地球のオトコじゃ物足りない

ライフ・イズ・パラダイス

第1話 平穏な殻は破られた

 私には夫がいる。

 学生時代、共に天文学を学んでいた。

 宇宙に魅せられていた私達は、ごく自然な流れで惹かれ合い、結ばれた。

 私は、夫が初めての人だった。

 夫も私以外の女性は知らないと言っている。

 多分、事実だと思う。

 彼は、ホントに優しい。

 彼が声を張り上げたことは知り合って以来、一度たりともない。

 私の両親や姉妹は、皆口をそろえて、「いい旦那に巡り合えた」と言う。


 確かに、そうかもしれない。世間体とか考えれば。

 学歴も優秀で、国の宇宙開発機関に就職し、国が潰れない限り、生活が脅かされることはない。

 ごく平凡な家庭だ。

 子供もいる。

 普通の男の子と女の子。一男一女に恵まれた。

 子供達もパパを慕っている。

 娘はパパに甘え放題。

 彼女の部屋には、ディズニーグッズが溢れかえっている。

 息子は日々、夜になるとベランダに出て天体望遠鏡で夜空に浮かぶ星々を観察している。

 彼は、二十七の星座と二百二十五の星の名称を諳んじることが出来る。

 彼はパパに褒められることを拠り所とし、夫も、そんな息子を見て、目を細めている。

 何不自由ない暮らし。

 決して、愛がない訳ではない。

 夫の事は今でも愛している。

 そして、子供達も。


 ただ、あまりにもかけ離れてしまって。

 私が体験した事が。

 地球上では得られない刺激。

 この世で限られた人しか体験できない空間に身を置いた。


 私は宇宙飛行士。

 日本人初の有人宇宙飛行に、ただ独り、女性として選ばれ、月へ舞い降りた。

 今から七年前の事だ。

 月に魅せられ、宇宙の虜になった。

 私は一躍時の人となり、その後、火星探査メンバーに選ばれ、月には計4度行った。

 私は忘れ物を宇宙で手に入れた。


 恋する乙女心を。


 私は、他の惑星の雄に恋をした・・・


 地球で会得出来ない感情や思惑を手に入れてから、

 私は、高鳴る鼓動を抑える事が出来ない。


 地球は美しいと、宇宙船に乗船して思ったが、宇宙は、神々しい・・・


 この感覚は宇宙船の窓から見渡せる光景を目にしたものにしか分からない。


 他の惑星に降り立った瞬間、私は人類ではなくなる・・・


 私は、もう後戻りできない・・・

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