第6話

 このことがあって後、僕は言葉を話すのが不自由になり、一緒に遊ぶ仲間に入れてもらえなくなった。ほどなく、長屋団地からも出なければならなくなって、僕たち家族は父の実家に身を寄せることになった。母は、笑わなくなった。小学校に上がってからも、僕はみんなから「言葉や顎がへんだから気持ちが悪い」と苛められた。

 そういえば、長屋団地を出るとき、あの十姉妹は、引越し荷物のなかになかった。

「十姉妹は、事情をよく説明して、大隈さんに引き取ってもらわなければならないよ」と父が母に話していたのを覚えている。

 こうして思い返してみると、あの長屋団地では、ほとんど全部の家で十姉妹の番いを飼っていて、みんな鑑札がついていたのだった。

 両親が他界し、妻との協議離婚が成立した今になって、僕はそのことが気にかかって仕方がない。とはいえ、それを確かめる術もないのだが。

 その後の僕の人生を決めてしまった、十姉妹が逃げた日の話である。

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十姉妹が逃げた日 新出既出 @shinnsyutukisyutu

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