弐話 彼女達は快活な犯罪者である。

「ウチは“ネナシカズラ”っス!気軽にネナって呼んで欲しいっス!」


 ピョンピョンと軽く跳ねながら、快活な自己紹介をする少女は「ネナ」。

 燃えるような赤いポニーテールが動きに合わせてフリフリと揺れている。

 よわいは16とのこと。


「私はコードネーム“サンダルウッド”です。よろしくお願い致します」

「この子の事はサンちゃんって呼んであげて欲しいっス!」

「ちょ、そんな馴れ馴れしくしたら失礼でしょ……!」


 もう1人はネナと対照的に大人しそうな少女「サン」。

 大海を思わせる蒼い髪をショートボブにした少女だ。

 齢は18だそうだ。


「あ、あぁ。ネナとサンだね。宜しく頼む。吾輩はノベル・Lリミット・メテオなる物書きの端くれで――」

「知ってるっス!知ってるっス!ジョーシキっスよ!大ファンっス!サイン貰って良いっスか!?」

「このそらで貴方の事を知らないのは無知ですよ」


 どうやら両者とも、吾輩の作品のファンであるらしい。

 この様な年若い女性にも読んで貰えているとは、なんとも嬉しい事である。

 ……もっとも、吾輩も未だ23の若輩でしかないのだが。


「良く吾輩のメッセージに応えてくれたものだ。それも直ぐに」

「いや~、このヒッツのおかげっス」

『我はコードネーム“ひっつき虫”。「ヒッツ」などと呼ばれている。サイバーペットだ。よろしく頼む』


 ネナが右手に巻いた装置のスイッチを押せば、立体映像の猫が空中に出現した。

 これこそはサイバーペット。情報の命を有する電子の獣。

 定命の生き物を飼う文化は、とうの昔に廃れた。


「送られる情報は基本的に、ヒッツが選別して弾いています。ただし、私たちが興味を持つ内容は弾かないで届けてくれるのです。私たちがファンだって知っていたので、ノベル先生のメッセージは直ぐに通されたんですよ」

「成程。説明感謝する。そしてヒッツ、吾輩のメッセージを通してくれて有難う。これから宜しく頼むよ」

『にゃあ。この程度、造作も無し。お安い御用にゃ』


 とはいえ。是程これほどの流暢な受け答え。恐らく正規のサイバーペットではあるまい。

 彼女たちが自作したと考えるのが自然だ。

 何故ならば――


「然れども、1つ納得がいかない。君たちが吾輩の申し出を受け入れ、こうして顔を出してくれたのは何故だ?アエジネチアは中立を掲げる星間ハッカー集団であろう?」


 ――彼女たちは星間ハッカー集団「アエジネチア」の一員。

 可憐な見た目に騙されてはならない。全宙域で指名手配されている、紛うこと無き犯罪者なのだ。


「その通りっスね。ウチらは決して戦争やら政争やらには加担しないと決めてるっス」

「アエジネチアの名の由来は、木に寄生して生きる寄生植物。私たちは、この世界の片隅に間借りして日々を生きることを信条にしています。寄生先の木を枯らしてしまっては意味がありませんからね」


 そして、数ある星間ハッカー集団でもアエジネチアは特に異質だ。

 其のハッキング能力は最上級と言われているが、決して何処の陣営・集団にも肩入れしない奇特な集団。戦争などに加担した事は一度として無い。


「それでは、何故に?」


 そんな集団の一員たる彼女らが、吾輩の計画に力を貸してくれる。

 吾輩の住まうスペースコロニーに、態々密入国してまで来てくれた。

 其れは一体、何故なのだろうか。


「白状すればですね。直前に言った内容は全て建前です。結果的にそうなっているというだけ。本当は……」


 問えば、彼女たちは――


「ウチらは常に、自分たちが楽しい事をしてるだけっスから!」

『にゃあ!』

 

 ――と、実に見事な笑顔で答えた。

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機動兵器が戦争する世界で病弱文系に出来る事は在りますか? 夢泉 創字 @tomoe2222

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