第47話 最終話 お隣さんと……
「ただいまー。あー疲れたぁ」
エコバッグをフローリングの床に置いて、
「今日は、大荷物でしたね」
「鶏肉をあんな安売りされたら、もう突っ込んでいくしかないよねっ」
二人して、エコバッグをキッチンテーブルに置く。
あれから、数ヶ月が流れて。
俺は、仕事をやめた。本格的に、
各都道府県にある空き家型の倉庫には、スタッフが配置された。配送や預かり所として機能している。お客が留守中に預かっていた荷物は、電話してくれたらバイク便や軽トラック便を使ってお届けするのだ。
他にも空き家の利用は、サテライトオフィスやコワーキングスペース、格安シェアハウスだけにとどまらない。
作家の隠れ家、漫画家のための広い作業場、学生の合宿用施設、認知症患者の受け入れ場などになっている。今では、新型感染症患者の治療施設になることが多いが。
元気な村井の性格もあってか、カフェは大人気だ。ネコの数も、結構増えた。
村井が休むときは、俺がカフェを無償で手伝う。さすがに手はおぼつかないが。フードをメインにしなくてよかった。今はもう、村井とは作業能率が逆転している。相変わらず、料理の腕はからっきしだが。
二階にできたトリマー店も、順調だ。
一旦、村井にメシがいるか聞いてみる。
「村井か? 今帰ったんだが、メシはどうする?」
『自分で作りますよー。もう先輩たちのお手を煩わせませんよ』
「わかった。健康には気を使えよ」
『はーい』
スマホを直そうとしたら、電話がかかってきた。元同僚の
『よっ、新婚さん』
実際そうなのだが、直接言われるとまだ照れるな。
「お前もじゃん。九州支部はどうだ?」
『ああ、こっちに住み替えてよかったよ。メシがうまい。あと道が混まないのがいい』
北坂は、九州の方へ転勤を希望した。奥さんの実家に近いからだ。
俺と寿々花さんは、今でもアパートの同室に住んでいる。挙式なしのジミ婚だが、ご両親も俺の家族も納得してくれた。なにより、妹が号泣したのが意外だったな。
『そっちは、奥さんどうだ?』
「今日、病院に行ってきてな。二ヶ月だってさ」
『いえい! よかったじゃん!』
「俺、泣いちまった」
二人して、爆笑した。だが、今でも涙ぐんでしまう。
『元気そうでよかった。また連絡していいか?』
「いつでもいいぜ。じゃあ、メシの支度するから」
『またなー。今度リモートで飲もうぜ。息子の世話があるから、じゃなー』
「おうおう。じゃな」
さて。今日も、夕飯時だ。
「寿々花さん、今日は何を作りましょうか?」
おそろいのエプロンをして、寿々花さんとキッチンに立つ。
「そうねえ。鮭を焼きましょうか」
「いいですね。初めて会ったときも、鮭でしたよね?」
「だねえ。お隣から、あーんしてあげたよねえ」
あの日々が、懐かしい。
焼き鮭が完成し、俺たちは食卓を囲む。
料理を置く場所は、決まっている。ベランダだ。
「いただきまーす」
「俺も、いただきます」
ビールの缶を開ける。
うまい。社畜時代の「疲れを忘れるため」の酒じゃなく、今日も一日楽しかったときに飲む酒だ。
「はい、ヒデくん。あーん」
箸につまんだ鮭を、寿々花さんが俺に近づけた。その手には、俺が買った指輪が。
俺も、同じ指輪を左手にはめている。
「いただきます。あーん」
初めて会ったときは、ベランダ越しだった。
今では二人、同じベランダでメシを食っている。
「ヒデくん、ちゅーしようよ」
「今ですか? 俺、酒臭いですよ?」
「いいから」
寿々花さんの顔が、近づいてきた。
俺は、寿々花さんと唇を重ねる。
もう俺たちは、ただのお隣さんじゃない。
ずっと一緒だ。
(おわり)
社畜は助けた隣のお姉さんに、ベランダで餌付けされる 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2
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