第12話 人造人間の兄弟

 夜も明け、朝日が昇り出した早朝。城の屋上のベンチにて町長が黄昏れている。

 すると、眼鏡を掛けた女性町長が階段を上がってきて、町長の座るベンチに近づいてきた。 


「ここにられましたか」

「おや? 君もいつもより早いな」

「はい。昨夜の件がありますので」


 彼女は町長の秘書であり、まだ二十歳ながら頭脳明晰と町長の頼れる知恵袋でもある。

 普段ならあと一、二時間後に出勤してくるのだが、今日は忙しくなることを見越して早く出勤した。


「民衆はどうだ? 朝っぱらだってのに町中が騒がしい」

「その様で。門の前にも人々が密集していたので私も仕方なく裏口から入りました」

「そうだろう。今まで、霧と首無し騎士に関しては良くも悪くも民衆は慣れ、同時に恐れて大きな騒ぎにまでならなかった……がなぁ」


 実はハーゲルンにおける謎の霧と首無し騎士の出現自体は数え切れないくらい起きている。

 それもかなり古くから起きているらしく、一説では今の城塞都市として完成した頃には既に当たり前になったと伝わっていた。

 霧は夜にしか出現しないが、深夜であったり夜明け前など特に決まった時間帯なわけでもないが、霧が発生すると何処からか首無し騎士が現れ、その目的は不明だが、轟音と共に町の建築物や壁を不規則に破壊するのが何度も確認されており、そして霧が消えると間もなく姿を消す。


「あんな事まで起きてしまえばこうもなるのは当たり前ではあるが……」


 ベンチから立ち上がり屋上から下の方を見る町長、城の周りには大勢の民衆が押し寄せている。流石に声までは届かないが、この数は彼が町長に就いてから一度も無かった。


 かつては首無し騎士を捕らえようとした兵士や興味本位で倒そうとする旅人がいたが、勝てた者など一人もおらず、いつしか霧が出たら基本的に外に出てはいけない条例が定められた。

 そのため、外で首無し騎士が破壊活動を行っていても、住んでる家が破壊でもされない限りは下手に動かないのが当たり前だが、昨夜の戦いにおいて発生した巨大な火柱は流石に多くの民衆の注目を浴び、前例のない事態に民衆達の間で大騒ぎとなってしまい今に至る。


「ところで、その火柱は首無し騎士によるものでしょうか?」

「いや……。奴ではない。それに奴なら捕まったと先程報告を受けた」

「あの首無し騎士を!? いったい誰が……?」

「アダマント帝国騎士団、その団長だ。先に言っておくが、あの火柱はそいつらとも無関係だ」


 再びベンチに座り、手元にある葉巻に火を点け咥える町長は、屋上に上がる前に騎士団の一人から聞いていた首無し騎士捕獲の事実を秘書に伝える。

 普段は冷静な秘書も長年成し遂げられなかった首無し騎士の捕獲には驚きを隠せない。


「なあ君。内密に調べてほしいものがあるのだが」


 今の町長にとっては首無し騎士よりも気がかりな事がある。


「どのような件で?」

、そしてについて。出来れば早急に」

「――分かりました」


 それなりに長い付き合いだからか秘書は町長の考えで色々と察したが、特に触れるわけでもなく急ぎ足で屋上を走り去った。


(これから事態はどう動くか……)


 先の事が不安な町長は葉巻を咥えながら空を見上げた。






 時は遡る。

 下水道の隠し部屋の中でアユラと再会したハツメであったが、アユラの隣にいる得体の知れない存在を人造人間ツヴァイとして紹介され、細かな説明を聞いていた。


「ひとまず、貴方はこの町が出来る前のさらに昔、城塞が作られた頃にはいたってことね?」

「はい……」

「それにしても本当に人造人間がいるなんて……」


 人造人間ホムンクルスは錬金術に携わる者達が皆知っていて当たり前の人造生物である。

 だが、その実在に対しての確証となる物が無く、あくまで理論的、伝説的存在ではと錬金術師の間で一般化するほどの存在であった。

 そんな人造人間が本当に存在し、しかも生きて喋れる状態で目の前にいることが今のハツメには衝撃であった。

 

「先に言っておきますとこの身体については別に本体ではない継ぎ接ぎなのであまり気にしない方が良いかと……」

「どういうこと?」


 継ぎ接ぎと言われてもユイグの様な石魔人の接続がどうしても浮かぶハツメにはよく分からなかった。


「ねえツヴァイ。直接見せた方が早くない?」

「そうですね」


 隣に座るアユラの提案を聞き入れ、ツヴァイは身に纏う鎧の胸当てを外す。


「えっ、どういうこと……」


 胸当ての外れた箇所を見たハツメは動揺しながらそれをよく見る。

 まるで屍のような白い素肌をしているが、問題はそこではなく、であった。

 そして緑色の謎の液体が密閉された大きめの広口瓶の中に浮かぶ何かが――。


「この中にいるのが私。人造人間の姿です」


 瓶の中から聞こえる透き通った声。

 声の主は液体の中を漂う丸まった小人のような存在。そう、これこそが人造人間ツヴァイそのものであった。

 小人の本体は身動きこそ取らないが、確かに瓶の中の小人から声が発せられている

 そんなツヴァイの姿にハツメは見覚えがあった。


「知ってる……本に図面で載っていたわ」


 幼少期に読まされた錬金術の書物に載っていた小人のような人造人間の図解とよく似ているのだ。


「これで信じてもらえたでしょうか」

「流石に信じるしかないわね……。でも瓶の押し込まれたその身体は?」

「見ての通り動くのに不自由でして、ある種の念力が使えるのでそれで適当な部品を継ぎ合わせて擬似的なからたとして使っているんです」


 そう言いながら両手を動かせて見せるツヴァイ。

 人造人間は瓶から出られない存在であるため、この様に仮初ながら自由に動ける身体が必要なのだ。


「そういやさツヴァイ。ケイドがお前を知っていた理由は何なんだ?」

「それは私も気になるわ。出来れば教えてくれないかしら?」


 この隠し部屋とツヴァイの事を知っていたケイドであるが、二人はケイドの事を殆ど知らないため、ツヴァイの事もだがケイドに関する事も知りたい気持ちがあった。


「ケイドさんは――」


 ツヴァイがケイドについて話そうとしたその時、隠し部屋に轟音が走り、部屋中が大きく揺れる。


「わわッ!? 何だよ!?」


 周囲の物が倒れ、慌てながらも自身にぶつからないようにテーブルの下に潜るアユラ。しかし、揺れは直ぐに揺れが収まる。

 それに対してツヴァイは何かを感知した様子であった。


「――地上で何かが……アイン兄さんの反応が無い!?」

「アイン兄さん……?」


 ツヴァイの口から飛び出した名にハツメが反応する。ツヴァイの声はどこか焦りがあり、どうやら大切な存在のようだ。


「今までこんな事無かったのに……どうして……」

「大丈夫……?」


 何やら不安で周りが見えない様子のツヴァイにハツメが優しく近づく。

 よく見ると仮初の身体がツヴァイの感情が現れているのか小さく揺れていた。


「兄さんってことは、もしかして三人の人造人間の一人かしら……?」


 その一言にツヴァイはハツメの方へ身体を向ける。


「……はい。人造人間の一人であるアイン。私より先に生み出された、いわば私の兄の様な存在であり、同時にとして恐れられた存在です」






(明るい、朝か)


 また見覚えのない寝室のベッドの上で目を覚ましたユイグ。カーテン越しながら窓から日が差していた。


(またやっちまったか……)


 どうしてか身体に力が入らない中、ただ天井を見上げるしか出来ず、昨夜の戦いについて思い出そうとしていた。だが、どういうわけか、アッシュとの戦いの記憶が途中で途切れていた。


 何とか思い出そうとしていると寝室の扉が開き、誰かが部屋へと入ってくる。


「おや、お目覚めか」

「アンタは……ケイド?」


 首だけを何とか扉の方へと向けたユイグが目にしたのはケイドであった。


「ってことは、ここはアンタの家か?」

「ああ。昨夜に君を見かけて放っておけなくてね。ここは私の寝室さ」


 昨夜の戦いの後、意識を失ったユイグはケイドに運ばれ、ケイドの家の一階の寝室と運ばれていたのだ。

 そんな中、ユイグはケイドに対して気になる事を呟く。


「ところでアンタ。オレのことは……」

「君の、いや、君達三人の素性なら把握している」

「……だろうな」


 ユイグはあまり驚かなかった。

 会った時にアユラの素性を気づいてた様子や、自分が目覚めるまでに調べることを出来ただろうとケイドの目を見て察した。


「しかし、私もがあってね。まずはお互いのために協力しないか?」

「協力だと? 助けてくれたことには感謝するがオレはアンタのことを全然知らない」


 突然協力を申し出てきたケイドにユイグは少し警戒する。あまりにもケイドの素性が分からないのだ。無理はない。


「私も話せることは追々話そう。それにこんな状況だぞ」


 ケイドベッドのすぐ横のカーテンを少し捲り、窓の外の様子をユイグへ見せる。


 目に見える範囲でもたくさんの兵士達が町中を走り、民衆が集まって不安そうな顔で何かを話している。

 昨日ハーゲルンへ訪れた時とは明らかに空気が違う。その光景にユイグは何かを察する。


「もしかしてこれは……」

「君だ。君の戦いで町中大騒ぎになっている」

「……だろうな」


 記憶にこそ残っていないものの、記憶に残らないほどの無理をした結果がこれなのだとユイグは直感で理解した。


「先程、町の情報屋から聞いたのだが、アダマント帝国の騎士団、しかも、その団長を相手にしたのはマズかったな」

「騎士団長か……道理で統率力があったわけだ」

「その様子だとよく知らずに戦っていたのか」

「それどころじゃなかったからな」


 戦いに必死なあまり知ることの無かったアッシュと帝国騎士団についてユイグは初めて知る。


「彼らはハーゲルンの兵士も手伝わせて君を探している。しばらく動かない方がいいだろう」


 早朝からアッシュの指示の元、ハーゲルン全体でユイグの捜索が行われており、町中は首無し騎士に加えて伝説の存在とされる石魔人の噂でもちきりであった。


 当のユイグはそもそも動ける状態ですらないが。


「どっちにしろこの身体では出たくても出られんな。そもそもオレの身体はどうなっている?」

「とりあえず上に纏っていた? 物はそこにあるよ」


 ベッドから少し離れたタンスの方を指差すケイド。タンスの前には布が敷かれ、その上にはユイグが接続していた大人サイズの身体や四肢、頭部が載っていた。


「ってことは今のオレはチビか……」

「しかも、そちらもマトモに動かない。詳しくは知らない私でも理解出来るぐらいには酷い状態だ」


 首を動かすことしか出来ないためユイグには見ることは出来ないが、昨夜の戦いによる反動が大きく、身体の至るところに罅や欠損箇所があり、身体中に魔力等が回らぬ状態であった。


「直せるのは錬金術師のあの娘ぐらいだろ? 彼女達をここに連れてくるべきか」

「彼女達……? おい! アンタ二人の居場所を知ってるのか!」


 動けない自分の身体以上に今何処にいるのか分からないハツメとアユラの事が心配なユイグであったが、ユイグの声が大きかったためにケイドは咄嗟にユイグの口に人差し指を当てる。


「シーッ……。静かにしてくれ。ああ、二人は今とある場所にいてね。少なくともこの状況下では比較的安全な場所ではある。――今のところは」

「なんだ……。その含みのある言い方は」 

「それは追って話そう。何よりも先に君を運び出さないといけない」

「でもどうやってだ?」


 外には兵士達、ユイグは動けないと、とても運び出せるとはユイグには考えれない。


「ある道を使おう。本当なら使ってはいけないと言われたのだが、手段も選んでいられない上、急いだ方が良い」


 そう言うとケイドはベッドのすぐ横の床に敷いてあるカーペットを部屋の片隅にどける


「まさか道って……」


 身体が動かせないので見ることは出来ないが、大体の位置から何かを察するユイグ。一方ケイドは無言でカーペットとあった床に不自然に敷いてある正方形の木の板に手を伸ばす。


「この下だ」


 小さな窪みに左手の指を引っ掛ける。そのまま指を上に引っ張ると板が外れ、大人二、三人が入れるほどの穴が現れた。


「先においてくれ」

「ん? 何して……おい!」


 突然ケイドは布団でユイグの全身を丸めるように包ませ、紐で硬く縛ってユイグを両手で持ち上げる。


「はい」

「ハッ……?」


 そのまま穴の中へユイグを落とすケイド。


「ケイド! テメエエェェェェ……!」


 落ちながら聞こえてくるユイグの怒鳴り声。しかし、ケイドはそんな事を気にせずにタンスの中からコートを取り出し着込む。


「私も行きますか」


 色々と物が入っているのか、ギュウギュウ詰めの鞄を背負いながらケイドも穴へと飛び込んでいく。






(暗いな……しかし、なんだこれは?)


 穴から落ちてきたユイグは鉄の箱らしい物の中にいた。周りを見てみるものの、薄暗く、自分のいる辺りしか分からない。

 

「ちょっと待ちなさい。直ぐに灯りを点けるから」

「おう、悪い。……っていつの間に来たんだお前!?」


 急に後ろから話しかけてくるケイドにユイグは驚きを隠せない。

 布団で包んであったとはいえ大きな音を立てて落ちてきたユイグと違い、ケイドは物音一つ立てずに現れた。


「そんな事よりこれで見えるだろ?」


 ケイドが手に持つランタンの灯りにより今いる場所がハッキリと見えてくる。

 石造りの空間で辺り一面が人工的に加工された石の壁で覆われており、二人の目の前には先の見えないトンネルらしき物があった。


「ここから先に進めば彼女達がいる。じゃあ落ちないように気をつけてくれよ」

「落ちないようにって既に落ち――ああ、そういうことか……」


 自分の乗る鉄の箱らしき物が少しずつ動き出していることに気づくユイグ。その動きで自分が今乗っている物が何か理解した。


「かなり古いトロッコだから大きく揺れるかもしれないけどそこは我慢してくれ」


 そう、二人の乗るのは鉄で出来たトロッコだったのだ。トロッコ自体は三千年前にも存在していたためユイグも見覚えがあったのだ。

 灯りが点いたことでよく見えるのだが、かなり錆びついており、少し動いただけでも常人なら耳を塞ぎたく擦れる音が鳴っている。


「しかし、こんな速度で落ちるなんてないだろ」


 トンネルへと入り、トロッコがゆっくりと進んでいく中で落ちる程の速度も出てないことが気になる。


「いや、このトンネル自体も古くてね。度重なる落盤とかで雑な補強がされたぐらいでね、マトモな線路なんて最初なぐらいさ。つまり」

「……大体察した」


 急にトロッコが斜め下へと向き、徐々に速度が上がりだす。


「地下への一方通行の高速便だよ」

「オワアアアアアア!?」


 物凄い速度で地下へと高速で進み、降りていくトロッコ。あまりの速度に身動きの取れないユイグにとっては流石に洒落にならず、普段は出さないような声を出してしまう。






「話せることは話してやった。だからいずれアンタの素性も話してもらう」

「分かったよ。落ち着いたら話す」


 再び真っ直ぐの道となった線路を進むトロッコ。   

 落ち着いて話せる状況なので、既に大体の素性がバレていたユイグはケイドに自分の素性についていくつか説明した。その代わり、ケイドの素性も後々話すように約束する。


「しかし、これが城塞の内側ってところか」


 ユイグは周囲を見渡す。下り坂の線路の先は広い空間が広がっており、数え切れないほどの石柱に支えられ、牢屋や小屋のような物もあり、人骨や錆びついた武器がそこら中に転がっている。


「そうだね。城塞として万全に機能していた頃は人の出入りも多かったらしい。それも今では地上への道が落盤で塞がり、ご覧の様に色々と散乱しているが」

「城塞ね……。あらためて考えてもこんな平原のド真ん中によく作ったもんだ」

「ハハハハ。全くだね」


 レバーを動かしながらトロッコを動かすケイドとかつての城塞の中で会話をするユイグ。


「――――で、この町は何を隠してる?」


 冷静な声でケイドに問うユイグ。その問いにケイドは少し黙りこむものの、やがて口を開く。


人造人間ホムンクルス。君も既に会っただろう?」

「……やっぱりか」


 ケイドの口から出た人造人間の言葉に何かを納得するユイグ。


「……あの首無し野郎もそうなんだろ?」

「ああ、君が出会した首無し騎士デュラハンもその一人、アインだ」


 昨夜戦いを繰り広げ、アッシュに敗北し連れて行かれた首無し騎士についてユイグは薄々気づいていたため、ここにきて人造人間だった事実が腑に落ちた。


「オレ達の時代では研究されていた程度で実現に至らなかったが、一応は完成してたのか」

「そういえば石魔人も三千年前の錬金術師が生み出したのだったね」

「ああ、顔も思い出せんがな」


 ユイグを含む六人の石魔人を生み出した錬金術師。今のユイグにはその記憶が殆ど無く、何処の国で、どんな錬金術師によって自分が生み出されたのか覚えていない。


「君はそれらを思い出し、自分という存在について知るために旅をしていると」

「ああ。オレも早速こんな厄介事になるとは想像していなかったがな」


 目を細めて天井を見上げるユイグ。その姿はどこか寂しげであった。


「しかし、首無し騎士について感付いていたようだが」

「大通りの近くで見かけた奴の破壊後に小さいが奴の魔力の痕跡が感じれてな。その波長がオレ達石魔人に似てた時点でそんな気はしてた」


 昨夜の時点でユイグが妙に首無し騎士に警戒していたのは魔力の大きさだけではなく、その波長故だった。


「それと、もしかしてかもしれないが、人造人間に子供のような奴もいるんじゃないのか?」

「子供? ……いや、まさか」


 何か思い当たるような節のあるケイドの様子にユイグはさらに続ける。


「アンタの家に足を踏み入れようとした時、突然子供の声がした。その直ぐ後だ。霧が出たのは」

「…………これはマズいな」

「マズイ……?」


 声色が重くなるケイド。やはり子供の声について知っている様だ。

 レバーを動かす手を速め、トロッコの速度が上がりだす。


「後で話すつもりだったが、先に伝えておこう」

「知ってるなら教えてくれ」


 速度の上がるトロッコの上でケイドは重大な事をユイグに伝える。


「人造人間ドライ。三人いる人造人間で私は兄弟と呼んでるが、その最後に生み出された子にして


 現在ハツメとアユラと共にいるツヴァイ。現在帝国騎士団に捕まっているアイン。それに次ぐもう一人の人造人間ドライの名を。


「最も危険……それが声の子供か」

「間違いない。霧を発生させているのもあの子だが眠り続けながらそれをやっていた。意識が表面した上で霧を発生させたのなら、アインが捕まったところもおそらく目撃している」


 ケイドの頬を冷や汗が伝う。それほどにドライの危険性を理解していた。


「最後に目覚めたのは確か五年ほど前。そして、一部の者しか知らないが

「滅ぼしそうになった……!? 待てよ、そんな奴が仲間を連れて行かれた事を知っているとなると」


 最悪の事態が二人の脳裏を過ぎる。


「ああ。ドライはアインの事で怒り狂い、再びハーゲルンが滅びの危機に瀕するのは確実だ。






 ハーゲルンの城の地下深く。ハーゲルンの城が丸々と収まりそうな程のとても広い石壁に囲まれた部屋の中心、魔法陣の描かれた床の上にそれはあった。


 人間の大人の頭程ある丸いフラスコ、紫色の液体の中、そこにいるのは魔法による光の鎖に縛られた人造人間。


「許さない……アイン……お兄ちゃん……!」


 人造人間ドライの瞳が静かに開いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

錬金術師は石の魔人に心を見る 桃灯太郎 @toutoumomomo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ