第9話

9話

◉高評価闇テン


 コテツは学生の頃から異性にモテた。バレンタインにチョコレートをもらわないなんてことは一度もなかったし、高校1年の頃は女子含めクラスで1番かわいいという喜んでいいものかよく分からない評価をされた。2学期の時にはH組とI組の2クラスの男子16名を巻き込んだ校内での麻雀による一斉停学。その主犯として4週間の停学室通学(停学中も学校に来なければならない地獄のシステム)を強いられたがその後も人気は落ちず。むしろ、担任の若い女教師からはその時の停学で書かされた反省文が「まるで太宰のような文章だ」と高評価を受けてその後は教師にまで好かれる。高校2年の頃には少数ではあるがファンクラブのようなものすらあった。

 だが、自分が好きな子には一切振り向いてもらえず。それでは意味がないので異性とは付き合うことなく学生時代をただ麻雀のみに費やした。

 そんな女っ気のないコテツの人生に今ついにチャンスが来たかもしれない。それも最高に魅力的な女に気に入られた。そんな予感がする。



「なー、相手は女王シオリだぞ。落ち着けよ。また来るとか社交辞令だと思うし。来るにしてもそんな頻繁には来れないだろうよ。今彼女は時の人だ。あっちこっちイベントで忙しいだろうからな」とアキラは言う。


「そうだな、それは分かってる。分かってるけどよ、なんだろう。オレって勘がいいから。多分…きっとまた来る。会えるって気がするんだよな」


「へいへい。たしかにアンタの勘はよく当たるよ。来るといーな」



カランコロン


「いらっしゃいませ!」


 そこに入ってきたのは若い頃の木村タクヤのようなロン毛のイケメンだった。

 

「おおーーー!ギンジじゃないか久しぶり!」とマサルが懐かしそうにする。

「あれ?!ここマサルの職場なのか。偶然だなぁ!」

「マネージャー、こちらの方は?」

「ああ、こいつは北山ギンジ。私の学生の頃の将棋仲間さ。すげーアタマがいい奴で麻雀も強いぜ。で、ギンジはいま何やってんだ?」


「何にも。色々あって今はフラフラしてるよ。ギンジって呼ばれるのも久しぶりだ。巷ではジンギって呼ばれてるからもうそっちの名前の方がしっくりきてる」


「仁義?いいじゃんギンジの性格を表すような名だ、昔から義理堅いとこあるもんな。じゃあここでもジンギでポイントカード作っとくわ!将棋は今でも指してるの?」


「テレビゲームでやるくらいかな。シンイチがプロになったのは本当に誇らしいよ。おれは今は麻雀の方が楽しい」


「お前には麻雀の方が向いているだろうね。将棋でも奇抜な戦略や心理戦で勝つスタイルだったもんな。そこにいるコテツくんに似てるタイプだ。コテツくんご新規さんにルール説明お願いね」


ーールール説明を一通り終えてゲーム開始。



「ロン」


 東1局はジンギ得意の闇テンから始まった。


二三四五五④⑤⑥12334 2ロン


ドラは一


 7巡目のピンフのみだ。空気が冷えるようなアガリ。絶妙なバランス感覚の闇テンだ。リーチしての打点上昇より4を1枚引いた方がいいし赤やドラを吸収出来る自由を失ってまでリーチはしたくない。何よりテンパイ気配をコテツにすら悟らせなかったのは凄いことだ。コテツはほんの僅かなテンポの違いでテンパイに気付いてしまう超人である。急なアガリにコテツはかなり驚いた。

 これがピンズ部分が③④⑤なら三色に目を向けて多くの人がダマに出来るが④⑤⑥なのが絶妙だ。これだけでジンギの強さがある程度分かる。

 麻雀にはアガれても低評価になるリーチと高評価になる闇テンがある。この手は高評価闇テンだと言えるだろう。


「はい」と千点を支払うマサルの目はじっくりとジンギの手と全体図を眺めていた。マサルも測っているのだ、ジンギの雀力を。また、アキラもそのピンフのみをジッと見つめて考えている。一度手を開ければその手から力を測られる。このレベルの手合いとの対局では手順の悪い下手打った手などは開くだけでもリスクなのである。


 このアガリに対して3人が3人とも同時に同じ事を思った。


(こいつは手強いぞ!)と。

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