大好きな君と

白詰えめ

2人だけの思い出を

 高校3年生になった。クラス替えがあって仲が良かった友達と違いクラスになってしまった。「残念だねー、お互いがんばろー」とか言いながら別々な教室へ向かう。少し緊張しながら教室へ足を踏み入れた。

 自分の席を探し座った。準備をしながら誰に話しかけようかな、と考える。結局誰に話しかけることもないまま、朝のホームルームが始まった。

「おはよう御座います。新しいクラスで緊張していると思います。今日から三年生ですね、進路など色々締めの一年です気を引き締めて過ごしましょう」

ぼんやりと外を眺めながら、先生の話を聞く。

チャイムがなり、皆一斉に立ち上がる。ありがとうございました。と挨拶をし、一限目の準備をする。

準備と言っても、一限目は係決めをして終わるそうなので筆箱だけ机に置き、またぼんやりと外を眺めた。


 一限目が始まった。係なんてどうでもよくて、余ったものでいいかと思い最後に手を挙げた。最後に残っていた放送係は2人分枠があり、私と最後まで手を挙げなかった山口さんが係に選ばれた。

 山口さんとはそこではじめた話した。下の名前はゆなというそうだ。私も軽く自己紹介をする。

「高橋りんです。去年も同じクラスだったよねー。去年は全然話せなかったけど、今年はせっかく同じ係になったしいっぱい話そうね!」

そういうとゆなは嬉しそうに表情を和らげた。話す機会が無かったためか、りんはゆなの笑う顔を初めて見た気がした。

「かわいいじゃん」

そう冗談っぽくいうと、ゆなは真っ赤になって「ありがとう」とぎこちなくいった。

「ふふ、そんなに緊張しなくていいからねー」

「う、うん!」

初めの会話はそれだけだった。それでも、全く話さなかった去年と比べると印象がかなり変わった気がした。


 係りの日がやってきた。今日は説明だけだそうで、プリントが配られ説明が始まった。ふと、隣で話を聞いているゆなに目を向けるとてもキラキラした目で先生を見ていた。

 帰る前にゆなに話しかけてみることにした。「放送好きなの?」

急に話しかけたためか驚いた顔をしていたのでりんは付け足して

「楽しそうに説明聞いてたからさ」

と言った。

「うん、前から憧れてて。放送室ってなんだかかっこいいから」

「確かに!かっこいいよねー。なんかラジオ局みたいでさ!」

「ラジオ局!確かにそうだね!そう考えるともっと楽しくなってきた」

キラキラした目をするゆなに少し見とれていた。そんなのも構わずゆなは、楽しそうに今日説明されたことを話していた。りんはなんだか楽しくてずっと聞いていたいと思った。クラスで真面目に過ごしているゆなとキラキラと放送の話をするゆなのギャップに魅力を感じた。

ゆなちゃんってなんかかわいいな。口に出そうかと思ったが、楽しそうに話すゆなをもっと眺めていたいと思い辞めた。


 クラスでの彼女は相変わらず真面目な雰囲気を漂わせている。少しだけ近寄り難い雰囲気だからか、話しかける人はほとんどいない。りんはそれがちょっぴり嬉しかった。こんな気持ちダメだよねなんて思いながら。


 2回目の係りの日がきた、今日は練習をするそうだ。お昼の放送の練習らしい。1人は機材を調節して、もう1人は放送するらしく。りんは機材の調節をする事にした。機材の説明はすぐに終わった。ボタンを数個押して、音割れしないように音量を調節するだけだそうだ。時間が余ったので放送の説明をしている教室に戻りゆなの隣に座った。熱心にメモをとっていた。りんに気がつくとすごいでしょというようにメモを見せてきた。楽しそうに笑うゆなに笑い返す。放送が楽しみだなと思った。


 そのままりんとゆなは一緒に帰ることになった。オレンジ色に染まっていく空を見上げながら、話をした。

「係楽しみだねー」

「私機材だけなのになんだか緊張するなー」

「機材って高そうだしね」

「だよね!」

 くだらない話をしながら分かれ道に着いた。バイバイ、とゆなが手を振る。少し寂しかったがりんも笑顔で振り返した。


 家に帰ると今日のことを思い返した。ゆなの姿が頭から離れなかった。まるで恋をしてしまったみたいに。


 それから、いつのまにかゆなを目で追うようになっていた。もちろん周りには気づかれない程度だが、りんの中では大きな変化だった。係の日が来ても胸の高鳴りが止まない。その時の記憶が曖昧になるほどに恋をしていた。

 とうとう、ゆなの放送の日がやってきた。前日の夜はゆなが目一杯放送ができるようにシュミレーションを繰り返した。四限目の終わりのチャイムが鳴り、2人で放送室へ向かった。

 放送は無事終了した。りんは安心すると同時に、ゆなと話す時間が減ってしまうのではないかと不安に包まれてもいた。

 家に帰ってからこの感情の行き場を探した。

「女の子同士なんて、変かな?でも今は普通って聞くし、どうしよう」

 苦しいような嬉しいようなそんな感情を抱えながら。そっとメッセージアプリを開きゆなとの会話履歴を眺める。思わず顔が綻ぶ。

「やっぱり、好きだな」

 その勢いで明日一緒に帰ろうと約束をした。


 放課後になり、一緒に教室を出た。靴を履きながら、りんはどこか行かない?とゆなに問いかける。いいね、と返事をもらい。2人でカフェに行くことにした。

 ゆったりとした空気が流れるカフェに着いた。2人で向かい合って座る。適当に注文を済ませて話し始めた。

「ゆなちゃんって、彼氏とかいないの?」

 りんは、我ながらいきなりすぎたと後悔しながらゆなの表情を見る。ゆなは真っ赤になって、いないよ!と言った。それを聞いてりんは安心し

「こんなに可愛いのにー」

と付け加えた。

「そんな!りんちゃんぐらいだよ。そんな風に言ってくれるの」

 ゆなはとても照れ臭そうに笑っている。そんな話をしているうちに注文したものが届き、また2人でたわいもない話しを続けた。

 りんはコーヒーを飲み干し意を決したように深呼吸をした。

「ねえ、ゆなちゃん」

 りんの真剣な表情にゆなも「どうしたの?」と言いながら真剣な眼差しで見つめ返す。

「私、ゆなちゃんの事が好きです。大好きです」

 りんに顔は赤くなり、ゆなも好きの意味が友情の好きではない事に気がついた。

「もしよかったら、付き合ってくれませんか?」

 しばらく沈黙の時間が流れた。りんにはその時間がとても早く感じられた。それはゆなも同じだった。その沈黙を切り裂くように

「こちらこそ!よろしくお願いします」

とゆなが精一杯の声で言った。

 りんは嬉しくてたまらなかった。大好きな人と付き合う事ができた、と心の中で何度も繰り返した。周りに聞こえていたらどうしようという思いからカフェに居づらくなり、カフェを出た。そろそろ帰ろうかという話になり、2人で歩幅を合わせて歩いた。会話はいつも通り弾んで、一緒にいて楽しいと改めて感じた。


 翌日学校に行くと何も変わらない風景が待っていた。だが、りんの目からはゆなが一層輝いて見えた。思わず手を振ると、振り返してくれた。その日も一緒に帰ることにした。学校の中でも沢山話したいと思いつつも、ゆなの嬉々として話す姿を自分だけがみれる姿にしたいとりんは思い。いつも通り過ごしていた。ゆなも同じだったようで、帰り道その事を一緒に笑った。その分2人だけの時間がとても長く濃いものに感じられた。

 これから紡ぐ物語も、あなたの声も一緒に見る景色も、誰にも教えたくない。決して言えない。誰にも言えない恋が始まった。その言葉はとても心地が良く。自由なんだと背中を押してくれているように感じた。性別が同じだって、何も支障はない。2人で笑い合えるなら。

 これから先は2人だけの秘密だ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大好きな君と 白詰えめ @Rion_ame

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ