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 その日、ぼくは彼女と散歩をしていた。


「いい天気だねー」


 いつも通る川ぞいの道。夕日でぜんぶオレンジ色だ。


 彼女はいつの間にか学校に行くのにランドセルを背負せおわなくなっていた。かわりに「せいふく」というものを着て通っている。セーラー服、というものらしい。今もそれを身につけている。


「ん? アイツ白倉しらくらじゃね?」

「お、ホントだ」


 並んで歩いていると、前からやってきたふたり組の男の人がこっちを指さしている。形はちがうけど、同じ「せいふく」姿だ。

 彼女の学校の友だち、なのかな。


「な、なによ」

「よう白倉~」

「んだよ~。オレらのことはほっといて、自分はいい気にイヌの散歩かよ」

「あ、あなたたちには関係ないでしょ」


 知り合いなことはまちがいないと思う。でもなんだろう、友だち、じゃない。なんだか、においがちがう。


「っせーな。お前がチクったせいで、あの場所でもうサボれなくなったじゃねーか」

「そんなの知らないわよ。悪いのはあなたたちじゃない」

「あ? 学級委員サマだからってエラそうに」

「そんなこと言ってないでしょ。悪いことはよくないって話じゃない」


 言い返す彼女の口調は、はじめて聞くものだった。トゲトゲしていて、強気だ。でも、ぼくにはわかった。彼女は、むりをしている。


「グダグダ言うんじゃねえよ。お前のせいでムシャクシャしてんだから、ちょっとツラ貸せって言ってんだよ」

「あ、ちょっ」


「バウッ!」


 あぶない! いやなよかんがしていたぼくは、彼女の手がひっぱられそうになった瞬間、すかさずほえた。


「うわっ!」

「なんだよこのイヌ」

「バウッワウッ!!」

「ちっ、んだよウゼーな。もういい、行くぞ」


 男の人たちは舌打ちをすると、そそくさと去っていく。オレンジ色の道には、ぼくと彼女だけがのこる。


 ……知らない人にほえちゃったから、おこられるかな。

 そういえばちいさいころ、ほえておこられたことがあった。そうだ、きっとおこられる。

 いやだなあ。でも、悪いのはほえちゃったぼくだ。さっき彼女も言っていたじゃないか。悪いことはよくないって――


 ぎゅ。


 だけど気がついたら、彼女はぼくにしがみついていた。


「アサガオ、もしかしてわたしのこと助けてくれたの?」


 え? え?


「ありがとー!」


 彼女はほっとしたみたいな笑顔をぼくに向けてくる。さっきまでとは、まるで別人みたいだ。


「アサガオがいてくれて助かったよ。ホントはちょっとこわかったんだ」


 ……そっか。ぼく、彼女の役に立てたんだ。となりにいて、よかったんだ。


「さすがはアサガオ。かっこいいね!」


 彼女をまもることができた。そのことがとってもうれしくて。ほこらしくて。

 ぼくは「ばう」と鳴いた。

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