なろう系異世界の通貨は使いづらい!


「おじさん、これいくら?」

「銅貨2枚だね」

「んーっと……この辺り来るの初めてで、物価がよくわかってないんだけど、ひと月の生活費ってどのくらい?」

「俺らみたいな、しがないのが暮らすなら、銀貨10枚あれば充分だろ」


 さっき見たやり取りで、銅貨100枚=銀貨1枚、銀貨100枚=金貨1枚。それで、大雑把に銀貨1枚=1万円くらいとすれば、銅貨1枚=100円くらいか。

 露店で売ってる謎肉の串焼きが200円……まぁ、そんなものか。


………………

…………

……


 中世ヨーロッパ風異世界におけるなろう系作品でおなじみの価値観。

 昨今は異世界召喚展開ばかりでなくなったとはいえ、現代日本に生きた前世の価値観を持った主人公も少なくないので、作中世界の金銭価値と読者の常識とすり合わせるようなこの展開、よくあるけどさ……


 読んでて違和感覚えないものなの?

 自分なんかは結構気になるんだが。



■数え方『●貨〇〇枚』に疑問を抱かないわけ?■


 普通に考えたらさ? 金銭の数え方って『〇〇(通貨の単位)』なのよ。

 単位は作品ごとに自由でいい。ゴールドだろうがクレジットだろうがガメルだろうがガルドだろうがゼニーだろうがルピーだろうがベリーだろうがエリスだろうが。その辺りはなにも関係なければ、作品の設定にも絡んでくることもある。

 『何ポイント分の通貨を持ってる』『物品を入手したりサービスを受けるには何ポイント消費する』と、通貨の単位で示す。



 しかし、なろう系作品では通貨の単位を出さず、『金貨〇〇枚』『銅貨〇〇枚と貨幣の種類と個数で金額を示すことが多い。


 これさ? 現代人の実生活において、ありえない金額の数え方なんだけど。


 自分の所持金……サイフの中身を、『1000円札が2枚、100円玉が3枚、10円玉が1枚』と数えるのは、まぁまだあり得るとしよう。実際に紙幣・貨幣の種類と、その個数があるのは純然たる事実なんだし。


 だけど物やサービスの価格を『1000円札が3枚分』とか言うことあるか? いやねーよ。

 なに? 意地でも1000円札で払わなきゃならんの? 500円玉・100円玉が混じってたり、5000円札・1万円札を出してお釣りをもらう払い方は許されんの?

 物価高のご時世だというのに企業努力で税込み980円の価格にしたらもっとどうなのよ? 説明する時でさえ『100円玉9枚に10円玉8枚』だぜ? 長くて回りくどい。

 支払う時になったらもっとどうするの? 1000円札は使えないわけ? 500円・50円玉の混入はOKなの?


 このように通貨の数え方で『●貨〇〇枚』は、スマートではないのだ。

 なのに当たり前みたいな顔で多数の作品で使われている。



■一〇〇進数の貨幣って使いづらくて仕方なくね?■


 この辺りは自分の偏見も含まれていることは重々理解しているが。


 なんかさ。銅貨100枚=銀貨1枚、銀貨100枚=金貨1枚って、金属の質が100進数で変わる設定、多くない?


 これさ? メチャクチャ使いづらいと思うのよ?

 だって実生活で、100円玉なり10円玉なり、同じ種類の小銭が10枚あるだけで、結構邪魔だよ? それが100枚単位?

 現代の日本円の場合は10進数どころか、途中で5円玉・50円玉・500円玉・5000円札という5進まで組み込んでいるからな? 100数えて硬貨の種類が変わる100進数なんぞ、使ってられない証明だぞ?


 複数の店で、それぞれ50枚程度の買い物しようとしたら大変だよ? 貨幣何枚用意しておかないとならないの? お釣りをもらうとしても、買い物の度にサイフがいっぱいになるような大量のコインをやり取りすることに代わりはない。

 店の側はもっと大変。売買のたびに正確かつ素早くコインを数えて渡さないといけない。あと、どのくらいお釣りを用意しておけばいいの? 



■元ネタは時代劇?■


 なろう系ファンタジー作品で蔓延はびこる、通貨の謎ルール。

 最初は誰が作ったなんの作品で、どんな経緯か……なんてことはわからない。なので証拠を示すことはできないのだが……


 なんとなく時代劇との類似性を見出してしまうのよ。


 金貨・銀貨・せん貨と3種類の貨幣を使用。(銭貨は鉄・銅・真鍮などの合金)。

 使うキャラクターの身分や、お金を使うシチュエーションなどで、貨幣の種類の棲み分けができている。

 通貨の単位である『貫』は銀貨・銭貨で、『分』『朱』は金貨・銀銀貨両方で使用。なので古文書だと『銀〇貫』『銭〇貫』、『金○分』『銀〇分』と、貨幣の種類を頭に記載する。

 金貨・銀貨はともかくとして、銭貨は大量に流通。1文銭96枚に紐を通して、そのままならば100文として、バラして小口の支払いにも使用していた。


 こんな風に、なろう系ファンタジーで出てくる貨幣設定と類似点があるのだ。


 ……まぁ、似ているというだけで、そのままではないんだけど。

 銭貨だって年代が移行すると、4文銭と100文銭が登場するし。やっぱり1文銭だけでは不便だったんだろう。

 金貨だって1両小判・2分金貨・1分金貨・2朱金貨・1朱金貨。銀貨だって丁銀・1分銀貨・2朱銀貨・1朱銀貨と複数ある。

 やはり金・銀・銅それぞれの貨幣1種類で、流通の全てを担うのは無理がある。

 たまーに大金貨・小金貨といった風に、10倍ないし50倍のところで貨幣が変わる設定の作品も見られるが、それでも実生活からするとまだ不足気味。


 そもそも金貨・銀貨・銭貨を使っていた江戸時代の三貨制度は、歴史上他に類を見ないほど複雑怪奇なのだ。

 この異常さを表すのに、『日本円だけでなく、ドルとユーロが一緒に使われていた』といった言い方をする。

 一応貨幣の種類を跨る公的な価値……たとえば1両は4000文相当というのは存在するのだが、実際には金相場・銀相場・銭相場の三つ別れていた。

 ニュースを見ると円相場、今日は1ドル百何円とか発表があるが、江戸時代では『日本円』というくくりの中でも価値が変動していたのだ。

 変な言い方になるが、例えば1000円札は『1円玉1000枚分の価値がある』と公称されているが、実際にはある日は1001枚分、違う日には999枚分と、日によって価値が違うような状態だったのだ。


 つまり、厳密にやろうとすれば、支払いに銀貨を出して、お釣りに銭貨を受け取るなんて、面倒くさくてやってられない。

 FXをやってなく、海外旅行に行くときでなければ、円高・円安なんて意識もしない一般人が、今日の相場はいくらか……なんてことを調べてそろばん弾かないとならないのだ。


 あれー? そう考えると類似点よりも相違点のほうが大きいような……

 なろう系ファンタジーの経済設定、元ネタはどこから来たのだろうか?


■経済大丈夫?■


・100進数で貨幣の価値が変わる。

・通貨の単位を出すことなく『●貨〇〇枚』という言い方をする。


 考えれば考えるほど、この設定のリアリティがなくなるのだが……


 ならば逆を考えてみよう。

 『こういうものだ』と設定を普遍なものとして、どういうことが起こるのかを考えてみたい……んだけど。

 

 経済が安定できず、即ダメになる未来しか見えないんだが。


 なぜそうなるかの前に疑問なんだが……

 なろう系中世ヨーロッパ風異世界において、貨幣の発行はどうなっているのだろう?

 この設定、世界に通貨が一種類しかない前提で作られているとしか思えないのだが?


 他国のものなり、自国のものでも改鋳するなりで、貴金属の含有量が異なる貨幣が市場に入った場合、どうなるのだろう?


 なんかさ? 結局『●貨〇〇枚』で流通しそうな気がするのよ? もちろん自分の一方的な思い込みで、なんら根拠はないけれど、否定できる根拠もない。しかも100進数とか通貨の単位がないとか、実生活で間違いなく苦労する足りなさを考えると……ねぇ?

 グレシャムの法則、『悪貨は良貨を駆逐する』になんら対応できず、経済が冷え込むのになんら対応できなさそうな気がしてならない。

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誰も気にしないだろうけど自分はすっごく気になる設定 風待月 @kazemachi

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