第52話
迷宮都市に到着した翌日。
俺たちは新しく見つかった方のダンジョンへと潜った。
目的の場所は地下九階、そこの安全地帯だ。
「お、誰もいないな」
「お昼時でも夕食時でもないものね」
「にゃあぁ~。おいにゃはいつでもペコペコにゃよ」
「俺はあんまりお腹空いてないんだけどなぁ」
そうはいいつつも、空間収納袋を開いて準備を始めた。
フレアさんから預った、ブレンダのためのパンだ。
安全地帯の片隅に、布に乗せたパンを置く。その隣に、町で買った花を添えた。
「六〇日には間に合わなかったなぁ」
「コポトの実家でのんびりしちゃったものね。でも、喜んでると思うわよ、彼女」
それから俺たちも弁当を広げ、迷宮都市を離れていた時のことなんかを思い出話のように語った。
「雑貨屋じゃなくって、パン屋になったのには驚くだろうなぁ」
「そうかしら? パン屋さんの方が楽しそうじゃない?」
「食べ物屋さんの方が絶対いいにゃねぇ。作りながら食べられるにゃから」
にゃびは食堂で働かせられないな。賃金以上に食べてしまいそうだ。
「まぁさ、ブレンダのおかげで大通りに店を構えられたんだ。繁盛するといいな」
「ライバル店はあるけど、あそこは店舗で食べるお店だしね。乗合馬車の停留所近くっていう立地なら、持ち帰りのできるお店の方が人気出そうだけど」
「うみゃいパンは、人を幸せにするにゃ~」
「でもにゃび、お前が今食べてるパンは、フレアさんの焼いたパンじゃないぞ」
「うみゃうみゃ」
聞いちゃいない。
さすがにフレアさんから貰ったパンは、ブレンダのものを除けば迷宮都市に戻ってくる前に全部食べ切っている。
彼女用のものが最後だ。
しばらくのんびり話をしていると、部屋の外で人の声がした。
そろそろ冒険者が休憩のためにここへ来る時刻か。
「俺たちはどうする? 上に戻るのは魔法陣で一瞬だし、道も覚えてるからすぐ上がれるけど」
「宿でゆっくり休みたい気もするから……」
「ベッドがいいにゃあぁ」
「じゃあ、上がろうか」
そう言って立ち上がった時、どこからかふと――
ありがとう
っと聞こえた気がした。
その声に俺は「どういたしまして」と呟くように返し、安全地帯を後にした。
「ゴブリンキングまで倒しやがったのか。本当にあの器用貧乏のロイドか、お前は」
「まぁ今でもある意味、器用貧乏ですけど」
冒険者ギルドへとやってくると、何故かギルドマスターがゴブリンキングの件を知っていた。
どうやらコポトの実家でのんびりしている間に、向こうのギルドからこっちに報告があったみたいだな。
「しかし急成長だな。まぁ今までがまったく成長しなかったんだ、それを考えればやっとってことか」
「それを言われると、なんか今までほんとすみませんってなっちゃうんだけど」
「がはははははは。まぁまぁ、そう気にすんなって。お、そうだ。有望株のお前らに、あの仕事を頼むか」
「ん?」
ギルドマスターは席を立ち、奥から封筒を持って戻ってきた。
しかも一つじゃない。結構たくさん。
「これを王都にあるサウラウンド王国ギルド本部まで持っていってくれないか?」
「ギルド本部ですか?」
「あぁ。年に一回、各支部の活動記録を本部に送らなきゃならないんだ。クッソ面倒くせーよなぁ。書類作成なんてよぉ」
「……はぁ」
その口調にもの凄く重みを感じる。
「お前、王都の方には行ったことねぇだろ」
「そりゃあ、行ったことないですけど」
「あっこは各地のダンジョン情報もある。そこで自分にあった適正狩場を探すってのもいいだろう。な? 頼まれてくれねーか」
各地のか。今の俺たちに適した狩場を探すっていうのは、結構大事だよな。
あと出来れば一攫千金じゃなくても、平均して稼げる狩場がいい。
ルナの故郷の森を買い取れるお金が必要だ。
なにより都会だ。行ってみたい。
「とりあえずルナとにゃびに話します。返事はそのあとでいいですかね?」
「あぁ。できれば今日中に頼みたい」
「今から話してきます。ちょっと待っててください」
ギルドを出て外で待っていた二人にその話をすると、返事はあっさりOKだった。
「王都行ってみたい!」
「おいにゃは行ったことあるにゃよ」
「え!? にゃび、王都に行ったことあるのか!?」
「えぇ!? にゃ、にゃびって都会猫なの!?」
「猫じゃにゃいにゃ……」
よし、決まりだ。
すぐさまギルドマスターに仕事を受けると話をし、そのまま出発の準備だ。
王都行きの馬車は明日の朝、迷宮都市を出発する。
それを過ぎれば次は三日後。ギルドマスターとしては早い方がいいらしい。
活動記録の提出期限ってのがあるんだろうな。
で、その書類作成に手間がかかって、期限ぎりぎりになった……ってやつだろう。
馬車の運賃、それに道中の宿泊費用も全部ギルド持ちだ。
タダで王都まで行けるなんてラッキー。
封筒と受け取った経費用のお金を空間収納袋に入れ、二人と合流。
「王都まで七日の旅だ」
「なんだか私たち、馬車に乗ってばかりね」
「んにゃ~」
ほんと、馬車ばっかりだなぁ。
そろそろお尻の皮が分厚くなりそうだ。
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