エピローグ やっぱり僕は出来ないけど、君が好き。

 またその時がやってきた。

 香奈の誕生日。

 僕の部屋で細やかだけどパーティーをした。

 サプライズというものがどうも苦手な僕だったけれど、今回は僕なりに力を入れて準備をした。

 誕生日の前日、僕は部屋を飾り付けして、ケーキも予約済み。

 プレゼントも香奈が前から欲しがっていた、アクセサリーやTシャツを用意した。

 そして今日、学校が終わると香奈に、

「三十分後に、学校を出て」

 とだけ、言い残してケーキを受け取りに行った。

 多分、いや、確実にサプライズはバレバレかもしれないけど、僕なりには精一杯頑張ったと思う。

 ケーキを受け取り自宅に帰ってケーキを冷蔵庫に一時保存しようと、リビングに向かうと母さんがいなかった。パートに出ているのだろう。

 そのまま冷蔵庫の前まで向かうと、ウチには冷蔵庫にマグネット式の小さなホワイトボードが張り付けてある。

 そこに、


『今日はお父さんもお母さんも帰りが遅くなる。夕飯は冷蔵庫にあるから、レンジでチンして適当に食べてね』

 と書かれていた。

 不覚にもケーキを落としそうになった。

 来てしまった。

 しかも、彼女の誕生日。

 サプライズ(多分、バレてる)。

 プレゼントにケーキ。

 色んな意味で、準備が万端になってしまった。

 ウチのチャイムが鳴る。

 きっと、香奈だ。

 僕は慌てて、ケーキを冷蔵庫にしまって玄関に向かった。



 そして僕の思った通り、そういう場面になった。

 飾り付けにも喜んでくれて、準備していたケーキも一緒に食べて、香奈にプレゼントを渡したらとても喜んでくれた。

 その姿を見れるだけで十分嬉しかった。

 香奈は抱き付いてきて、口づけをした。

 僕もそれに応えて、彼女を抱きしめてそのまま、優しく愛撫した。

 お互いにベッドに入り込み、ただただ求め合う様に口づけや愛撫を交わす。

 そしていよいよ、それ、、を迎える時だ。

 大好きな人と身体を重ねる、そういう瞬間だった。

 あまりにも気持ちが高ぶり過ぎてしまったのか、それとも興奮しすぎて緊張してしまったのか、やっぱり出来なかった。

 僕の気持ちは前とは違い、すぐに準備だって心持ちだって出来ていた。

 やっと……この日が来た、と思ったのに。

「また落ち込んでいる?」

 香奈は僕の腕に絡んでくる。

 小さく揺れる乳房が腕に伝わってくる。

 どんどん、身体が熱くなる。

「ゆっくりでいいよ。わたしは全然気にしていないから」

 香奈は僕の頬に口づけした。

 結局また駄目だったけど、心は何故だか十分に満たされていた。

 香奈の言う通りだ。

 僕は僕を肯定しながら、ゆっくりと進んでいけばいいんだ。

 焦る必要なんかない。

 香奈の言葉に安心する僕。

 僕らはずっと、抱きしめ合った。

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僕は出来ない。 葛原詩賦 @Shihikuzuhara

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