夜のベットの上で
『カチカチ』
時計の秒針が時間を刻む音が聞こえる。彼女と同じ部屋の、僕のベットの上。部屋の窓からは、太陽の光は差し込んでない。未だに夜の闇に包まれている。朝でもないのに僕は目が覚めた。なんで起きたのか。尿意があるわけでもない、空腹でもない。暑くて寝苦しいわけでもなく、寒くて目が覚めたわけでもない。体が僕を起こしたわけじゃない。
僕ではない外部刺激による目覚め。衝撃や光の刺激を伴った目覚め。朝じゃないから光の刺激じゃない。部屋も薄暗いまま。だから、衝撃だ。この部屋にもう一人いる人間。彼女の仕業。
夜の部屋。ベットの上で。
二つの影が重なっていた。天井の淡い明かりが、部屋を『ぼんやり』と照らして。部屋の闇に溶け込むような影が出来上がる。
重なった影は歪な形をしてる。ベットに寝てる僕の上に彼女が乗っかっている。
僕の上に跨っている。彼女の体重が腰の上を圧迫して、重く苦しい。マットレスが、腰の部分だけ深く沈みこんでいる。
彼女の顔は良く見えない。天井の『ぼんやり』と照らすライトが逆光になっているから。重力に従って彼女の髪が垂れ下がり、顔のが下がさらに深くなっている。彼女の目も、口も、鼻も。表情が分からない。笑ってるのか、怒っているのか、悲しんでいるのか、楽しんでるのか。分からない中で、声が聞こえる。
「ふふふ」
弾んだ声で聞こえる、
「おはよ」
「まだ夜だよ」
僕にとっては夜で、彼女にとっては朝で。ちぐはぐな会話が、僕と彼女の間で交わされる。彼女の身体が熱い。腰の上にある彼女の身体が、熱を帯びている。彼女の顔が近づいてくる。鼻と鼻がぶつかって、口と口は触れ合わない。彼女の荒い吐息が僕の口を撫でた。
「ねぇ、いいかな」
「今日もするの?」
「私は、今日もしたいの」
「昨日もしたじゃないか」
「昨日もしたけど、今日もしたい」
「僕には断れないよ」
「嬉しい」
「手加減してね」
彼女の顔が離れていく。鼻と鼻が離れて。彼女の荒い吐息は口を撫でなくなった。彼女の上半身を包むパジャマは、いくつかボタンが取れていて。取れたボタンの隙間から下着が覗いていた。動けない僕の上で彼女は、手を動かした。お腹を両手が撫でながら、胸に到達する。まだ目的地に到着しない両手は、胸を過ぎて鎖骨に。そして目的の首を両手が包んだ。
「じゃあ、するね」
「うん」
首を包んだ両手に力がこめられる。僕の首が徐々に絞めつけられる。正常だった、呼吸のリズムは。だんだんと乱れていく。
「あはっ、ははっ」
徐々に息苦しくなって話すことができなくなる。
「素敵、とっても素敵」
彼女の顔は見えないけど、きっと口が笑ってる。目が怪しくきらめいて。興奮で荒くなった吐息が、さらに熱を深めている。
苦しみに歪む僕の顔を見て、彼女は興奮している。僕を苦しめる興奮と、苦しむ姿を見てさらに興奮する。
僕はただ嬉しかった。彼女に求められることが。好きと言わない彼女が、行動で示してくれている気がして。
だんだん、考えがまとまらなくなる。呼吸ができなくなって、酸素が足りなくなって。頭にもやがかかる。何も考えられなくなる。見えないはずの彼女の笑顔が見える。嬉しいんだね、僕も嬉しいよ。
もう、思考もあやふやになって。僕は墜ちる。深い闇の中。彼女の闇の中。彼女の愛の中に。
おちていく。
問、形ある愛~あなたはそれを認めますか?~ 幽美 有明 @yuubiariake
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