【bokor-邪術師-】

 彼女がなにを言っているのかは分からない。眼は虚ろで、血が額から流れてかすんでいた。死が行儀よく僕の命を運ぶのを待っている。


 【white mage-白魔導師-】だった彼女が、血液をタールみたいに付けた白い髪をなびかせる。それだけを僕は鮮烈に覚えている。苦しいのに、唾液を飲まれているような痴美的な感覚を宿して、僕はその映写機で撮ったような曖昧なノイズ雑じりの思い出を何度もリピートする。


 あかい【coal tar-魔素-】がまわりで揺らいでいる。理を壊すほどの力が鎮座している。彼女はもうそこにはいない。


 「―――・・・―――・・?」


 彼女がなにかを言っている。音声が割れ、記憶が嘘を付き、僕らの思い出は恐怖をまといはじめる。朝焼けのマントに疵みたいな歪んだ星のブローチ。手にした【magica wand-魔法の杖-】。マジック・アイテムの群れと、彼女の美しい【albino-先天性色素欠乏症-】の眼(まなこ)は、彼女の存在を希薄にしているみたいだった。


 彼女はその杖に願った。仄暗い闇の中に、深い深い深淵を受け入れる夢を。


かつて友人だった屍骸タチの隣に立つ彼女を見ている。


 【wizzard-魔法遣い-】、僕のジョブの名だ。今は【bokor-邪術師-】の彼女を―――殺す為の名だ。僕はフード付きのオリーヴのトップスを纏い、彼女の血でその服を染めるまで生きてゆくことを誓った。絶対に殺してやると誓った。

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【wizzard-魔法遣い-】 ロヴィン @rovin_black

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