とろけたにく

292ki

罪深き

我々はとっくの昔に相互理解を諦め、互いの道を違えることを了承した。

例え、血の繋がりを断つことの出来ぬ親子とは言っても我々は他人なのだと明言し、納得した。そのはずだ。

「失敗したんだ」

失敗。父の言葉を口の中で転がす。これが甘味ならどれほど良かっただろうか。噛んでも舐めても苦味しか感じられない後悔の単語を口になどしたくはなかった。

失敗。親子の縁を切った息子を頼るほど切羽詰まった状況を作り出した失敗。

それ即ち、人理に背き、倫理に背き、大義に背き、大衆に背く罪。

絶対にやっちゃいけないこと。

嫌でも視界に入るのは蠢く肉塊。

親父が青白い顔で目を逸らしながら罪を告白した。

「お前のクローン、作って失敗しちゃったんだ」

俺は親父の顔面に一発、ノーモーションで拳を入れた。何かが潰れる感触があったが、多分お互い気にすることはなかった。気にするくらいならこんな闇案件を持ち込むな。

人生は波乱万丈で、現実は小説より奇なり。

脳髄までマッドな血縁者を持つと苦労する。

「………………どうすんだよ」

「……どうしよう」

俺は思わず天を仰いだ。天に召します我らが神もこの惨状は目を逸らして見ないことにするだろう。

親父と俺の目の前でウゴウゴと必死に動く「ソレ」の見た目はどう見ても「俺」なのだけれど、体は人なんて到底名乗れないほどとろけて柔らかい流動系の肉で出来ている。

ああ、我が父は何と哀れな生命体を無責任にもこの世界に生み出したもうたのか。

動くだけで自壊する肉を持ったクローン生命体など、間違えても絶対に作ってはいけないだろうに。

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