「おい、なんでお前がここにいるんだ……?」

 この世界には魔法(Morモレ)が存在している。


 読者の皆には想像しがたいかもしれないが、酸素が反応を起こせば化学反応で火がともるように、空気中に存在する魔素(Elemuhエレムー)を操ることで様々な魔法反応を起こすことができるのである。

 人間が意図的に魔法反応を引き起こすことを、一般的には「魔法を使う」という。

 しかし、ほとんどの人間にはそもそも魔法を使うことはできない。そして、魔法にも系統があり、基本的には1人の魔法使いは1つの系統の魔法しか使うことができない。


 その人が魔法を使えるのか、どの系統の魔法が使えるのか、というのは髪の毛を見ればすぐに判別ができる。

 基本的には皆、黒髪か金髪がベースである。黒か金とは、その人間が闇属性と光属性どちらに適性があるかを示しているのだが、後に説明する属性色が入ってない者はそもそも魔素を感知することができない。9割の人は純粋な黒髪か金髪をしており、つまりは魔法を使うことができない。

 属性色とは系統を表す色であり、魔法を上手く、強く扱える者は髪の毛にその色が強く発色する。魔法使いの中でも半分以上は軽く色を帯びる程度なのだが、世の中には完全に属性色に染まっている強者も存在している。


 ちなみに、この作品の主人公セルは魔法の才能を発現したと同時に真っ白な髪色へと変化している。

 白、という属性色は存在していないが、あえて言うとするならば――


、ということである。




──────────


-アグロンド歴463年(聖歴1033年)11月-


「なんというか……凄いね君は」

「別に大したことはしてねぇよ」

「ううん、大したことだよ。だってウィークスロッドへの推薦状を書いてもらえたんだろう?」


 学院の腫物となっているセルにも実は友人が1人だけいる。寮で同じ部屋に寝泊まりする黒髪の少年Akroアクロだ。

 今は2人で学院本館から下校の最中である。


「院長センセを脅してやったぜ」

「セル……それはそんなドヤ顔で言うことではない気がするなあ」

「んだよ、せっかく褒められたから喜んでやったのに」

「あはは、ごめんごめん」


 ムスッと顔を顰めるセルに対して笑いながら雑に謝るアクロ。軽口を叩き会えるのは8年間の積み重ねがあるからこそだ。今のところセルがここまで心を開いている同級生はアクロしかいない。


「んで、お前は結局どーすんだよ。一応進学だったよな?」

「うん、まあ、そうだよ」


 寮の部屋の前までたどり着いた2人。扉を開けつつなんとなしに質問したセルに、アクロは曖昧な笑みを浮かべながら答える。


「受けるとこは決めたのか」

「ある程度はねー」

「なんだよ適当だな……そんなんじゃ落ちるぞ」


 呆れ顔になったセルに対して、厚手の上着を脱いだアクロはあははと笑った。


「強硬策で推薦状を手に入れた君にはそう見えるかあ」

「うるせえ」


 彼らは適当なことを言いながらも机に座り、それぞれペンを動かし始める。学院から帰ったばっかりだというのに、2人は自主的に勉強を始めたのだ。

 どちらも昔から勉強熱心だったわけではないが、進路の話が具体性を帯びていく中でどちらからともなく帰宅後は机に向かうようになっていた。


「お前、何か分かんねえとこあったら聞けよ」

「君こそ、敬語のお勉強がしたかったら僕に聞くといいよ」

「ああもう、本っ当にうぜえ」

「あはは」


 季節は秋も後半、紅葉が終わり北風が茶色くなった葉っぱを落とす頃である。

 進学を希望しない大多数の生徒がいつも通り寮の庭で遊んでいるのを横目に、彼らは稀に軽口を叩きあいながらも受験勉強に励むのであった。




──────────


-アグロンド歴464年(聖歴1034年)9月-


 勉強漬けの冬はとうに過ぎ、春、夏を経て、入学シーズンの秋がやってきた。最近できた駅のホームを心地よい風が抜けていく。

 王都方面行きの特急列車が止まる3番のりばにて、セルは驚愕のあまり声をあげた。


「おい、なんでお前がここにいるんだ……?」

「それはもちろん、僕もウィークスロッドに向かうからだよ」


 4月に行われた試験に無事合格したことでウィークスロッドへの入学が決まったセルは、8月の初等学院卒業後に孤児院へと1ヶ月ほど里帰りした後、遂にかの地へ向かう列車に乗るため北東州の中央駅に来ていた。

 しかしまさか、彼が乗る予定のその列車の窓からあのアクロがニコニコしながら手を振ってくるとは思っていなかっただろう。


「入学……? お前、まさか!」

「まあ君と違って推薦ではないんだけどね。実は僕もウィークスロッドに受かっていたのでした」


 衝撃の事実に開いた口が塞がらないセル。一方のアクロはしてやったりといった表情だ。


「おい、卒業式の後のあの感動的な別れは何だったんだよ」

「いや、ほら、同じ学校に行くとしてもまた会えるとは限らないじゃないか。めちゃくちゃ広かったし」

「だとしても! 教えてくれたっていいじゃねぇか」

「だって、教えてしまったら君のその顔が見れないじゃないか。……本当は入学式でバラす予定だったんだけどね」

「会う気マンマンじゃねぇかよ適当なこと言いやがって!!」


 徐々に感情が驚きから怒りへと変わっていき、顔を真っ赤にしながらツッコミを入れるセル。

 そんな時、まるで彼の怒りに合わせるかのように、止まっていた汽車はプオーと汽笛を鳴らした。


「そろそろ発車するみたいだ。乗らなくてもいいのかい?」

「お前……覚えてろよ」

「分かっているとは思うけど、ここは一等車だから君は乗れないよ? 四等車は向こうだ」

「切符は学院から貰ってんだよバーカ、俺が乗るのは二等車だ。向こうの駅に着いたら覚悟しとけバーカバーカ」


 ドッキリが上手くきまって満足げなアクロと、今にも怒りで爆発しそうなセル。彼らはこうして仲良く(?)故郷の地を後にしたのであった。

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Draidzuri Nue-sturia ――唯一神の使徒、千年後に生き返る ガーレ @tunamayotakky

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