2話 織田軍3万8千、現代に現れる。

わたしは地球人女子として日本で生きている村仲かおり。

海兵隊のぴっちぴっちの少尉だ。


そしてわたしの相方、天才スナイパー女子の萬屋小梅(よろずやこうめ)

わたし好みの可愛いお尻の女子だ。相思相愛だ。きっと。


さて、あらゆる有事に対応するのが現代の海兵隊だ。

しかし、まさかタイムスリップ事案までは、対応しなくてはいけないとは!


わたしたちは海兵隊仕様ジムニーに乗って、愛知県新城市長篠に来た。

そう!あの織田VS武田の長篠の戦があった場所だ。


たまたま研修で通りかかってしまったのだ。溜息。


萬屋小梅は、その光景を見ながら言った。

「そう言えばわたしの先祖、織田軍の侍大将だったはず、もしかしたらいるかも」

「マジで!でもさ、その先祖が死んだら、小梅ちゃんはどうなるんだろう?」

「さあ」




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深い霧に包まれた設楽原の霧が徐々に晴れて来ると、信長はその異変に気付いた。


何かが違う。


地形自体はあまり変わらないのだが、見た事がない家や黒い物質を敷き詰めた道が、異様に見えたし、鉄の塊らしき物が凄い速さで疾走しているのには、剛の侍たちも驚かせた。


信長は織田軍3万8千に待機を命じた。

そう、まだ447年後の未来に来てしまったとは誰も気づかなかった。



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「設楽原に織田軍がいる」

と通報を受けた新条暑は、ふざけているのかと思ったらしい。

そして、パトカーで確認に向かった警官はそりゃビビった。

「本物だ」

永楽通宝の織田軍の旗が満ちていたし、

設楽原にはいくさ前の殺気に満ちていたからだ。


署長判断で、パトカーの増援は見送られた。

織田軍3万8千と対峙は避けたかったからだ。

愛知県民としても。


織田軍出現の情報は、内閣にもたらされたが、色んな所にたらい回された結果、

「じゃ海兵隊で♪」

となったらしい。



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「そんなもん警察で対応しろよ!」

わたしは叫んだが、相方の小梅ちゃんは、

「ご先祖様に会えるかも」

となんか嬉しそうだ。


さて、わたしたちの仕事は、使者。

大将の信長に会って、事情の説明と今後について話を着ける事。


3万8千の軍勢の前で、海兵隊仕様のジムニーを止めた。

3万8千の侍たちは、凄まじい迫力だし、3000丁の火縄銃を装備していると思うと、嫌な汗が流れた。


わたしは拳銃を確認し、相方はライフルを確認した。

「行こう」

わたしと小梅ちゃんは目を合わせた。


死ぬときは一緒だよ。と思ったとか思ってないとか。



戦国時代では、自分が使者を示す為に、太刀を抜いて振り回すらしい。

が大丈夫だろうか?

なにせ447年前だ。

間違って伝えられたとしたら!

挑発を意味するとしたら!

信長が激怒したら!


軍勢が見守る中、わたしは車から降りると太刀を抜き振り回した。

解らないけど、軍勢の雰囲気から使者だと理解されたらしい。


赤い母衣を付けた若い騎馬武者が近づいてきた。

年齢は十代前半だ。元服が13歳ぐらいだから、侍も大変だ。


「お前たちは何者だ!」

赤母衣は叫んだ。

威勢は良かったが、僅かな恐れを感じた。

これほど訳の解らん状況だし。


「我々は海兵隊、ここは447年後の日本だ」

「447年後の日本?」

さすがの赤母衣も驚愕していた。



そんな中、萬屋小梅ちゃんが、

「わたしは名古屋の団子の萬屋の子孫です!」

と返答した。


少年の侍は

「団子の萬屋?」

何か心当たりのありそうな声で言った。そして

「少々待たれよ」

と陣に帰って行った。


数分後、小梅ちゃん似の少年が連れてこられた。

447年の時を経ているにも関わらず、少年は小梅ちゃんの兄貴かって思わせる程、似ていた。


「ご先祖さま」

小梅ちゃんは感激していたが、少年の方イマイチ理解していなかった。

しかし、その激似ぶりに、母衣武者はなんか納得したようだった。


そっくりなご先祖さまのお蔭で、あっという間に信頼されたらしい。

さすが織田軍、決断が早い。

迅速な我が海兵隊でも、なんやかんやで、判断は延々と先のばされる。


わたしはまだ少年の母衣武者に恐る恐る告げた。

「信長公に拝謁したい」


母衣武者の騎馬は、本陣に駆けて行くと、すぐに戻ってきた。

「案内します」


わたしと小梅ちゃんは、3万8千の軍勢の中を本陣に進んだ。

侍たちの圧が凄い。殺戮が日常的な世界の人々だ。

拳銃を握る手が震えていた。


睨みを利かせる母衣武者が居なければ、恐怖は倍増しそうだ。


なのに小梅ちゃんは楽しそうだ。

「俺の子孫、可愛いね」

小梅ちゃんの先祖の侍は、小梅ちゃんの頭を優しく撫でていた。


本陣と思われる旗が見えた。

「こちらへ」

と母衣武者に言われるまま、椅子に座らされた。


そこへ信長が姿を現した。

歴史的に40代後半なのだろうが、老いが見えていが、目が鋭かった。

信長は、わたしたちを一瞥し、

「447年後だと?」

「はい」

好奇心に満ちた笑顔が漏れ、

「ほおおおおおおおおおおおお」

信長はそう言うと、長篠周辺を見渡した。そして再び

「ほおおおおおおおおおおおお」

と驚嘆した。さらに、空を見上げ

「あれは何じゃ?」


飛行機かな?

と思いながら、空を見上げると、円盤の様な飛行物体が。


「あれは・・・なんでしょう」

と思った瞬間、信長の姿がふっと消えた。

見渡すと織田軍の姿も消えていた。


「「ふぅ」」

わたしと萬屋小梅は、同時に溜息をついた。




       2話・完


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知り合いの怪獣が、わたしに可愛く手を振ってるんですけど。 健野屋ふみ(たけのやふみ) @ituki-siso

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