エピローグ
私が暮らしている家には長い廊下があり、それを渡ると隣に建っている博物館のような建物へ移動することができる。今日はとてもいい天気だからこっちで夜ご飯を食べようと思って、夏野菜カレーとごはんをナベごとピクニックバスケットに入れて持ってきた。とってもお腹が空いている。
私は映画館のような大きな扉をあけ、ドーム状の高い天井と1つだけの椅子がある円形の部屋へ入った。その中央には黒くて大きい筒のような機械がある――それはプラネタリウムの投影機ではなく、天体望遠鏡だ。そう、ここは天体観測所。ここがわたしの家だ。
世界を壊した事件のあと、私はパンドラのペイロードに水素タンクを搭載する設計を公開した。パンドラはデブリの交差軌道に入り、水素ガスを散布する。デブリはガスの抵抗で急激にエネルギを失い、地球に落ちる。細かく狙いやすい小型ロケットであるパンドラはデブリ掃除に使いやすく、数百万回うちあげられ、デブリは3年のうちに90%がなくなった。これも計画の前から準備していたことだ。
意外なことに、宇宙が綺麗になっても人工衛星の基数はかなり減ったままだった、打ち上げなおされた衛星も、DAEMONのステルス技術を民間用に流用して、地上からはあまり見えないように配慮されている。そして通信は成層圏プラットフォームが担っている。
人類はまた、いつでもほんものの星空を見ることができるようになった。
いつもの観測室をよく見ると、私だけの特等席、”ゼロG”マッサージチェアに、誰かがいることに気づいた。驚いてうなじが逆立つ。
その人がシートのタッチパネルを操作したのか、ドーム状の天井が音を立てて2つに割れ、天井の動きにあわせるように照明が暗くなっていく。しばらくして目が慣れると、そこには一面の星空があった。どれだけ見ても飽きない、ほんものの星空だ。
マッサージチェアに座っていた人がゆっくり立ち上がって、こちらを向く。
「そのカレー、私もいただいてもいいかしら?」
プラチナブロンドの髪が、星空に照らされて輝いている。
私はバスケットを置いて、その人に駆け寄る。
そして、いつまでも抱き合った。二度と離れないように。
私たちはやっと、世界を壊すことに成功した。
すべてが暖かかった。
2人の女の子がロケットをつくって世界を壊すおはなし 八重ナギ @norisionori
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