最終話まで読んだレビューとなります。
この物語は、短い中にも沢山の思いが詰まっていて胸が締め付けられるような切なさと同時に深く暗い「愛」がとてもよく表現された作品です。
一話ごとの最後の文章に時を刻む表現が入っていることに、まずは疑問を持ちました。
読み進めていくとそれが何を伝えたいのか、よくわかる構成になっていて最終話を読み終わった時に「ああ、なんて美しくも儚いのだろう」と思わせてくれます。
そして、もう一度読み返すと同じ作品であるはずなのに違った景色が見えてきます。
これは作者様の力量のなせるものだと思います。
咲き誇った一輪の薔薇が徐々に枯れていくような、ゆっくりとした時間の流れの中で「君」という枯れてしまった薔薇を「僕」が再び咲かせる方法はひとつだけ。
けして強制的に囚われているのではなく、自分の意思で囚われた「僕」の生きる永遠の時間。
アルバムを一ページずつ捲っては、また最初から眺めているような「僕」の姿。
進んで行く現実の時間を切り離し、止まってしまった時間の中に二人の永遠がある。
もしかすると「僕」はもう寝た切りの高齢者なのかもしれない。
もしかすると「僕」は無気力に惰性で生きている人なのかもしれない。
一切の情報は書かれていません。
そこにあるのは、ただ「僕」と「君」との美しい世界だけ。
さて、永遠を選択した「僕」は本当に幸せなのでしょうか。
是非何度でも繰り返し読んでみて、どうぞこの「問」に皆さんなりの答えを見付けて下さい。
現実の中にある非現実に気が付いた時、一滴の涙が頬を伝うことでしょう。