失われた時を求めないで
ジュン
第1話
「プレゼントだよ」
「なに」
「腕時計さ」
「そう」
「君が記憶喪失になったあの日から、時が進むように願って」
「私、あの出来事の後のことが思い出せないの」
「僕がプロポーズした日に、君はあの出来事に会ってしまったからね」
「私、泣きながら、どうしてこんな出来事に会ってしまったのか……言葉を失ったわ」
「それも、プロポーズした同じ日に」
「私、ショックで記憶喪失になってしまった」
「君の時間はあの日以来、止まってしまった」
「そう」
「君は、僕がプロポーズした時、とても幸せだと言ったね」
「そう」
「そして、その夜に愛し合った」
「私、あまりの幸福感でその出来事に感動して泣いてしまった」
「君は記憶喪失になった」
「そう。だって、この至福のときが色褪せるのが嫌だったから」
「君の時間はあの日から止まったまま」
「あなたが、プロポーズの日に腕時計をくれたじゃない」
「そう」
「この腕時計、あの時の腕時計と同じもの」
「記憶が戻ったのかい」
「だめよ。記憶が戻ったりしたら。私はあの至福の時に留まっていたいの」
「最初のプレゼントがこれと同じ腕時計だったね。今日の腕時計が10個のプレゼントに当たるんだ」
「10個のプレゼント……腕時計一つだけじゃない」
「結婚して10年経つだろう。君の、あの日以来の一年間を10個、つまり10年の時を君にプレゼントしたんだ」
失われた時を求めないで ジュン @mizukubo
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