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 その日、彼女はなんだか元気がなかった。


 いつもは帰ってくるとまずぼくのところに来てくれるのに、なにも言わずに自分の部屋に入っていってしまった。


 どうしたんだろう……。

 お母さんがごはんができたって言っても出てこないし、心配だ。

 ……ようし。


 ぼくは彼女の様子を見にいくことにした。鼻をつかってなんとかして、ドアを開ける。

 部屋の中はまっくらだった。ぜんぜん見えなかったけど、少しずつ目が慣れてくる。


 彼女はベッドにいるみたいだった。こんもりと、ふくらんでいる。

 かってにベッドに入ったらおこられるかな。そう思ったけど、やっぱり心配な気持ちが勝って、ぼくはふとんの山のとなりで身体をふせる。


「アサガオ……?」


 ぼくに気づいた彼女は、ふとんから顔だけ出してぼくの方を見た。ぼくが「すん」と鼻を鳴らすと、ぎゅっとぼくを抱きしめる。


「あはは。わたし……フラれちゃった」


 そう言って、笑う。笑っているんだけど、うれしそうじゃない。

 フラれる、っていうのがどういうことかはよくわからない。だけど、彼女にとってはつらくて、悲しいことなんだろう。部屋にこもってしまうくらい。ごはんを食べる気にもならないくらい。

 だったら、ぼくにできるのはたったひとつ。


「アサガオ?」


 彼女の、そばにいることだけだ。

 ぼくは身体を寄せる。彼女のそばを、はなれまいとする。


「もしかして、なぐさめてくれてるの?」


 鼻をすすりながら、ぼくのことをなでる。いつもみたいじゃなくて、小さく。


「ありがとうね」


 そう言って、彼女は目を閉じた。しばらくすると、すーすーと息が聞こえてくる。


 だいじょうぶ。ぼくが、そばにいるから。

 だから、元気を出して、と。そう気持ちをこめて。

 ぼくは「くうん」と鳴いた。

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