第11話
11話
◉実験
アキラはゲームセンターでオンライン麻雀をやるのが趣味だった。麻雀闘技場3。
彼女との待ち合わせの前に余裕がある時の少しの時間や仕事帰りのほんの30分。アキラの彼女は大学生で彼女と休みが被らない日は一日中でもゲームセンターにいた。
毎日のようにゲームセンターでやるものだから店内ランキング上位になるようになってきた。そこで気付く。
(この不動のランキング1位の人の名前。なんだか最近耳にしたような…。
『JINGI』さんかー。ふーん。ジンギ??
あれ、もしかして闇テンのピンフのジンギさん?いやまさか)
すると横にスッとマルメンライトが置かれて隣の席に長い髪を後ろに縛ったサムライのようなイケメンが座った。
「よう」
ジンギさんだった。
「こっ、こんにちは。なんだか意外です。ジンギさんはもっと鉄火場でビシバシ打つタイプだと思っていました」
「ああ、これは実験よ」
「実験?」
よく見たら隣の席はゲーム途中だった、どうやらタバコを買いに席を立っていただけでそこにはもう何時間も前からジンギが座っていたらしい。灰皿にあるマルメンライトの吸い殻の山がその時間の長さを物語っている。
「そう、実験。例えばこれなんてどうだ」と言って妙な事をした。
4巡目ドラ五
一四五五六七③④335777
親番中。ここから5を切った。
おかしな選択だ。ここは一を捨てておけば何も問題ないはずだ。まだ三色を見切る必要はないし一は別に安全牌というわけでもない。
「どうよ、ここで5捨てておけばおれがこの後に攻めた時1-46-9引いた奴は押しにくいだろ。しかもそこは対子や刻子でブロックしてるから掴まされたらもうお終いだ。崩すしかないって寸法よ」
「はー、成る程ね。あえて読ませる事で追い詰めて降ろすってことかあ」
「色々な打ち方を試してんだ。オレ自身まだまだ未熟なのは明白だからよ。かと言って雀荘で実験して負けたら金が減ってシャレにならねえだろ」
「はあ…真面目なんですね」
「真面目?ハハハ!!んな訳ねえだろ。働きたくないから麻雀で稼ごうとして研究してるだけだ。どこも真面目じゃねえんだよ」
と言いつつも褒められていい気になったのかジンギは笑顔になっていた。するとジンギはある事に気付く。
「ちょっと待て、プレイヤー名『よにんめ』ってアキラくんだったのか。おれ何回か当たってるけど勝ったことが無いぞ!」
「そうだったんですね。でもそんなのは偶然ですよ。僕なんて…」
「偶然なわけがあるかい!なんだその平均順位はよ!明らかに強すぎるわ。先生って呼んでいいかい」
「それは構いませんけど、多分…」
「多分?」
「多分だけど、コテツくんはもっと強いです」
「本当かよ!!!」
「はい、悔しいけど」
悔しい、強くなりたい。勝ちたい。そんな想いが若い2人の魂をふつふつと燃え上がらせていた。
麻雀青春物語『カラスたちの戯れ』 彼方 @morikozue
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