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その日、彼女は半年ぶりに家に帰ってきた。
とても久しぶりの再会。なのに、朝からとてもあわただしくしている。今日はまだ一度も、顔だって合わせていない。
「愛菜ー? 急がないと
「わかってるってばー」
「あはは。大丈夫ですよ、お
最後の声は、最近になってときどき、この家で聞こえてくるものだった。それがどんな人なのか、ぼくはもちろん知っている。
でも、ぼくはその人のことはあんまり好きになれなかった。
……だって、ぼくの大切な人を、遠くに連れていってしまう人だから。
「あっ、アサガオ!」
「せっかく帰ってきたのに、あんまりかまってあげられなくてごめんねー」
彼女は、とてもきれいになっていた。ランドセルを背負っていたころも、せいふくに身を包んでいたときもきれいだったけど、今がいちばんきれいだ。ぼくにはそう思えた。
これからも、どんどんきれいになっていくんだろう。でも、それをいちばん近くで見ることは、ぼくにはもうできないんだ。
「おーい、愛菜ー。行くぞー」
「はーい」
彼女が立ち上がる。反射的にぼくも立つ。今までずっと、そうしてきたから。
「アサガオ」
ぼくの名前を呼ぶ。そして、頭をなでてくれる。それはもう、やさしく。やさしく。
「それじゃあ……
そうして彼女は、ぼくに背を向ける。今まで言われたことのないことばで、この家を出ていく。
好きだよ。
大好きだよ。
どこまでも響いていけと。そう願いをこめて。
ぼくは「わん」と鳴いた。
だけど、これは決して伝わることはない。
ぼくは鳴く。 今福シノ @Shinoimafuku
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