『錬金BOX』で生産&付与無双!https://kakuyomu.jp/works/1177354054897457813
こちら、エピローグも公開となり、完結設定も付きました。
こちらでは、もう一つのエピローグを公開いたします。
エピローグです。
つまり最後に読んで欲しいんです。
ですので、まだ最終話までご覧になっていないからは、ぜひとも回れ右をして本編&作品ページのエピローグまでお読みになってください。
約束ですよ!
・・・約束、だよ。
もう少し・・・
もう少し、スクロールして・・・
******************************
『まぁた、ルーク坊が授業を抜け出したぞ。まったく、誰に似たんだ?』
リーンゴとブッドウ園に囲まれた海の見える丘の上。丘を下った先には、ホープレストの街並みも見える。
そんな場所で、二つの墓石を前にボスが愚痴をこぼす。
『お前の子供の頃がどうだったかは知らないが、俺が知る限り、お前は勉強よりも体を動かす方が好みだったろう。やっぱりお前に似たんだ』
『ズモ。ズズモモ』
『あぁ、そうだ。卓上で考えるのが面倒になったら、とりあえず実際にやってみる。それがルークという奴なのさ』
『ズモモォ』
傍で寛ぐモズラカイコは、五年前に羽化した若い個体だ。
モズラカイコの寿命は人間よりわずかに長い程度。既に初代ルークを知る個体はほとんどいなかった。
だがモズラカイコたちは初代ルークの名を、彼が何をしてきたのかと知っている。
『まぁ、それが奴のいい所でもあった。何もやらず見ているだけな人間より、何かをやり遂げる奴の方が良いに決まっている。ま、失敗もあったがな』
『モズズモォ』
『モッモ』
ふわり、ふわりと果樹園からモズラカイコたちが飛んでくる。
ここの園はモズラカイコたちが中心になって世話をし、毎年、リーンゴやブッドウがたわわに実った。
モズラカイコたちの菜園術は人族顔負けだが、彼らが果物の栽培方法をひとりの人間から学んでいる。
いや、実際に学んだのは彼らの祖父母世代のモズラカイコたちだ。
なんでも、その人間は、人でありながらモズラカイコたちの言葉がわかったという。
『今年も豊作か?』
『ズッモォ~』
『当たり前、か。ま、そりゃそうだろうな――お、ゴン蔵の旦那じゃねえか』
ボスが上空を見上げると、巨大な影が舞い降りた。
ここはゴン蔵の巨体がぎりぎり入る隙間を残す感じで、果樹園が丘を囲むように作られた場所だ。
『旦那、まだリーンゴは食えんぞ』
『リーンゴを食しに来たのではないわ。ゴン太が戻って来たのでな、迎えにの』
それを聞いてボスが呆れたようにため息を吐く。
『いつまでも子供扱いするのはどうかと思うぜ、旦那。ゴン太だって大きくなっただろ』
『む。角シープーと一緒にするでない。ドラゴンであれば、まだまだ立派な子供だわい』
『そうは言うが、ゴン太はオレを三頭並べたサイズよか大きいんだぜ』
具体的に言えば、ゴン太の鼻先から尾っぽの先まで、およそ十三メートルほどある。
小さかった翼は体のサイズに合わせて大きくなり、今では丸一日飛び続けることも容易だ。
『小さいではないか』
と、優に五十メートルを超えるゴン蔵に言われては、ボスも反論出来ない。
心の中で『この親バカ』と呟く。
『それよりどうだ、最近は。ボリスが走り回っているのが、山の上からでもよく見えるが』
『あぁ、走り回ってるよ。なんせルーク坊が、真面目に勉強しねーもんだからよ。今日もまただ』
『はぁ……困った奴だ。あれはルークによく似ておるから、いい王《・》になると思ったんだがな』
『まったくだ』
ボスとゴン蔵が揃ってため息を吐く。
そこへ、ざばぁーっと白波を纏いながらク美が浮上してきた。
『あらなんですか、大の男が二頭で』
『よぉ、姐さん』
『ク美か。またルーク坊がな』
『あら、またですか? これで何日連続かしら』
長い腕を白玉のような胴に添え、ク美も困ったものねとため息を吐く。
『お、そういやケン助とクラ助はまだ帰ってこないのかい、姐さん』
『うふふ。さっき戻って来たところですよ』
『南西の海底だったか? どこの海から流れてきたかは知らぬが、バカな奴らだ』
最近、どこかからかやって来た中型の水棲モンスターが、南西の海で暮らすシーマン族を襲った。
シーマンたちは命からがらここの海岸にたどり着き、そしてク美に助けを求めたのが半月前のこと。
『しかし結構な群れだったんだろう? それにクラ助とケン助だって、二頭だけで外洋に出るのは初めてだろうし』
『うふふ。その程度で臆するようじゃ、まだまだ子供ねって言ったら、あの子たちムキになってね』
『かーっ。聞いたかゴン蔵の旦那。ク美姐さんはこうやって息子たちに親離れを促してんだぜ。あんたも少しは見習ったらどうだ』
『う、うるさいっ。ゴン太はまだ子供だわい』
『あら。ゴン蔵さん、まだ子離れ出来てないのね。ゴン太くんも大変だわぁ』
『まったくだぜ』
ボスはまだしも、ク美にまで言われてはバツが悪い。
この場は適当にはぐらかして山へ戻ろうとしたとき、視界の隅に猛スピードで駆けるボリスと、その背にしがみつく小さなルークを見た。
『ボリスがルーク坊を連れて、海岸に向かったぞ』
『あ? まったく、あいつは何やってんだ。坊を屋敷に連れ戻すのが仕事だったろうに』
『ふふふ。ゴン太くんとうちの子たちも一緒みたいですよ』
『はぁぁぁ……ガキどもみんなして、ガキを甘やかしてんのか』
『仕方ないじゃないですか。だってあの子は、本当にルークそっくりなんですもの。ね、ルーク』
長い腕が墓石に触れる。
三頭にとってかけがえのない友が、そこで眠っている。
『ベェ~。ンベェェ』
『よぉ、ハンナ』
『あなた、ウークが毛刈りをするからって呼んでるわよ』
『おっと、忘れてたぜ。今日は毛刈りの日だったな』
『痩せるのか』
『いや、痩せるわけじゃねえから……しかしルークは、なんで初孫にウークなんて名前を付けやがったんだ』
ベヘヘっと笑いながら、かつてルークが初孫に名前を付けた時のことを思い出す。
周囲から注目を浴びる中、ようやく絞り出した名が『ウーク』。
愛する妻が、かつて自分の名をそう発音していた。
「この子はウークだ。ウーク・トリスタンにしよう!」
ルークがそう言ったあと周囲はしばらく静まり返り、それから大きなため息が吐かれた。
『あれのネーミングセンスの無さは昔からだろう。ま、わしとゴン太の名は最高だがな』
『ほんとにそう思ってんのか旦那』
『思っておるさ。少なくとも、群れのボスだからボスと名付けられたお前とは、天と地ほどの差があるわい』
『ぐぬぬ……』
『はいはい。行くわよ、あなた』
ハンナがボスの耳を咥え、町の方へと引きずって行く。
ボスは悲鳴を上げたが『また来るぜ、ルーク』と言ってにんまりと笑った。
それを合図にゴン蔵は飛び立ち、ク美は海へと戻る。
残ったのは園の世話を続けるモズラカイコたちだけ。
ここはホープ。
人口わずか5000人ほどの、かつてカオスレストと呼ばれた西側大陸唯一の国。
遥か海の彼方にはトリスタン島があり、背後にはホープレストの町を望む丘の上に、初代国王ルークエインの墓がある。
ルークエイン・トリスタンが亡くなって三十年。
彼らは毎日、こうしてルークとシアの墓前で顔を合わせ、他愛のない会話に花を咲かせた。
まるでそこに、ルークとシアの二人がいるかのように――。