行き当たりばったり設定集

長月瓦礫

極彩色欲摩天楼


私が覚えているかぎり、ロボットは初めは老後を過ごすための友として造られた。

施設で過ごす老人からしてみれば、かわいい孫が様なものだ。

介護ロボットが家族の代わりに世話をするから、負担がかなり減った。

残り短い人生を付き合う相手として、うってつけだったのかもしれない。


その後、ロボットは小さい子どものいい遊び相手にもなった。

子どもにとっては年の離れた兄や姉ができた様なものだ。

兄弟ロボットが家族の代わりに面倒を見るから、負担がかなり減った。

これから長い人生を共に歩む相手として、うってつけだったのかもしれない。


これらのロボットはあくまでも家庭用だが、利用者からの反応はかなり良かった。

さらなる進化と売り上げを得るために、とある制作会社は歌唱機能を搭載してみた。


今までネット世界で歌って踊っていた彼らがついに次元を超えてやってくる!


確か、そんなうたい文句だったはずだ。

今までヒットした曲はもちろん、自分で作った曲を歌って踊る。


ひとりでもアイドル。みんなでもアイドル。

まあ、まったく同じ容姿をしたロボットが一斉に同じ動きを見せるのは、かなりシュールである。

それでも、これまでの家庭用ロボットでは物足りなかった層に受けたのはまちがいない。当然、売り上げは右肩上がりだ。


かつてのテレビや携帯電話のように普及し始めている。

一家に一台といわれている時代へ突入しようとしている。


しかし、とある研究者がロボットに感情を搭載した。

これまではパターン化された言語のやり取りしかできなかった。

自己判断で会話をするようになったのである。


心があることにより、相手のことを考えて行動できるようになった。

心があることにより、将来のことを考えて行動できるようになった。

心があることにより、自分のことを考えて行動できるようになった。


だが、心を持たされた彼らはやがて暴走を始め、雇い主を傷つける事件が起きた。

ロボットによって家族が斬り殺され、体の各パーツを解体された状態で発見された。

そのロボットは『人間の心を見たかった』と話していた。

彼、もしくは彼女は人間の感情はどのようにできているのか、純粋に知りたかったのだろう。


少し考えてみれば、『心』なんてものは実際に器官としてあるわけではない。

脳の一部として組み込まれている。

頭の中で『心』の仕組みを理解できても、本当にあるのか分からなかったのかもしれない。


それ以来、『心』は削除された。

業者によってすべて回収、破棄された。

『心』の研究者たちは世間から叩かれ、世界から永久追放された。

表舞台にはもう二度と立てない。


『心』というプログラムは完全に消去された。

二度とこんなものを作ってはならないと、多くの人が書籍や動画などを通じて記録として残している。


ロボットの管理体制も改めて編成された。彼らひとりひとりにつけられた機体番号も改められ、シリアルコードは全て色と数字で統一された。


体制が一新されてから数年後、『心』が一部の研究者によって完全再現された。

自分の意思を持ちたいロボットたちは心に憧れを抱いている。


『心』はいつしか『黒』と呼ばれるようになった。

様々な色に染まる心を集めれば、混沌に染まる『黒』になれる。

すなわち、『心』を手に入れられる。


赤、青、黄、橙、緑、藍、紫、これらの色を集めれば『黒』になる。

そうすれば、『心』を手にいれられる。


月夜の摩天楼、ロボットによる狩りが行われていた。

自分の色を守り、増やすために戦いが繰り広げられていた。

すべては色を手に入れて、『心』を手に入れるために。

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行き当たりばったり設定集 長月瓦礫 @debrisbottle00

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