みずこかがみ

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みずこかがみ


 私の実家は小さな農村で、川が流れていた。その川は度々荒れていたらしく、昔の人が治水に成功していなければ村は潰れていたと聞く。そんなのどかな村に私は有給を使って帰ってきている。

 母に会うととても歓迎してくれた。

「よく帰ってきたわねぇ!大丈夫?向こうで上手くやれてる?大変なことあったらお母さんに言いなね?」

 私も母に会えて嬉しい。

 それはそうとお母さんは昔の言いつけ覚えてる?と突然聞いてきたのだ。私は…「覚えてるよ1、人に迷惑をかけない。2、人に迷惑かけられても怒らない。

3、ミズコ川には近づかない」

母は私の最後の答えを聞いてほっとした様子で語る。

「その通り。大人になった今でも全部まもってね?」

私はもちろん、と言うふうに頷くと自分の部屋へ帰って行った。

 …とは言ったものの小さい頃に1度だけ行って当時大事だった何かを無くしてしまったので残ってはいないだろうけどもしかしたらあるかもと期待してしまう。

 当時何があったんだっけ…

 わ█しが████を落と█て…██こ█じぞ█が来て、ぶくぶくのお█きなあ██ちゃんにかこ██て█████████

██████████████████

鮮明には思い出せない…なんだっけ…まぁ、忘れてるってことはどうでもいいことだよね。今日は寝ることにした。

『ぺちぺち…ぺちぺち…』

 今日はすこし早く起きれた。せっかくだからほんの少しだけみずこ川に行ってみようかな。無くしたアレ、あるといいな。

 私は少し歩いて河原まで来た。大事なあれはなかったけど川のところのお地蔵さんが居た。前来た時はあんなとこにあったっけ?そんなことを思っていると

「ギシシシシシ」

唐突に地蔵が動き出し、カァンカァンと音を立てて手の甲で拍手を始めた。見えるのは一体なのに色んな方向から聞こえてくる。あと、あの拍手ってあまりいい意味じゃないよね…?

 私は困惑しながらもまずいことにならないように―もう手遅れかもしれないけど―必死で考えた。

 すると、どこから来たのか私の肩に無言の赤ちゃんがしがみついていた…ゾッとしたが今の状況を考えると下手に振りほどいたりして祟られても大変だ、と考えていると左足に赤ちゃんが、それも後頭部が不自然にへこんでいる。横を見れば私ほどもある四つん這いの赤ちゃんがじーっと私を見ている。私が恐ろしさに動けずに居ると

「あ゙ぁ゙ぁ゙ァァァン!!」

と赤子に似つかわしくないしゃがれた声で耳が壊れんばかりに叫び出し、収まったかと思えばぺちぺち…ぺちぺち…と手の甲で拍手しだした…まずい、どうにかしないとと思い思考を巡らせていると、キラリと川の水面が反射した瞬間水面からおぼろげな赤ちゃんの姿がぬるりぬるりと出てきた。ひぃっと声が出そうな口を押え、状況を整理していた。幸い赤ちゃん達も地蔵も私に物理的な危害は与えてこない。

 すると、母が知らないおばさんを連れてこっちへ向かってきた。来ては行けない、そもそも見えているのかも分からないが親まで巻き込む訳には行かない。「えいやぁぁぁ!!」おばさんの怒声と共に大量の塩がこちらへ飛んでくる。赤ちゃんのせいで身動きが取れない私はもろに塩を被るが代わりに塩は真っ黒にそまって赤ちゃん達がこちらを見ながら消えていく。

 視界がフッと暗くなる― █████████████████  ████████ハ████████

████████ナ████████

████████サ████████

████████ナ████████

████████イ████████

█████████████████


―私は気付くと実家のベッドに寝ていた。

 天井には黒いタール状の物が塗られていた。よく覚えていないが赤ちゃんに比べれば怖くないと感じた…なんでだろう、赤ちゃんが怖い?自分の違和感に戸惑いながらも身を起こし、何故かここには居たくないと本能の言うままに急いで身支度をして家に帰ることにした。母は言いつけを守らなかったのは何故かとグチグチ言ってきてる。うるさかったので殴ってしまった、私も母に殴られた。そのまま帰宅した。

 あとから調べて知ったのだが我が家には生まれてすぐ死んでしまった兄が居たらしい。最初は怖いと思ったが、今はもう怖くない。なぜなら私と兄はずっと一緒だから、私はお兄ちゃんのもの私はお兄ちゃんのもの私はお兄ちゃんのもの私はお兄ちゃんのもの私はお兄ちゃんのもの私はお兄ちゃんのもの私はお兄ちゃんのもの私はお兄ちゃんのもの私はお兄ちゃんのもの私はお兄ちゃんのもの私はお兄ちゃんのもの私はお兄ちゃんのもの私はお兄ちゃんのもの私はお兄ちゃんのもの私はお兄ちゃんのもの

お兄ちゃんは鏡からいつも手を伸ばしてお疲れ様って言ってくれる。私の味方はお兄ちゃんしかいない。親も会社も彼氏も信用出来ない。だって私のお兄ちゃんを悪くいうから。みんなみんな死んじゃえばいいんだ。私のお兄ちゃんを悪く言うやつなんて、みんな死んじゃえばいい。




 …みんな私を無視する。

みんなから無視される代わりに私はお兄ちゃんにやっとハグができて、壁を通れるようになったし空も飛べる!


     わたしはしあわせ

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