夢越者~Dream Traveler~

@sha4a

第1話 いつもの日常

 ピ、ピ、ピ

 ピピピ、ピピピ、ピピピ

 ピピピピピピピピピピピピピピ・・・・



「ん…んん……」


 枕元に置いた目覚まし時計のアラームが響き渡る中、俺はベットの上で芋虫のように丸まって頭から布団をかぶった。

 閉じたカーテンの隙間からは眩い朝日が差し込んで部屋の中を一部照らしている。


 ドタドタドタドタ!!

 1階からものすごい勢いで階段を上がる音が聞こえる。


「おにーちゃん!!朝だよ、起きて!!!

 もう!新学期早々遅刻しても知らないんだからね!!!」


 部屋の扉をノックもせずに開けて入ってきたのは、妹の由芽だ。

 くりくりな大きな目が特徴的な美少女で腰ぐらいまである長い黒髪をツインテールにしている。

 黙っていればかわいくて自慢の妹なんだが、いかんせん中学校に上がったころから急に俺に厳しく当たるようになってきた。

 本人曰く、共働きで忙しい両親に代わってだらしないおにーちゃんの面倒をみているらしいのだが、朝一で耳元で大きい声は出さないでほしい。

 あーあ、人がせっかく気持ちいい夢を見てたっていうのに完全に目が覚めてしまった。

 あれ?そういえば今日の夢はなんだかいつもと様子が違かったような気がする。うーん、なんだっけ?うまく思い出せないなぁ…まあ、いっか。


「おにーちゃん!!」

「んん…分かった、今起きるから。あんまり大声ださないで…」


 若干ガンガンする頭を押さえながらベットから出て、由芽と一緒に一階に降りてリビングに入るとすでに、両親が朝食を終えて仕事に出ていくところだった。


「あ、おはよう叶。お母さんもう出るから後はよろしくね。

 今日は早く帰ってこれると思うから、晩御飯は一緒に食べましょうね。」


 うちの両親は共働きで同じ会社に勤めている。

 最近は繁忙期みたいで朝早いみたいだけど、まぁいつものことだ。

 朝食を由芽と一緒に食べて、皿洗いをしてから学校に行く支度をする。

 小学校のときから変わらない我が家の朝のルーティーンだ。


「おはよう、叶くん、由芽ちゃん。今日は午後から雨みたいだから傘持った方がいいよ。」


 いつも通りの時間に家を出ると、玄関の前の道路で幼馴染の亜美が待っていた。

 家が隣通しってことで保育園の時からの仲で家族ぐるみの付き合いもある。由芽とはタイプが違って清楚な雰囲気をまとった美少女で、成績優秀な優等生タイプのしっかりものである。

 しかし、今日はいつも肩下ぐらいまで降ろしている髪を三つ編みにして頭の後ろでまとめていた。


「おはよう、亜美。あれ?髪型変えたんだ。大人っぽい感じで似合ってるね。」

「あ、ありがとう叶くん。新学期だからがんばっておしゃれしちゃった。か、叶くんは今日もカッコいいね…(小声)」


 俺が亜美の髪型を見て、感想を言うともじもじと顔を赤めて顔を背かれてしまった。

 しまった。もっとちゃんと褒めた方がよかっただろうか?

 最後のほうは小声で良く聞こえなかったんだけどなんて言ったんだろう??


「んー-!!もう!おにーちゃんもおねーちゃんも早くしないと学校遅刻しちゃうよ!!」


 そんな様子を見ていた由芽がなんだか拗ねたように可愛らしくほほを膨らませて、さっさと学校にいってしまった。なんであんなに不機嫌なんだ?

 そうこう言ってるうちに本当に時間が危なくなってきたな。そろそろ俺たちも学校に急ぐとしよう。

 今日は4月1日。いわゆる新学期初日だ。

 俺と亜美は高校1年生に由芽は中学2年生になった。


「初登校日ってなんだか緊張しちゃうね。でも叶くんと同じクラスで良かった。」

「そうだね、同じ中学からの知り合いも何人か居るみたいだけどほとんど知らない人たちだからね。お互い友達たくさん作れるように頑張ろうぜ。」


 すでに高校の入学式は済ませていて、俺たち2人は同じ教室へと向かった。



 その日一日は特に何事もなく終わった。

 まぁ、登校日初日だったしあまり友達グループも出来上がってないからこんなもんだろう。

 俺も今日一日で少し仲良くなった席の近い人たちと軽くさようならをして帰る準備をしていると少し離れたところから亜美の声が聞こえた。


「ねえねえ、山上さんこのあと暇?よかったら一緒に駅前に新しくオープンしたドーナツ屋さん一緒にいかない?」

「あ、あの,,,ごめんなさい。今日はちょっと予定があって…」


 どうやら亜美がクラスの男子から放課後遊びに誘われていたみたいだ。

 ちなみに山上は亜美の名字のことで、俺の名字は木下だったりする。

 そうこうしているうちになんとか男子からの誘いを断った亜美が俺のほうに向かってきた。


「叶くん、一緒に帰ろ!」

「あれ?いいの?遊びに誘われてたみたいだけど」

「ううん!全然大丈夫だよ!ほら、はやくはやく!!」


 そういうと亜美は俺の手をつかんで強引に教室から引っ張り出してしまった。

 若干、クラスの男子たちからの視線が怖かった気がするが気のせいだろう。


 そんなこんなで亜美と一緒に下校すると、すでに母親と父親二人とも帰ってきていて、家族4人で仲良く夕食を食べた。

 その後はお風呂に入ってごろごろしていたらもう寝るのにいい時間だ。


「おやすみお母さん、お父さん、由芽」

「おやすみなさい叶」

「おにーちゃんおやすみ!!」


 家族のみんなとの挨拶を済ませて自室のベットに潜り込むと、初登校日で無意識のうちに緊張していたのか海の底に沈むようにすぐに眠ってしまったようだ。そして次に気が付くと俺は見知らぬ草原に一人立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夢越者~Dream Traveler~ @sha4a

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る