第53話:盗賊がでまして

 馬車での移動は、それはそれは大変暇なんです。

 馬を休憩させるために止まった時には、馬車を降りて体をほぐし、また乗り込む。

 そしてガタゴトと移動する。

 馬車の中では転寝をするか、ぼぉーっと窓から外を覗くかどちらかだ。


 不謹慎ながら、モンスターが襲ってきてくれないかななんて思うことも。


 そんな退屈な馬車の旅の四日目。

 緩やかな山道に差し掛かると、御者のおじさんが俺たちを呼んだ。


「あの山に最近、盗賊団が住み着いてねぇ。うちの協会の馬車も何件か襲われてんだ」

「盗賊、ですか?」

「あぁ。そんでお客さん、悪いが御者台で護衛してくんねーかな」

「もちろんです。ルナ、にゃび、御者台に移動しよう。にゃびは屋根の上でいいか?」

「にゃ~」


 馬車側から依頼をされれば、冒険者は断ってはいけない。

 冒険者ギルドとそういう取り決めをしているからだ。

 代わりに何かあったときには、次に運賃半額で利用できる券が貰える。

 持ちつ持たれつの関係ってことだ。


 相手は盗賊か。

 モンスターと違って、対人は気が重い。

 まぁ相手は悪党だから、遠慮する必要はないのだけれど。


 出ないことを祈りつつ、でも出てきてくれとも祈る。

 暇だからじゃない。

 出てきてくれれば懲らしめて衛兵に突き出すことも出来る。そうすればこの辺り一帯も、安全になるだろう。


 なーんて考えているとだ。


「ロイド。あっちの林の中で争ってる人いるにゃよ」

「え、林の中?」


 馬車の屋根の上にいるにゃびが、前方左手にある林を指さした。


「剣と剣がぶつかり合う音だわっ」


 ルナが長い耳を動かして御者台から身を乗り出す。

 戦っている?


「御者さんっ」

「け、けど、この隙に通れば、こっちに被害はでな――」

「助けない訳にはいかないでしょう!」


 御者台から飛び降りると、すぐさまにゃびが地面に着地。

 すると馬がいななき、馬車が止まった。


「ルナは馬車に残ってくれ。何かあったら大声で呼んでくれよ」

「分かったわ」


 万が一のことを考えて、ルナには残ってもらう。

 にゃびと二人で林の方へと駆けると、次第にその様子が見えてきた。


 戦っているのは人と、それから人?

 もしかして盗賊団と戦っているのか!

 

「ロイド、汚れた服着てるのが盗賊にゃよ。分かるにゃか?」

「いや、それぐらい分かってるさ」


 冒険者歴はにゃびの方が長い。だから時々先輩風を吹かせるけど、盗賊とそうじゃない人の区別が服の汚れとはなぁ。

 まぁあながち間違ってはいないんだけど。


 汚れた服で人相の悪い奴らが、ざっと見て三十人ぐらい。対する綺麗な服着た人はたったの二人。

 多勢に無勢にもほどがある。

 それでも周辺には、盗賊らしき奴らが何人も横たわっていた。


「加勢します! "プチ・ファイア"」


 ファイアストームなら一網打尽に出来るんだろうけど、いきなりだと二人組が驚くはず。

 遠距離から盗賊を一体ふっ飛ばし、さらに二発目、三発目を撃つ。


「な、なんだ!? ちっ、冒険者かよっ」

「うにゃぁーっ」

「ねこおおおぉぉぉぉー!?」


 にゃびに驚いた盗賊は、そのまま地面に倒れた。

 更にのにゃびによって、もうひとり倒れる。

 その頃には俺も盗賊たちと接近戦になり、プチ・バッシュでひとり倒していた。


 弱い。

 

 奇襲みたいなもんだったから、意表はつけたんだろうけど。

 それでもあっさりと一撃で倒されすぎやしないか?

 

 一気に六人が倒れたことで、盗賊の陣形が崩れた。

 囲まれていた二人のうちひとりが応戦し、盗賊を切り伏せる。


 怒り心頭な盗賊が数人こちらに向かってやってくると、タイミングを合わせてプチ・バーストブレイクで迎え撃った。


「ぐわあぁぁぁっ」

「くそっ。こいつらつえぇ」

「くっ。ず、ずらかるぞ!!」


 蜘蛛の子を散らすように、残りの盗賊たちが逃亡を開始。

 そこへ――


「"プチ・ファイアストーム"」


 を撃ち込んで、一網打尽にした。


「ロイド、手加減したにゃか?」

「そりゃまぁ、人間の丸焼きなんて見たくもないしな」


 手加減したプチ・ファイアストームでも、盗賊たちを戦闘不能にさせるには十分だった。


「君たち。助太刀感謝する」

「あ、いえ。怪我とかないですか? プチ・ヒールなら使えますんで」

「助かる。まぁ擦り傷程度だが」


 襲われていた二人のうちひとりがやってきて、頭を下げた。

 身なりはもちろんだけど、その口調や仕草からして冒険者ではなさそう。


 こっちは二十代後半ぐらいか。もうひとりは二十歳前後と若い。。

 もしかして若いヤツは、どっかのお坊ちゃんとかだろうか。

 あまり着飾ってはいないが、服の生地とか見るからに上等そうだし。


 二人の怪我の治療をし、待たせてある乗合馬車まで彼らを連れて戻った。

 盗賊たちは馬車に積んであった縄でしばり、木に括りつける。

 近くの町に滞在している衛兵に引き渡すため、息のある奴を二人ほど馬車の屋根に乗せた。


「王都行きか?」

「あぁ、そうだよ」

「すまぬが座席が空いているなら、我ら二人を乗せてもらえぬか? なんなら座席はひとつでも構わない」

「座席は空いているがね。ここは停留所じゃねーんだ」


 年長の金髪の男が、不機嫌な御者に向かって巾着を差し出した。

 小さなそれからじゃらりと音がするあたり、中身はお金だろう。

 巾着の中身を見て、御者の表情が変わる。


「あぁ、どうぞどうぞ。さぁ、乗ってくれ」

「助かる」


 結構な金額が入っていたんだろうなぁ。めちゃくちゃ御者のおじさん、笑顔じゃん。

 二人が乗り込んで満員となった馬車は、再び出発した。


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器用貧乏の底辺冒険者~俺だけ使える『ステータスボード』で最強になる!~ 夢・風魔 @yume-

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