第6話 マネージャーと事務所

 俺たちが乗り込むと、マネージャーさんの運転で車は発進した。乗る際に、石丸さんがマネージャーさんに何か咎められたりしないか心配になったが、特にそんな様子はなかった。なんなら、俺のことに言及すらしなかった。俺のことは社内でも共有されているのだろうか。だとしたら、会社ぐるみで俺を…?


 しばらく走って、マネージャーさんが話を切り出した。


「初めまして、石丸彩恵のマネージャーをしている、米田よねだ紗弥加さやかと申します。石丸からは事情を聞いていますし、熊谷さんのことは存じ上げております。この度は急にお連れすることになってしまい、申し訳ございません」


「いえいえ、こちらからお願いしたことですし、しかも会議室まで貸していただけるなんて、逆にこちらがお礼をしたいくらいです。また、私をご存じとのことで、恐縮です。」


「熊谷さんは大変礼儀正しいですね。もっと気を楽にしていただいて大丈夫ですよ?」


「あ…すみません、少し緊張していたもので……要件についてのお話は、到着してからのほうが良いですかね?」


「そうですね、よろしくお願いします」


 そうして、米田さんと一連の会話を終え、ふと石丸さんを見る。こちらの様子をニコニコと眺めていた。ちょっと恥ずかしかった。


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 車はどんどん高速を進み、20分ほどで大都市圏に入った。俺の通う学校は郊外に位置するが、大都市圏にも割と近い。学校もそれをウリにしているらしい。


 そんなこんなで、車は高層ビルの間をすり抜け、ひときわ目立つ形状のビルの前に到着した。このビルはその形状の独特さがこのあたりの住民に有名で、俺もこのビルのことはを知っていた。


「ここって芸能事務所だったんですね」


 素直な感想が漏れる。


「雑居ビルなんですが、高層階はうちの事務所が占めています。スタジオも併設しているので、このあたりの総合的な拠点として使っているんですよ」


 さすが芸能事務所が入るビルなだけあってか、セキュリティーはかなり厳重だった。入口で俺はゲスト用のカードキーを渡され、エレベーターホールの前で一人ずつ認証して入る。エレベーターでも認証が必要で、決まった階しか選択できなくなっていた。


 未知の世界との邂逅にワクワクしながらも、何の話をされるのかに対する不安は依然ぬぐえず、よくわからない気持ちのままミーティングルームに通された。


 米田さんから簡単な挨拶を頂いた後、本題に入った。


「今回は、熊谷さんにご依頼とご提案をさせて頂きたく思い、このような場を設けさせていただきました」


「単刀直入に申し上げます。弊社の専属Webエンジニアになっていただけないでしょうか」


「……はい?」


 話のスケールが思ったより大きく、素っ頓狂な声が出てしまう。


「驚くのも無理はありません、これは将来的に考えていただきたいことですので。とりあえず、現段階では、石丸の個人ホームページのリニューアルをお願いしたいです」


 米田さんに促されて、石丸さんが話し出す。


「私、今まで事務所のホームページから情報を流していたんだけど、活動の幅が増えて、ほかの所属先……例えばレーベル会社とかからも情報が出るようになって、ファンのみんなも情報を集めるのに困っていたみたいで。それで、ホームページを作ることにしたんだ」


「以前弊社のウェブサイトのリニューアルをお願いした会社に頼もうと思ったのですが、どうやらそちらは倒産してしまっていたようで、新しい外注先を探していたところ、あなたを見つけました」


「それはありがたい話です。……でも、数多のWebデザイナーがいる中で、どうして俺に白羽の矢が立ったのですか?」


 失礼に当たるかもしれないが、これはどうしても聞いておきたかった。

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高校生エンジニアと転校生アイドル ~転校してきたアイドルが求めていたのは俺のITスキルでした~ あらたな @aratanaaa___

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