第5話 即バレ

 授業の時とは違い、石丸さんは、どこか動揺しているようだった。何かがおかしい。このままではらちが明かないので、こちらから話しかけてみる。


「あの、どうし……」

「もしかして、このサイトを作ったのってあなたですか?!」


 そう言って見せられたスマホ画面に映っていたのは――間違いない、俺の作ったサイトだった。クラスメイトにバレたことは一度もなかったのに、まさか転校してすぐの石丸さんに、俺が本職のエンジニアであることが見つかってしまうとは……。ここで誤魔化すと事情をより拗らせてしまいそうなので、おとなしく認めることにした。


「え……あっ……うん、そうだよ。よくわかったね」


 ここぞとばかりに持ち前のコミュ障スキルが振るい、かすれた声になってしまった。友人なら普通に会話できるのに、喋ったことのない人の前ではいつもこうなってしまう。しかし、石丸さんはそんなことも気にしていない様子で、寧ろどこか安心したように一息ついて、


「ここに書いてあるから、もしかしてーって思ってね」


 そう言って、スマホを器用に操作し、別のアプリを開いた。

 その画面に、俺は言葉を失った。


「なんでそれを…?」

「うちの事務所の人に見せてもらったんだ」


 それは、ビジネスマッチングSNSの、俺のプロフィール画面のスクリーンショットだった。


 ビジネスマッチングSNSは、企業の重役や採用担当者と、就活生や一般人とが登録し、前者が後者を自由に検索し、最適な人材をスカウトしたり、仕事を頼んだりできるサービスだ。たまに俺もそこから仕事をもらったりしているし、実績の欄なんかはつぶさに更新している。


 しかし、これはどういうことだろう。俺のプロフィールは、採用担当者と企業の重役以外には公開しない設定にしてあるし、検索エンジンにも乗らないように設定してある。なのに、石丸さんのスクリーンショットには、その非公開プロフィールがすべて掲載されているのだ。


 さらに恐る恐る尋ねる。


「…で、どうしたの?」

「この学校に来た目的、もうわかるでしょ?」

「…………」

「ずっと、あなたのことを探していました!」


 それを聞き、驚いたのは言うまでもない。併せて焦りも覚えた。さすがに今の発言は誤解を招く。もちろん俺は、今のがではないことくらいは分かっている。しかし、傍から見れば、そうだともとられかねない。そんな台詞を大声で言われたら、どこからかガチ恋勢だかなんだかに襲われて、ナタで刺されてもおかしくないだろう。焦りを押し殺して、何とか言葉を紡ぐ。


「あの…ちょっと場所移してもらってもいい?ちょっとオンライン会議があるから……あっ、でもこの後予定あったりしない?大丈夫?」


 オンライン会議はあるが、実はまだ時間は大丈夫だ。咄嗟に理由を繕ったので、違和感を覚えられたかもしれない。


 だが、相手は大人気アイドル。多忙であろうに、予定を無碍にしてまで話をしてもらうのもなんだか申し訳なくて、結局逃げ道を作ってしまった。


「うん、今日は転校初日だから、丸1日空けてもらってるの」

「ならよかった、じゃあ、いつも使ってる近くの貸会議室へ来てもらってもいい?」


 話の内容が何であれ、この状況を不特定多数に見られるのは危険を伴う。幸い学校の近くには貸会議室があり、クライアントとのオンライン会議の開始時刻が早い時はそこを予約して学校から直行している。あそこなら大丈夫だろう。


「私の話なのに悪いよ…… そうだ!Web会議できるスペースも貸せると思うから、うちの事務所の支社でお話ししない?マネージャーも迎えに来るし」


 突然の提案。流石に急展開過ぎて、頭の処理が追い付かない。


 でも、ここは厚意を受け取ることにしよう。ここで話すより、お互い気が楽だろうし、何しろお迎えが来ているのならそちらを待たせる方が失礼に当たる。


「じゃあ、お言葉に甘えて」


 こうして、俺は石丸さんに(多少距離を離して)ついていき、普段はめったに開かない裏門から、マネージャーさんの車に乗り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る