第183話 エピローグ
何だかんだ全力で戦い、色々とわだかまりが解けて安心した俺たちは爆睡した。帰ってくる様子のない魔王共のせいで夜番を立てる必要があるとかないとかでアイナと同じ部屋で寝ました。
言っておくが俺は無罪だからな? 俺は法令順守な人間で不純異性交遊を許すつもりはないし、アイナとはベッドを横に並べて寝ただけだ。決してやましいことはしていません。そもそも疲れて夜番もなにもなく爆睡したので、気がついたら朝だった。
「昨夜はお楽しみィー!?」
「この駄魔王が」
俺の槍型魔法陣はレヴィアタンに惜しくも回避されてしまったが、その口を閉ざすことには成功したので良しとしよう。そのネタはアイナに悪影響が出るかもしれない。
「主よ、これからどうするのだ?」
「しっかり休息はとったから、みんなへの報告も兼ねて一度帰るわ。その後、世界を見るために出発ね」
というわけで俺たちは迷宮都市に向かった。迷宮都市では俺はどこかの宿屋で寝泊まりする予定だ。アイナは屋敷で一泊するらしい。屋敷に戻るアイナにお土産を渡してから、俺はとある場所に足を運んだ。
「変わってねぇなぁ」
懐かしき冒険者組合の建物内部の爽やか君にナンパされた受付嬢と人気のない受付のおっさんがカウンターに並んでいる光景に、俺はそう呟いた。たぶん俺の方が変わっていると思う。髪色が一部変わったくらいだけれど。
「お久しぶりですね」
「お前さんは……あの時の若者か?」
「ええ、久しぶりに戻ったので少しお話をしに。時間、大丈夫ですか?」
ということで受付のおっさんと資料室でお話だ。このおっさんにはお世話になった。この人がいなければ今の俺はいないだろう。
「その感じ、お前さんはどうやら上限突破できたようだな」
「はい。あなたのおかげです」
「よせやい。俺はヒントを教えただけ。可能性を掴み取ったのはお前さんの努力さ」
ニヒルに笑いながらそんな風に言えるおっさんは世界一格好いいよ。俺が保証する。だから、俺も少しだけ恩返しをしてもバチは当たらないと思うんだよね。
「そのことでお礼をしたくて」
「お礼だ? 別にいらねぇが……」
「私の気が済まないのです」
俺はそう言って覚醒の宝玉をおっさんに手渡した。それを見ておっさんは目を見開く。
「これは……」
「覚醒の宝玉です。あなたもレベル上限に達していましたよね?」
おっさんはずっとレベル上限で悩んでいたのだ。だから、余っていた覚醒の宝玉を渡した。余っていたもう一つはアイナに持たせた。これから先、かつての俺のように悩むことになるだろう門番君に使ってもらうのがいいと思う。
「……悪いが受け取れねぇ」
「何故です?」
「俺はもう年だ。今更レベル上限が上がったところで昔みたいな熱量もない。それに、嫁と子供もいるからこの職を辞めるつもりはねぇ。そんな俺にこんなお宝は災いしか呼び込まないだろう。だから、俺には必要ない」
おっさんは覚醒の宝玉を俺に返してきた。おっさんは既に折り合いをつけていたようだ。そこに駄々をこねて水を差すのは格好悪い。俺は覚醒の宝玉を受け取って大人しく引き下がった。
「お前が何時か、過去のお前のように苦しんでいるヤツに渡せ」
「……わかりました」
このおっさんはどこまで格好いいのだろう。俺もこんなおっさんになれるようにならねばならないな、と心に決めておっさんとの再会は終わった。他には特にやることもないので適当な宿をとって時間を潰し、アイナとの約束の日時になる。
「出発するか?」
「ええ。ご飯もたくさん作ってもらったわ」
「無理言ったかもしれねぇな。申し訳ねぇ」
「心配ご無用よ。珍しい食材を集めてきてほしいって言われたから」
「それはそれは」
新しい食材に貪欲だねぇ、シェフは。流石だよ。山のように面白い食材でも集めるとしようかね。
「さて、立ち話もなんだし、さっさと出発するか」
「ふふっ、そうね」
物陰からこっちを見てくる不審者がいるんだもの。俺の意図を汲み取ってか、それともアイナが事前に言ったのかは定かではないが、折角の気遣いを無駄にしないうちに出立といこう。このままじゃ不審者までついてきそうだ。
「目的地はどこにするんだ?」
「とりあえず南へ行くわ。行ったことないから」
「了解だ」
俺たちは揃って迷宮都市を後にした。これからどうなるかはそれこそ神のみぞ知る話しだ。だが、何とでもなるだろう。そんな気がするのだ。
こういう時はなんて言うんだろうね? ……あぁ、そうだ。これにて俺の物語はお終い。俺の次回作にご期待ください、かな。俺の人生に次回作なんてあるのかは知らんけど。ま、そういうことで。じゃあな。
異世界ものを嗜む若おっさんがマジで異世界に行っちまう話(仮題) 気晴 @Kibarashi
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