力
夜になると僕は彼女の家に行く。とても近い距離、隣の家に行く。僕の両親も、彼女の両親も。家にはいない。朝は遅く、夜も遅く。同じ職場の同僚であり、幼馴染でもある両親たち。家に女の子一人では危ないからと、夜は彼女の家に泊まる。当然夕飯は僕が作ることになる。お弁当の味付けとは違う味付けにするのは当然の事。彼女が母親の味だと思ってるお弁当と同じ味付けだと、彼女に悟られるからね。
「美味しい!」
「よかった」
嬉しそうに彼女は笑う。木の箸を器用に使って肉じゃがを食べながら。味が染み込むようによく煮込んだから、少し煮崩れしてるけど。彼女は気にしないで、食べ続ける。
夕食の後は勉強。僕は問題ないけど、彼女の学力に問題があるからね。今日の授業を振り返って、僕が教える。彼女は全ての内容を理解できる訳じゃないから、半分くらいわかってればそれでいい。僕がいるから、彼女が分からなくても良いんだ。彼女が努力して学力をあげたいなら別だけど。彼女はそれを望んでいないしね。勉強は30分経ったら終わりにして。寝るまでの残りの時間を、彼女とのんびりと過ごす。
のんびりと過ごすのは僕のしたいことでは無くて。彼女のしたいことだ。昼間は恥ずかしがり屋で、僕のことなんてなんとも思って無い素振りなのに。
夜になると別人になる。力を制御して積極的になる。積極的と言っても『デレデレ』になる訳では無い。より攻撃的になる、と表現するのが正しい。制御した力の有効活用とも言える。
大きめのソファーに座って一緒にテレビを見る。僕の居場所は彼女の膝の上。人形のように抱き締められる。がっしりと、身動きが取れないように抱きしめられる。強すぎる力ではなくて、苦しいけど痛くない力加減で。
その光景は蛇が獲物に巻きついているように、見えるかもしれない。苦しむ姿を楽しむ捕食者のように、彼女は笑っている。テレビが楽しいのではなく、僕が苦しんでいることに歓喜している。
僕は痛みに喘ぐわけでも、叫ぶ訳でもない。痛くないから叫ばないし、喘がない。苦しいのだそれは顔を歪めることはあっても、声が出るほどではない。押しつぶされるような苦しみなんだ。全方位から力を加えられる感覚、包まれ押しつぶされる。
僕はそれを気持ちいいとすら感じる。苦しいだけじゃなく、彼女の力が心地いい。そう思ってしまう。僕がマゾなだけかもしれないけど。夜の彼女が凄いんだとも思う。
彼女の膝に体を上から押さえつけられる。
彼女の上半身に、両腕で押さえつけられる。
彼女の顎が、頭の上に乗る。
後ろに感じる彼女の柔らかさと、前に感じる彼女の力強さ。苦しいけど心地がいい。
「ねぇ」
今だから聞いてみる。あの質問を。
「僕のこと好き?」
彼女は答えてくれない質問を。
「わかんない」
「またはぐらかされた」
わかんないと声が聞こえるのに、腕の力だけが強くなる。
「寝よっか」
「まだ早い気がするけど」
あと十数分すれば九時になる時間。これからが高校生の本番の時間帯。夜が始まる時間
「私が寝たいの。良いでしょ?」
「良いよ」
寝る時は同じ部屋。ベットは別々だけど、同じ部屋で寝る。高校生としてはふしだらな関係かもしれないけど。両家公認の関係なのに、彼女は認めてくれないんだから。
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