第10話

10話

◉名刺代わりの8000オール


 勝負は東場は一進一退で接戦だったが最終的にはコテツが勝った。


 南1局のコテツの手は

二三三四五七八④⑤⑥⑨⑨4

ドラ④のこの手に中盤に差し掛かったタイミングで西を引いたが安全牌としてキープせずにツモ切り。そこにコテツの状況読みの鋭さが見える。この手は索子が最終形として優秀であると読み切ったのだ。索子の中央から下の待ちになれば勝てるという読みと心中した西切り。

 その後ツモ3で打八とし完璧な一向聴へと進化させた後にまた西を引いたが九は固められている可能性がありそうだが六はある。という読みから西はやはりツモ切り。そしてツモ四でリーチ!

 この2枚の西にコテツの自らの読みを信じる強さと自分の手順を貫くという誇りが感じられた。

 この局は結局、山に2-5はごっそりあるという読みは正解していたがコテツの元には来なかった。皮肉にも六を引いてしまうが全員が当たり牌を掴まされていたのでコテツの1人テンパイで流局する。


 立番をしていた女子バイトのリカは

「なんで西を持っておかないの?怖くないの?」と訊ねるが。

「こんなん怖くて麻雀が打てるかっての。まあ、多少は怖いけどさ。でも、麻雀において読みってのは自分の持ち味でありプライドだ。その自分の読みを…つまりはプライドを裏切った先に負けるとしたら…その方がずっと怖いからさ。スティーブに教えてもらったんだけどさ、何を捨てるかで誇りが問われるんだってよ」


「へえええ〜。南ちゃんって勇気あるのね。イケメンな麻雀。かっこいいわ」

「その前にスティーブ・ジョブズを友人かのように言うのはやめろ」とアキラ。

「お、よく知ってるね」

「僕は常識には強いんだよ」


 勝負を決めたのは南2局流れ一本場のこの手


三三四五六七七②③④345 ドラ③


 ここに三を引いたがそこからノータイムでリーチ。この手をツモって2000は2100オールで終わりにせずフリテンリーチとし赤五を一発でツモったのである。


三三三四五六七②③④345 赤五ツモ


 裏ドラも③で8000は8100オール。南場の親倍ツモは東場で決めるのとは比較にならないくらいの破壊力がある。名刺代わりに披露するには丁度いい、はじめまして私はこういう人間ですと2100オール拒否のフリテン8100オールはジンギにそう語りかけていた。アキラとマサルも内心で(流石!決めてたとばかりのノータイムリーチがフリテンとはね。強えわ)とそのアガリを見てコテツの力強さと決断力を肌で感じた。



 一方、計算女王シオリは悩んでいた。

 家賃こそ無駄遣いの最大であると思っている計算女のシオリは当時の職場まで乗り換えなしで行ける田舎に部屋を安く借りていたが、プロになりタイトルを獲りと有名になるにつれ色々な所へ行くようになった。交通費は出してもらえると言っても目的地に行くまでの時間はかかる。このままだと不便だ。それにーー


「よし!引っ越そう!」


 それに、富士2号店まで乗り換え2回で片道1時間40分は遠過ぎる。


 シオリは都心部に引っ越すことを決意した。家賃は安く済むようにと駅からは少し離れた場所を探して自転車購入も計画していたのはさすがだった。


(また来るって約束しちゃったからね。今の場所だと不便だし!)と自分に言い訳していたが更新月が過ぎてからまだ三ヶ月なのにもう引っ越そうとするのはどう考えてもシオリらしくなく、感情で突き動かされているのは明白だった。

 シオリは忙しいスケジュールの合間に部屋を掃除して片付けて、せっせと荷造りを開始していた。

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