく主人公と同じままで——という、もう、この、何?
 なんとも冒涜的というか残酷というか、この地獄みたいな絵面がもう大好きです。

 やわな常識や良識をはるかにぶっちぎった先にある、なんらかの決意や覚悟のようなもの(もちろんお父さんがではなく主人公の)が素敵なお話でした。