第2話 異世界転生したけどテレビのドッキリかなんかだと思って全く動画ない相沢さん
次に目が覚めた時には、俺たちは草原に寝転がっていた。
隣には、プロジェクトマネージャーの相沢さんが寝ている。会社で寝泊まりするのに慣れているからだろうか、草原でも気持ちよさそうに寝ている。
相沢さんは凄腕のキャリアウーマンだ。迷いのない指示で仕事が遅れることはほとんどなく、無駄のない指揮でコストも安くすることができる。が、酒を飲むといつも寝入ってしまってスーツをよれよれにしてしまう。今回は泊まり込みの睡眠ではあるが、無防備な姿は変に色っぽい。
他にも泊まりこんでいた、桂、七瀬、流川が寝転んでいる。彼らも相沢さんお気に入りのエンジニアとアシスタントだ。彼らは入社したてのおれとは違い、エンジニアとしても高収入なエリートエンジニアである。アシスタントの流川も一年先の先輩でまだエンジニア経験は少ないが、素人から見てもわかるくらい圧倒的な速さで新しい仕事を覚えていく。我が社の若きエースだ。
おれはというと、先に言った通り入社したての新人なのだが、相沢さんたちの働きぶりに、つい自分も優秀な人材になれるのるではないかと金魚の糞のように付き纏っているだけなのだ。
そんなおれは、さっきまで会社で仕事という名の休みをとっていたのに気がついたら草原にいるのが現実なんて思いもしない。
おれはまた夢かと思ったので、もうしばらく寝て見ることにした。
だが、寝そべったところで描き慣れたスマホの目覚ましの後が鳴り響く。そのおかげで、みんなが少しずつ動き出して、相澤さんがガバッと勢いよく飛び起きた。
「えっ! にぼし!」
寝起きの一言に、思わず吹き出す。
その頃にはおれのも今起きていることが夢ではなくてどうやら現実だと少しずつ実感し始めていた。
相沢さんは寝ぼけ眼で言う。
「おい、どうなってるんだ。こんな草原で遊んでる場合じゃないだろ。早く帰らないと、ほら芹沢お前もそんなところで寝ぼけてないで」
相沢さんはまだここが夢だと思っている様子だ。おれもまだリアルな夢だと疑っているところだが、どうやら(相沢さんの)頬を引っ張っても、(相沢さんの)耳を引っ張ってみても、(相沢さんの)頬を軽くビンタしてみても、夢である感覚はしない。
「おのれ芹沢! なにし腐るんじゃお前わぁ!」
と、相沢さんが完全に起きたところて、ようやく、草原で寝ている非現実なことが現実なんだなと理解できた。
相沢さんは身を縮めて慌てる。
「どうなっているんだ、ここはどこ、私は誰!?」
「あなたは相澤さんです。そしてここは草原です」
「おかしい! なんで私たちは草原にいるんだ! おかしい!」
「ですよね...」
確かにおかしい。
なぜ、会社で泊まり込みの作業をしていたメンバーが全員こんな草原で寝ていたのだろうか。
夢だと思っても仕方がない。
しかし、夢ではないとなると一体...そのときふと頭をよぎったのは、過労。
まさかと思ったが、夢ではないならここはどうやら現世ではないのかもしれない...いやそんなはずはない、そう自分に言い聞かせる。
相沢さんも気がついたのか今度は身を震わせて自分を抱きしめている。
「おい、芹沢くん? もももしかしてここは死後の世界というわけじゃないのかな、過労の後の世界というあの」
「やめてくださいみっともない。相沢さんや先輩たちならともかくおれがそんなわけないじゃないですか」
「そっかそっか」
「一応言っておきますが、今のは謙遜です」
というのも、エリートのエンジニアたちが身を熟して働いていたのならわかるのだが、大した仕事をしていたわけでもないおれがそんなことになるとは思えなかった。
きっと何か別の原因があるに違いない。おれはそう思うと、ふと先ほどパソコンが緑に光っていた話を相沢さんに伝えた。
相沢さんはふむふむと言って聞いていたが、なるほどわからんと言うと、近くに寝ていた桂をヒールで蹴っ飛ばして叩き起こしていた。
「ああ、桂小五郎。早く起きぃ、心情に勝負せよ」
「ぐぁあ! な、何スカ。マネージャー。心情じゃなくて尋常にですし...あれ、ここどこ」
「あ!? カスマネージャーだって!」
「言ってない言ってない」
桂が起きると、隣の七瀬も目を覚ます。七瀬は会社の中で珍しいと女性社員ということもあり、相沢から特に気に入られていた。
「ふわぁ、あれどこ」
「おきまちたかー、七瀬ちゃーん」
「あ、相沢さん、おはようございます。ここどこですか?」
桂が、さぁ、と軽く答えて、相沢に尋ねる。
「マネージャー、これはまさかしてテレビ番組のドッキリというやつですか? 目が覚めて草原にいるなんていかにもドッキリらしい」
「何をふざけている。誰かが寝ている私たちをこんなどこともしれない草原まで連れてきて、遠巻きからやーいひっかかったー、などと言いつつ見守っているとでも。私が企てたとしたら私までこんなところにはいないさ。ドッキリだというならそれでも構わんのだ。それより」
と、相沢さんはおれの伝えたことをわかりやすく解釈し直して桂に伝えてくれた。
それを聞いた桂の意見はこうだ。
「多分、その時にデスクトップが暴発して僕たちは天国付近にいるのではないですかね。それ以外に考えられません」
桂のブラックジョークが飛ぶ。
だが、それもまんざら冗談だと思えなかった。
緑に光るデスクトップ、本来パソコンが光るというと、暗い場所で必要以上に明るくしているからに他ならない。だが、大抵の場合は遠目に見て白く光るものだ。
これは経験上間違いない、幾度となく泊まり込みで見た光景だからだ。本来消灯しているはずの時間にパソコンだけがうっすら点灯しているのは目に堪える。
あの時のあの光、緑色に光るというならば緑のフィルターを通すか、緑に光るものが光るしかない。
だが、もちろんそんなものはその場にないわけである。
考え込む僕の体を相沢さんが引っ張る。
「考えても仕方ない。これがドッキリという可能性が一番高い以上、こっそり撮影されていて、醜態を晒していると想定すべき。我々はなんとしてもここがどこか突き止めてさっさと業務に戻らないといけない。それに」
それに?
「実は、久しぶりの外にワクワクしている。さっさといくぞ」
相沢さんのわんぱくぶりに感心する。こんなところだ突然放り出されたら、普通は慌てるものなのに。
エンジニアがハッキングしたら異世界への扉が開いたので、あたらしい世界で仕事を探してみる。 天瀬 @CLANNAD
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