最終話:旅立ち
隣国への友好大使の任務を、ダラク国王から言い渡された。
「ありがたい言葉ですが、少しだけ考えさせてください、陛下」
二日後に返事をすることにした。
何故ならダラクの街を一年間、留守にすることなる。
周りの人たちに相談したい。
冒険者ギルドで、ゼオンさんにも相談する。
「一年間の任務か。いいと思うぜオレは」
「えっ……でも、ボクが言うものなんですが、ダラクの街の仕事は……」
「お前のお蔭でダラクの街は、平和そのものだ。ギルドの仕事といえば、近隣の魔物の狩りや、北の開拓村の警護ぐらい。だからハリトが一年間、留守にして大丈夫だ」
「そう言われてみれば、たしかに……」
ゼオンさんの指摘は正しい。
最近のダラクの街は、本当に安定してきたのだ。
「それに他の街で冒険者をすることは、お前の良い経験なる。聖都の冒険者ギルドは、ここの何倍も規模がデカいからな」
「えっ……そうだなんですか? 何倍も大きな……」
凄く魅力的な情報だった。
ボクが知っているのはダラク冒険者ギルドしかない。
未知なる街での冒険に、心が揺れ動く。
「ちなみにマリアの嬢ちゃんは、相談したのか?」
「はい、昨日の夜に。心配はしていましたが、賛成してくれました」
「そっか。まぁ、あの嬢ちゃんも今や凄腕の神官で、ダラクでも頼りになる存在だからな」
「そうですね。マリアは本当に凄いです」
出会った時は神官見習いだった少女。
今ではダラクでも有数の聖魔法の使い手になっていたのだ。
「それなら、どうする、ハリト? 今のお前の正直な気持ちは、そうなんだ?」
「はい……ボクは聖都に行ってみたいです! 一人前の冒険者になるために!」
これは間違いなく自分の本心。
他の街の暮らしを通して、更に自分を高めていきたい。
一年後には今よりも成長して、ダラクに帰還したい。
多くの人のために、もっと役立っていきたいのだ。
「ああ、そうか。それじゃ、聖都のギルドのダチに紹介状を書いてやる。」
「はい、ありがとうございます!」
聖都への任務は決定した。
王様に返事をして正式に、友好大使の任務を受諾する。
それから冒険者ギルドの仕事をしながら、準備をしていく。
◇
◇
そして出発の日となる。
家を出る時にマリアとレオン君に、別れの挨拶をする。
気のせいか二人とも、なんかあっさりとしていた。
次に冒険者ギルドに立ち寄り、メンバーとも挨拶をした。
ん?
皆もやけにあっさりとしていた。
その後はダラク城に立ち寄って、最終的な打ち合わせをする。
城の皆さんに挨拶して、出発の時間となる。
でもクルシュはや王様たちは、留守で挨拶できなかった。
ちょっと寂しいかった。
「よし、いくか」
城から出発して、街の城門へ向かう。
ちなみに今回の聖都までの移動は徒歩。
これはボクが王様にお願いしたこと。
できる限り色んな町や、村の生活を見て行きたかったのだ。
住み慣れたダラクの街を、一人で歩いていく。
「ダラクか……また帰ってくるけど……本当に、今までお世話になりました!」
街の光景を見ながら、感謝の言葉を述べていく。
数ヶ月前、ここに到着した時、ボクは家出状態で来た。
着の身着のままの状態で到着。
でもダラクの街の人たちは、本当に親切にしてくれた。
「門番のオジサンに……まだ神官見習いだったマリア……あと冒険者ギルドでゼオンさんやメンバーの皆さん……」
色んな人ちと出会って、ボクは駆け出し冒険者になることが出来た。
その後も色んなことがあった。
「レオン君の足を治して、マリアたちと同居して……隣街までの護衛任務と、転移門の設置……」
ダラクの街は困窮で、街の人たちは本当に困っていた。
だから駆け出しのボクは、できる限りのお手伝いをしたのだ。
「初めての《満月の襲撃》と守備隊長のハンスさん……マリアの修行……ララエルさんも濃い人だったな……」
冒険者ギルド仕事は本当に色んなことがあった。
あと街に色んな人たちがいた。
多くの人と出会い、ボクは色んな経験をしてきた。
「あとクルシュの毒の治療と……門番の仕事か……」
ギルドメンバーとして城の仕事もあった。
力だけでは解決できない問題が、城の中にはあった。
近衛騎士バラストさんや宮廷魔術の人たちにも、本当にお世話になった。
「そして皆既日食事件とアバロン討伐戦……」
これが一番大きな事件だった。
まさかの
精鋭部隊の人たちを協力して、何とか討伐することが出来た。
「その後も祝賀パーティーや北の開拓と、色々とあったな……」
ダラクで過ごした数ヶ月は、本当に濃い内容ばかり。
王都の実家で過ごしてきた十数年間を超える、充実した体験をしてきた。
「改めて感謝します。ダラクの皆さん、と全てに」
城門が見えてきた。
振り返って、街と城に向かって感謝を述べる。
「よし、聖都に行くか!」
聖都までは一人旅。
寂しい気持ちを、自分で盛り上げていく。
――――そんな時だった。
城門の外に二人の少女がいる。
二人とも顔見知りの子だった。
「えっ⁉ マリア? それにクルシュも⁉」
いたのはマリアとクルシュ。
二人で仲良く並んでいた。
ボクは駆け足で近づいて、二人に話しかける。
「どうして、こんな所に? しかも、その恰好は?」
まさかの組み合わせ。
しかも二人ともいつもの私服ではない。
マントを羽織り、旅の支度をしていたのだ。
「ビックりしましたか、ハリト君?」
「ふっふっふ……成功いたしまたね、マリア」
二人とも口元に笑みを浮かべている。
ボクが驚いた反応に、嬉しそうにしていた。
「えっ……どういうこと?」
「実はハリト君。私たちも聖都に同行するんですよ」
「えっ⁉ マリアとクルシュが、聖都に⁉ どういうこと⁉」
「
「えっ? クルシュが魔術学園に? それにマリアが聖教会の本部に? えっ?」
クルシュの説明を聞いても、まだ理解できずにいた。
でも、だんだん気が付きてきた。
「も、もしかして、ボクだけ知らなかったの? ビックリさせるために?」
「はい、正解です、ハリト君! いつもの驚かされてばかりなので、今回は皆で企画したのです!」
「お父様たちやゼオンにも協力してもらいました。あそこをご覧下さい、ハリト様!」
クルシュの指さす方向。
後方の城門の上の城壁に、人の集団が姿を現す。
「えっ……あれはゼオンさんとギルドメンバー? あとハンスさんバラストさん……というか陛下や王妃様までいる⁉」
まさかの光景に言葉を失う。
今までお世話になった人たちが、城壁の上に勢ぞろいしていたのだ。
今まで隠れていたのであろう。
ボク一人を驚かせるために。
ボクが唖然としているのを見て、誰もが嬉しそうにしている。
「今まで私たちは、ハリト様に、驚かされてばかりだったので、今回はお返しです。発起人は父ですが」
「いや……それは、ちょっと、壮大すぎて、まだ理解できないんだけど……」
まさかのドッキリだった。
ボク一人を驚かせるために、数日前から準備をしていたのであろう。
しかも発起人は王様で、壮大な感じだ。
まったく気がつかなかった。
「それでは出発しましょう。ハリト様?」
「えっ? うん。あれ、でも、クルシュは一人で大丈夫なの?」
小国とはいえクルシュは王女様。
気軽に徒歩で旅できない。
「その点には大丈夫です。道中は、あそこにいるイリーナが世話係。聖都の大使館には、既に侍女たちも向かっております」
「あっはっはは……そうなんだ。壮大すぎるね」
女騎士イリーナさんが同行してくれるのは有りがたい。
あとクルシュの徒歩移動も、何とかなるだろう。
彼女は呪印が解けて、魔法を発動できるようになった。
身体能力強化の魔法で、徒歩での長距離移動も問題ないであろう。
「いや……まだ、よく分からないけど、それじゃ出発しようか!」
「「はい!」」
ボクを先頭にして、二人の少女が付いてくる。
イリーナさんは少し離れた距離で、付いてきた。
たぶんクルシュから距離を保つように、言われているのだろう。
そんな時、後方の城壁の上から、声援が飛んでくる。
「ハリト、気を付けてなー!」
「聖都の連中を、驚かせてこいよ!」
ゼオンさんたち冒険者ギルドのメンバーが、大声で声をかけてくる。
「ダラクの英雄、《自由冒険者》に敬礼!」
「「「はっ!」」」
ダラク国王の言葉で、騎士たちは最敬礼の姿勢。
城壁の上から、静かにエールを送ってくれる。
「ハリト様! お帰りを待っていますわ!」
「お姉ちゃんも! 頑張ってね!」
金髪縦ロールの女神官ララエルさんや、マリアの弟レオン君たちもいた。
他にも門番のオジサンや宮廷魔術団、商会の人たちもいた。
誰もがオレたち三人の門出に、声援を送ってくれている。
普通ではあり得ないこと。
でも本当に嬉しくて有り難いことだった。
「ん? ハリト君、もしかして泣いているのですか?」
「それならハンカチを、どうぞ、ハリト様」
「ありがとう、二人とも。ふう……」
マリアとクルシュの気づかいのお蔭で、元気が出てきた。
「よし、それじゃ、聖都でも頑張っていこうか!」
「「はい!」」
こうしてボクは新たなる冒険の場所、聖都に向けて出発するのであった。
◇
◇
◇
「あっ、そうだ。四人だと、“あの魔法”でいった方が。早いかな?」
「ん? あの魔法とは、何ですか、ハリト君?」
「えーと、【飛行魔法】だよ! たぶん聖都まで二日で着くはず!」
「ハ、ハリト君、飛行魔法なんて超特殊な魔法を、使えたんですか⁉」
「うん、そうだね。今までは家族にバレないように、使用を控えていたんだ。それじゃ、発動するよ!」
「ちょ、ちょっと、ハリト君⁉ キャー、身体が⁉」
「さすがハリト様ですわ! お見事です!」
「ひ、姫! 私も身体も⁉」
「よし、それじゃ、一気に上空までいくよ!」
こうして聖都でも規格外で、無自覚な力を発揮。
駆け出し冒険者ハリトは、強大な困難に立ち向かっていくのであった。
◇
第1章【完】
家族に無能と怒られてきた冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから ハーーナ殿下 @haanadenka
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