200年後の地球

クロノヒョウ

第1話



 コンビニで買い物をした。


 会計は2222円。


 俺はレシートの数字を見ながら外へ出る。


 目の前に停まっていた車のナンバーが22-22。


 それをチラッと横目で見てため息をついた。


 (決まりだ……よな)


 今日はなにかと2222を目にする。


 エンジェルナンバーか。


 ポケットからスマホを取り出し電話をかけた。


「もしもし、俺です。決まりました。はい、今からそちらに行きます」


 少し手が震えていることに気付いた。


 興奮しているのか、それとも怖いのか。


 博士との会話を思い出していた。




「200年後の地球を見てきてくれないか」


「はい?」


「多くの有識者は地球はあと200年ももたないと言っている。でも私はそうは思わないんだよ」


 絵に書いたような優しい笑顔のおじいちゃん。


 俺の博士に対するイメージだった。


「このタイムマシンの存在を知っているのは私と君だけ」


「ええ、わかってます」


 博士が作ったタイムマシン。


 俺が見守る中、博士は何度も時間旅行をやってのけた。


 博士のこともこのタイムマシンのことも信用している。


「自分で行きたいのは山々なんだ。でもさすがに200年となるとね。私の体力的にも不安が残る。どうか頼まれてくれないかね」


「突然のことで、ちょっと」


「もちろんゆっくり考えてくれていいよ」


「はい」



 それから一週間、俺はずっと悩んでいた。


 昨日の博士の説明はこうだった。


 西暦2222年の地球のどこかにたどり着く。


 場所は特定できない。


 1人乗りのタイムマシンは37分とちょっと、2222秒後に自動的にもとの場所に帰ってくる仕組みとなっている。


 この話を聴いてからの今日だったため、2222というエンジェルナンバーが俺の気持ちを決定づけた。



「よく決心してくれたね」


 いつも通りの博士の笑顔。


「世の中の全てのモノが俺に行けと言っているようでしたから」


「はっはっは、そうか。じゃあ行かないといけないね」


「はい」


「それじゃあ早速で悪いけどこれを着て」


 博士は俺に宇宙服を差し出した。


「宇宙服?」


「もしもの時のためにね」


 もしもの時。


 確かに200年ともなれば地球自体の存在もわからないということか。


 博士に手伝ってもらいながら俺は宇宙服を着た。


 少し嬉しかった。


 まさかこんな形で宇宙服を着ることができるなんて。


「いいかい。外に出るのはいいけど何も持ち帰ってはいけないし何も痕跡を残さないこと。そして2222秒後にはタイムマシンに乗っていないと帰ってこれないからね」


「わかってます」


 狭いタイムマシンに入って寝そべる。


「行ってきます」


「うん。それじゃあ西暦2222年に。行ってらっしゃい」


 博士の笑顔を最後に俺は目を閉じた。




 一瞬だけGのような衝撃を体に感じた。


 俺は恐る恐る目を開けた。


「わあっ」


 真っ暗な宇宙。


 それが第一印象だった。


 映画で見るような宇宙とは少し違う。


 映画では必ずそばに地球が見えていたが、ここは何もないただの宇宙空間。


 (やっぱり地球は……)


 少し切なくなったのもつかの間、俺は興奮しながらタイムマシンのドアを開けて外に出た。


 ロープが繋がっているのを確認して立ち上がる。


 上手くバランスがとれなくて体がくるくると回転してしまった。


「ハッハッハッ……」


 突然イヤホンから笑い声が聴こえて俺は辺りを見る。


 誰かに体を支えられた。


「ここは初めてか?」


 体が止まって振り返るとそこには……俺がいた。


「ふえっ?」


 間違いなく俺だった。


「そうか、お前が初めての俺か」


 俺がそう言って笑う。


「な、どういうことだ」


 俺が聞く。


「つまりだ。地球が失くなっているのを知って俺と博士はその原因を探ることにした。今は地球を守るためにいろいろな活動を始めたところだ。そして俺はまたこの2222年を確かめに来たってわけさ」


「そうか……」


 するとまたイヤホンから声が聴こえた。


「おーい」

「俺か?」

「こっちこっち」

「俺だ!」

「そっちも俺か」


 周りを見るとあちこちから宇宙服を着た人が集まってくる。


「な、なんだ?」


「ん? あれは全部俺だよ」


「は? 俺?」


「そう、全部俺。お前の一年後の俺から十年後くらいまでの俺じゃないのかな」


「そうか。じゃあまだ地球を救えてないってことなんだな」


「そういうことだ。理解が早くて助かるよ」


「って、いろいろ話したいけどそろそろ時間になる」


「そうだな、俺たちも戻るよ」


「うん、それじゃあまた」


「うん、またここで」


 俺と俺たちはそれぞれのタイムマシンに戻っていった。


 なんとも言えない複雑な気持ちだった。


 2222秒を知らせる音が鳴る。


 一瞬のGを感じた。



 そして目の前には博士の笑顔。


「おお、よくぞ戻った。で? どうだった?」


 目を輝かせて俺を見る博士。


 俺はドアを開けて起き上がりふうっと息を吐いた。


「西暦2222年には……俺がたくさんいました」


「な、なんと!」


 しばらくの沈黙のあと、俺と博士はなんだかおかしくなって二人でいつまでも笑っていた。





          完




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200年後の地球 クロノヒョウ @kurono-hyo

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