バカッター

 休みとは言うものの、ずっと家で寝ている訳にもいかない。

 いや土曜日はそうしたが、二日続けてそんな事をするほど僕は疲れ果てていない。日曜日、僕は近所の書店に行って、注文していた一冊の文庫本を買って来た。



「ミラクルマン殺人事件」



 二十五年前に発表された、当時としては極めて斬新なトリックとストーリーで一世を風靡したミステリー小説。

 以後シリーズ化され、ドラマ化もされている名作の第一作。最大のヒット作となった第五作「ミラクルマン殺人事件in熱海」とそれ以降の作品で満足して第一作を読んだ事がなかったのは我ながら不勉強だったが、ドラマの仕事が終わったら今度は作者にインタビューを行う事になっている以上、読んでおかねばなるまい。

 にしてもどうしてこの第一作目だけ十日以上待たねばならなかったのだろうか、第二~四作目はすぐに買えたと言うのに。清水さんたちからもネット通販で買えばいいのにと諭されたが、僕はどうもネット通販と言う奴が苦手だ。


 好きな物だけ食べていると病気になる。


 子どもの時にそう教わらなかった物だろうか。買い物だって同じだと僕は思う。買いたいなと思う本だけを指定して買うと言う作業を行う場合、それ以外の本はまず目に入らない。だが書店に行った場合、買いたい本があったとしても目的以外の本は否応なく目に入る。

 僕がこの人生の中で目当ての本を買いに行くついでの衝動買いと言う理由で買った本は五十冊は下らない。その大半がなんで買ってしまったんだろうって後悔したような本だったが、それでもその結果目先の必要と言う観点だけで動いていたら見過ごしていたであろう、数冊の素晴らしい本に出合えたのだから後悔などしていない。


「板野さんの若気の至りってのはそれですか、羨ましいなあ。そうやって知識を高める事が出来て本当にいいですね。うちの父の場合、二十歳の時に弾けもしなかったギターを見栄張って買っちゃって、そんで今でもそのギターでヘタクソとぎりぎり言えないレベルの演奏を続けてますよ。母も最初は迷惑だって言ってたけど今はもう諦めてるみたいでね」


 以前その話を偏食気味でやや太っている後輩記者にした時はこんな風に言われた。若気の至りだって、じゃあ五十歳の僕は未だに若いって言うのか。確かに僕はこの年になっても本の衝動買いをやめられない。最近、腹の肉をつまめるほどには中年太りに悩んでいるつもりなのにだ。

 確かにフリージャーナリスト一年生、気は若いつもりではある。


 しかしだからと言って、子供向けゲームの攻略本を買ってしまうとは思わなかった。最新作が出ているせいか古い作品の攻略本が見切り品的に安値で売られていたとは言え、十歳ぐらいの子を持つ親がどんなおもちゃに追われているのか知るつもりで買ってしまったのだから我ながらお笑いである。

 適当にパラパラめくってみると、ダジャレと親父ギャグで塗り固められたような名前のキャラクターがズラリと並んでいた。確かに僕が小学校四年生ぐらいだったら飛び付きそうだ。

 ああいけないいけない、それよりミラクルマンだ。




 もちろん一日で読み切るなど付け焼き刃以外の何でもない。それでもこのミラクルマンの第一作の文庫本は四十刷で、第二作のそれは五十七刷だった理由がわかった気はした。

 のちの作品から見ると正直な話、陳腐だ。


「正直な話、この第一作についてはもう疲れたと言うのが本音です。勢いと突拍子もなかった設定によって審査員の先生に取り上げてくれたって言う作品で、今になってみると穴だらけと言わざるを得ず、その上にこの作品を下敷きにして第二作以降を書いてしまった以上今更設定を崩す訳にも行かず大変苦労しました。もちろん推理小説である手前トリックを変える訳にも行きませんし、担当さんには素晴らしい事ですねって言われてますけどもう限界ですよ。このミラクルマンシリーズ第一作、これ以上の改良は無理であるとこの場ではありますが言わせていただきます。さりとてチャップリンみたいに最高傑作はネクストワンとか言う事を言う度胸もなし…はあチェキっ子ちゃんに癒されますか、ああ担当さんやめて下さいよ、今後の作品の為にも…お願いですから………。」


 巻末に載っていた自著解説だ。僕などは自分が担当した記事でさえ三年前の事になるとああそんな事あったなだったが、これからはそれではまずい。何せフリージャーナリストなのだから、自分の仕事に対し拘束と言う名の管理をする者はいない。

 自己責任なのだ、功績も独り占めできる代わりに罰も独り占めしなければならない。わかってはいたが大変である。とりあえず今日わかった事は、この第一作目にはあまり触れない方がよさそうな事だけであった。

 


 月曜日。家を出た僕は、必要な機材と共に電車に乗り込んだ。こちらが取材させていただく側である手前、時間に遅れるような事があってはいけない。ましてや今回こっちは人様の家にお入りする立場だ、非礼があってはいけない。

 僕は運転免許を持っていない。視力が悪すぎるのが原因ではあるが、それ以上にその必要性を感じる事が出来なかった。だから取材先その他の移動はほとんどが電車でありバスだった。

 そうなると否応なしに車内道徳と言う奴が目に付く。本音を言えば僕だってスマホを見たい、取材先の場所を確認したい。だが仕方があるまい、ペースメーカーを付けていない人間がいないと言う保証はどこにもないのだから。


「ねえねえママ」

「こら、電車の中で騒いじゃダメでしょ!」

「ねえママ、このひとほんとうにこんなこといってるの」


 電車の中ではしゃぐ幼稚園児がいた。何十年前から見慣れた光景であり迷惑ではあるがさほど気になる物ではない。

 だがふと気になって子どもの指差す方を見ると、明らかに不自然な広告があった。下を見る限り女性就業サイトの広告の様であるが、中央には全然関係のない文言が書かれていた。


「見ちゃいけません!」


 極めてごもっともだ。こんな公共スペースとも言うべき場所を占拠して一体何がしたいと言うのだろうか。主張をするにしたって他のやり方があるだろうに、これでは逆効果ではないだろうか。ああ腹立たしい。

 しかしそれ以上の問題があった、僕自身はそこに貼り付けられた文言に賛同してしまっている節がある事だ。いや、その文言に賛同しているからこそ僕はなおさら腹を立てている。

 どんなに筋の通った主張でも、方法を間違ってしまえば受け入れてくれない、中立の人間を向こうに追いやってしまう悪手ではないか。そういう事をする人間と主張が近いと思うと嫌になる。まあ僕はこれまで選挙にも全て行きその度に支持政党に入れて来た人間だからこんな事で主張を変えるつもりはないのだが……。

 かと言って目を反らす訳にも行かない。目を反らそうとした先には、文盲としか思えない連中がズラッと並んでいた。これもまた「見ちゃいけません」案件だろう。


「優先席の側では携帯電話の電源をお切りください。それ以外の場所ではマナーモードに設定の上、通話はお控えください」


 通話じゃないから構わないとでも言うのだろうか、全く屁理屈以外の何でもない話だ。いやそれでなくても急ブレーキなどでよろけて倒れてしまい大事な大事なスマホをぶっ壊すかもしれないと言うのによくもまあ。

 こんな風に下を向いてスマホとにらめっこを続けるのであれば本の一冊でも読んでいた方がよっぽど有意義だろうに。まあ今乗っている電車の乗車率が50%でなく150%だったら僕は座ってミラクルマン殺人事件の文庫本を読む事さえできなかっただろうが、文庫本が電車の床に落ちたり人に踏まれたりした所でゴミくずになる訳ではない。

 500円出せば一生自分の物にできる文庫本ほど安い買い物もそうそうないと言うのに、なんで大して崇高な事に使ってないあんなスマホなどに毎月数千円もかけるのだろうか。誰か一人ぐらい乗り過ごしたりしない物かと思いながらじっと座っていたが、結局スマホを握りしめていた人間の半分は何事もなかったようにさらりと電車を降りて行き、残る半分はそのまま平然とスマホをいじり続けていた。

 もしできる物ならばこの連中の顔と挙動を世間様にさらし上げてやりたい。こんな公共の空間で全く不急不要の用件に労力を費やす連中、赤信号みんなで渡れば怖くないを実践するかのように公共マナーを踏みにじる大馬鹿たち。

 乗客と言うもっともらしい肩書をつけてれば誰にも見られてないのと思い込んでいる辺り、幼稚としか言いようがない。ああやだやだ、ああいう連中を見ていると笑える半面喉が渇く。ああ、自販機で買ったスポーツドリンクがうまい。




「あらもういらっしゃったんですか」


 駅を出た僕はきちんと隅っこに立ってスマホで地図を見て、今回の取材対象である木下スーザン先生の邸宅へとたどり着いた。待ち合わせより三十分早いが遅れるよりはいいだろう、いくら場所が相手の家だとは言え取材相手を待たせるだなんて無礼な事ができる物か。

 しかし真っ白な壁に高い天井、開放感たっぷりの客間。僕の2LDKとは比べ物にならない邸宅だ。

 それでいて原稿を書く時は書斎に籠り切りだって著書で言っているが、案外そういう物なのかもしれない。もちろん代わり映えのしない狭い部屋に籠ってばかりいては新しい発想は出て来ないが、いろいろな物があり過ぎるのも発想を妨げる。


「どうぞ、安物ですけど」


 お上品ではなく、本当に上品さを感じさせるカップに入れられた紅茶。ティーバッグで入れられたとは思えないほどに味わいがあり、無地のカップと相まって雑味が一切ない。

「このカップお高いんでしょう」

「よく言われますよ、五つで二千円の安物なのに」

 ウェーブがかかった黒髪、紫色のカーディガン。どちらも主張が強い色なのに嫌らしさがなく、センスの高さを感じさせる。そろそろ新しいスーツを仕立てる時が来たなと僕は心の中でため息を吐いた。


「さて本題ですけど、今回ミラクルマンシリーズが初めて日本を飛び出すとか」

「ええ、本当は日本どころか地球さえ飛び出そうかと思ったんですけど。さすがにミラクルマンシリーズでそれをやるのは無茶だって担当さんに言われまして」

「でもミラクルマンシリーズなんて最初から無茶のし通しの気が」

「まあそう言われますけどね、この年になりますとちょうどいい無茶の具合ってのをペンが覚えてしまいましてね。って言うか十年前からパソコンですけど。担当さんからそろそろ新しいの買ってくれって言われてますけどね、まあワープロの代わりみたいな存在だからどうでもいいんですけどね、ネットにも繋いでないし」

「それはいいですね」


 僕は仕事上仕方がないが、作家の様なゼロに近い所から何かを生み出すような人間は余りああいう所には近づかない方がいいと思う。

 正直な話、ネット上で見たミラクルマン及び木下先生に対しての評の中には見るに堪えない物が多い。


「でもまあ一昨年仕方がなく繋ぎましたけどね、最近のゲームってどうも繋がないと楽しめない物が多くって困ってしまって」

「えっ」


 ミラクルマンの新作に付いての取材に来たのに、いきなりゲームの話をされるとは思わなかった。いや作品のあとがきやエッセイでもゲームの話が幾度か出て来た事があったので想定していなかった訳ではないが、そういう類の趣味からもっとも遠そうな人間であるという自覚がある僕にそんな話を振って来るとは思わなかった。


「他に使う事はないんですかって担当さんは言ってますけどね、正直な話仕事についてはほぼ間に合ってるってのが現実でしてね」

「あの、じゃああれは今先生がやっているゲームのキャラクターですか」

「あああれね、娘がやってるゲームのキャラクターですよ」


 客間の隅っこにある、猫のぬいぐるみ。

 リアルな猫ではなく、白とピンクのチェックのワンピースを来た二足歩行の、全身真っ青で輝く瞳をした二頭身半の猫。

 明らかに何らかの、話からするとゲームのキャラクターとしか思えないぬいぐるみ。確かに、人気が出そうなデザインに思えてくる。だがそのキャラクターを指差した僕の顔を見つめる先生の目は、どこか寂しげだった。


「娘さんは確か中学二年生でしたよね」

「いいですよね本当、娘には夫と兄と先生がいても担当さん、って言うか出版社さんからねえ…正直うらやましいって言うか…」


 木下先生は目線を斜め上の方向に向けていた。話からするとどうも出版社からゲームのやりすぎ注意と言うブレーキがかかっているらしい。その代償として代わりにそのゲームに登場するぬいぐるみを買ったそうだ。全く、一流ミステリー小説家をここまで惑わせるゲームとは一体何なのか。


「今度の作品もここからアイデアを」

「いやさすがにそんな事はしないですよ、殺伐としたミステリー小説にこんな可愛い子を巻き込んだりはしませんよ。まあでも実はねえ、以前二度ほど…」

「ああ十六作目のミラクルマンの敗北って奴ですか」


 ミラクルマンシリーズは、基本的に主人公側が勝つ事はない。

 何者かの手によってミラクルマンと言う存在に仕立て上げられた人間が、文字通り奇跡の様な犯罪を起こして行くと言うストーリーである。主人公たちはその犯罪を追いかけてあくまでも自首させようとしたり逮捕しようとしたりするのだが、ほとんどの場合かなわず死なれてしまっていた。そんな中、初めて犯人が死ななかったのが十六作目だ。


「実はあの時ですね、ちょうどあるロールプレイングゲームやってたんですよ。死んでしまう主人公の親友を、時をさかのぼって運命を変えて助けるって言うストーリーのゲームをですね。それからアイデアをいただきましてね、十年前にお兄さんを失った時と同じパターンで殺されそうになったミラクルマンを主人公の刑事が助けるって言う話になりまして。まあゲームとしては正直面白くなくて、作品のアイデアに使えなければ高い買い物だったと嘆かざるを得ない代物でしてね、まあ正直な話簡単すぎて。あの時はもう二度とあのメーカーが作ったゲームなんぞ買わないって思ってた物ですけどね、悲しい業って言うか、結局また手を出しちゃいましてね。それでその次のソフトってのは大当たりだったらから許してあげようという事になったんですけどね」

「あのもしもし、最新作を…」

 雑誌等の取材などに写っている木下先生が、笑っている事は少ない。笑顔があったとしても引き締まっていて、心底から楽しそうにしている顔を見たのは二十年来の読者ながらほとんどなかった。


「ああすいませんつい、うちの人も息子も娘も最近はどうもゲームの話に付き合ってくれなくて、どうもすみません」

「いえいえ」

「まあ今度の最新作はちょうど今話したミラクルマンの敗北の主人公である新野正樹の事件簿パート5で、今回はとある大火事を巡る闇の部分に切り込んで行くつもりで」

「ミラクルマンシリーズが変化球だとすれば新野正樹シリーズは直球である、そしてどちらもいい球だから木下スーザンは素晴らしい小説家だ。浅部さんはそうおっしゃってましたけど」

「浅部先生には感謝しているんですよ、新野正樹シリーズを初めて発表した時には地味とか逃げたとかあるいは誰の作品だよとかずいぶん…」

「まあ正直な話、木下スーザン=ミラクルマンで固まってしまっていた読者は多かったですからね、他にも歴史物やジュベナイル物も書いていたって言うのに」


 僕にしてみれば、一人の人間のイメージを一つの事項で固めてしまう方が問題だ。確かにミラクルマンシリーズは二十五年、新野正樹シリーズはまだ十年だが、どちらもれっきとした木下先生の作品だろう。実に幅が広い小説家だ。

 視野の狭い人間には代表作と言う冠をかぶった派手なミラクルマンしか目に入らないのだろう、ああもったいない。その点、文芸評論家の浅部一郎先生は素晴らしい。ああいう深みのある文を書ける人間が最近はつとに減った。

 日本は一体どうなるのだろう。


「それで板野さんは今度の土曜日は」

「まあ今回のインタビューの締め切りが来週の火曜日なんで暇はありますよ。って言うかその次に大仕事をやってのけたいので今がつかの間の安息って奴で」

「あらあらそれは、実は今度の土曜日私とあるパーティに招かれてまして、良かったら板野さんも取材がてらどうですか、どなたか一人ぐらいならばまだ余裕があるようで」

「ありがとうございます」


 木下先生から教えてくれた場所は、新聞社時代に、幾度か後輩の結婚式に立ち会った所だった。嫌な思い出と言う訳ではない。

 単にああそこでやるんだと言う程度の気持ちしか沸いて来なかった。内容については何も聞かない事にした、一体どういうパーティをやろうと言うのか、何にもわからないのはかえって面白い。







 ライクルちゃん、それがあの猫の名前だそうだ。

 だが所詮ゲームのキャラクター、こうしてみるとやはりゲーム内での画像の方がぬいぐるみより優っているように思える。あくまでもゲームキャラはゲームキャラ、現実の存在にはかなわない。ゲームキャラとして愛されていればそれで十分な存在だろう。そういう形が愛でる事ができず代償の様にぬいぐるみを愛でている木下先生の欲求不満は、相当に大きそうだ。


 僕はインターネットに頼るのは嫌いだが、こういう情報はなかなかお堅い雑誌や新聞には上がって来ない。この前の様に攻略本でも衝動買いすれば良いのだろうかと思い、取材帰りに本屋によって立ち読みしてみたが、なんだこの辞書は。

 横幅より厚みの方があるじゃないか、その上に1500円越えと来ている。この前の攻略本は古い作品のそれだったせいか500円で買えたが、全くいい商売だ。しかもよく見ると僕がいた新聞社系列の会社じゃないか、身内同然の企業がこんな本をこんな値段で売っていたとは知らなかった。ページ数相応のネタが入っているのであれば安いのかもしれないが、正直阿漕な商売をやっているなと眉を顰めずにいられなかった。




 板野和夫 14:29

 僕の古巣の新聞社の系列会社が、子供向けテレビゲームの攻略本に1500円なんていうボッタクリ価格を付けて売っている。全く情けないったらありゃしない。これは一種の搾取構造じゃないか、ったく少子化で親御さんたちが子どもを甘やかしてるのに付け込もうだなんて情けない!



 この前500円で買って来た攻略本も、市価としては1000円だった。生鮮食料品みたいな売り方だが、実際に生鮮食料品そのものなのだから仕方がない。数年もすれば価値がなくなるような本にあんな値段を付けるなどもったいない。

 枕草子の文庫本が800円少々で買える中、1000円だ。1000年たってもこれほどの価値を持った代物に手を出さずにこんな3年で寿命が尽きる本に1000円も出すなど、経済観念って奴が全くない。売る方も売る方なら、買う方も買う方だ。




 そんなツイッターをしてから5時間後、木下先生とのインタビューの概要をまとめた原稿をひとまず書き起こし終わった。あとは1日寝かせてから清書するだけだ。

 もう寝ようと思いツイッターを見てみると、夜とは言え平日にも関わらずずいぶんと返信が来てる事来てる事、まったく世の中暇人が多い。




 そこいら変太郎@MH中毒患者 20:54

 何てゲームの攻略本か教えてもらわない事には何とも…

 誰か三太郎 20:57

 二十七年間いた組織を批判できる俺カッケーですか

 ああああ 20:59

 その値段でも売れると思ってるから売ってるんでしょ、適正価格って物がありますよ。とにかく現物アップロード頼みます

 ハマチャン 21:02

 ぶしつけではありますが、板野さんはなぜ急にゲームに興味を持ち出したんですか?

 アンチKKK 21:03

 あ~ダメダメ、板野和夫って何言ってもまともに対応する度胸、及び誠意のないオッサンだから(笑)




 匿名でしか物を言えない臆病者の集まりだ、実に哀れだ。


 古川太一(ハマの野球ファン) 21:07

 私が昔買った大人気RPGの攻略本は上下巻合わせて2000円しましたよ。それに比べればそれほど高い気もしないように思うのですがどうでしょうか。

 板野和夫 21:40

 〉古川太一(ハマの野球ファン)さん

 まあねえ、人間にとって何が大事かなんて全然違いますからね。僕にとっては1500円でも高いんでしょうけど、その時の古川さんにとっては2000円でも安かった。そういう事でしょう。


 僕に向かって誠意がない奴だと吠える名無しの権兵衛くんたちがいる。

 僕が誠意がないのはあくまでも腰抜けの名無しの権兵衛に対してであり、ちゃんと真摯に向かい合って来る人間に対してはこうして誠実だ。フォロワー5000を抱える身としてはそういう所も見せねばならない。

 いや、わざわざ誠意を見せびらかすような悪趣味な事をするのもどうかとは思うがたまにはいいだろう。他人に本気で物が言いたいんならばそれぐらいの誠意を示す事が人としての最低限のマナーと言う物ではないだろうか。もちろん匿名でおべんちゃらを並べて来る人間も僕は信用しない。


 アンチKKK 00:12

 ペンネーム:文芸作品を発表するのに使われる、本名以外の名の事。

 ハンドルネーム:インターネットをはじめとしたネットワーク上で使われる別名の事。


 全く、僕が眠いのもあるがせっかく反応しないでいてやったのを、黙りこくって言い返せなくなっているとでも思い込んだのか。

 実名の人にしか反応しないのはペンネームとかハンドルネームとかって言葉を知らないんでしょと言いたげな、何とも幼稚極まる書き込みがされていた。挙句


 アンチKKK 00:15

 まあ平日とは言え時間はあるでしょ、それぐらいの知識を得る暇はあるだろうからその事を学んでからツイッターを使ってちょーだい腰抜けのオッサン。今日中に返信しなかったらあんたはガチモンの腰抜けだね、まあわかりきってるけどwwwwwwwwww


 無視するならば俺の勝ちとでも言いたげな有様だ、ったく朝っぱらから嫌になる。

 こんなのに負けて悔しい訳ではないが、それにしても少しお灸を据えてやらねばなるまい。僕の姿勢と言う奴を見せねばならない、そして彼自身の為にもここで言ってやらねばならない。


 板野和夫 06:42

 〉アンチKKKくん

 まあねえ、キミの様な自称セーギノミカタサマは抵抗しない相手をぶん殴ることしかできないような腰抜けだからね。反白人至上主義団体だから全人類を等しく愛してるんだとか言う寝言を抜かす前に、まずはキミ自身の覆面を外したらどうだい?


 もし彼が引きこもりの無職でなければ、今夜中にまた何かみっともない言い訳を抜かしてくれるだろう。と言うか、そうでなければ困る。

 あんな世迷言の達人様がはびこっているからインターネットはいつまでたっても不健全で危険で信用されない空間と言われるのだ。水曜日と言う週の真ん中の真っ昼間に返答してくるとすればそれはその時間暇な奴、つまり無職以外にはありえないのだ。まあ、逆に言えばこんな世迷言を抜かすような連中を雇ってくれるような企業の方が不安なのだが。


 アンチKKK@デパート勤務 水曜日は日曜日 06:55

 あれれ~、珍しく板野和夫が反応したぞ~。天気予報じゃ晴れるっつってたけど、今日は大雨かな~?


 ふざけた輩だ。まるで次にお前はこういうんだろうと言わんばかりに極めて嘘くさくかつ唐突に俺は無職じゃありませんよーってアピールをして来た。

 でもまあ、こんな上げ底プロフィール、ちょっと突いたらすぐ崩壊するだろう。


 板野和夫 07:12

 じゃあいつもはどこで働いてるんだい、腰抜けデパート店員君

 アンチKKK@デパート勤務 水曜日は日曜日 07:15

 それを言うと確実にじゃあそこには二度と行かないって言ってうちのデパートの経営を邪魔されるから言わねえよ、ああ言っとくけどそれ見たことかやっぱり無職じゃねえかって言ったらあんたの負けだからねwww


 見える、実によく見える。


 彼が顔を真っ赤にしてデパートの店員なんていう仮面を必死にかぶろうとしている姿が僕には実によく見える。

 哀れって言うより、むしろ楽しい。

 この楽しさを独占するだなんてルール違反じゃないか。


 板野和夫 07:17

 出ました!これが自称デパート店員のおばかさんです!!坊やは黙って職安にでも行った方がいいよ、僕が世話してあげようか?

 アンチKKK@デパート勤務 水曜日は日曜日 07:21

 ってかこの人元新聞記者でジャーナリストなのに記事を見た事ないんだけど、どこに載ってるか誰か教えてくれる?って言うか職安って、このオッサンいくつだよ(笑)

 板野和夫 07:23

 五十歳だけど何かな、自称デパート店員君?証拠が見せられないならキミは永遠に自称デパート店員って言う無職の坊やだよ。

 アンチKKK@デパート勤務 水曜日は日曜日 07:58

 名前は都合上載せられねえけどほらよ、これで信じられないんなら板野和夫は妄想世界の住人だな。


 おやおや、ちょっと突いてやったら顔を真っ赤にして住所氏名とデパートの名前、あと顔写真をかわいらしく隠している社員証をアップロードしてくれた。どうやら間違いなくデパートの店員のようだ。

 うん信じよう、信じてあげよう。僕も大人だ、こういう坊やを相手にするぐらいの余裕がなくてはいけない。


 板野和夫 08:02

 ああわかったわかった、よしよしいい子いい子。もう泣き喚かなくていいからね。じゃこの休みを生かして自分の人生を見つめなおしておいでね。


 ああいけないいけない、こんな腰抜け坊やに構っている時間は僕にはない。

 ドラマについての原稿の微修正をすませ、そして木下先生とのインタビューをまとめなければならない。それが終わったらいよいよ大仕事だ。

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