エターナル・アイドル
朝、ハカセの家に行くと、庭のニワトリ小屋で採卵しているところだった。
「いいところに来た。朝食にしよう。目玉焼きにしてくれ」
と、卵を二つ渡される。
一人暮らしも長いので、自炊はお手の物だ。卵を割るのも得意。手際よく割ってフライパンに落とす。
「お、すごい、黄身が二つ入ってるぞ。大当たりだな」
驚いて思わず出てしまった独り言。
ふと視線を感じて後ろを向くと、ハカセが様子を伺っていた。ハカセは僕の視線に気づくと、
「どうぞ、気にせず続けてくれ」
というので、二つ目の卵を割る。
こちらも黄身が二つ入っていた。
「よし、成功だ!」
ハカセの言葉に、僕は驚いて振り返る。
「成功ってなんだよ!?」
「必ず黄身が二つ入った卵を産むニワトリだよ。完成したぞ」
「ちょっ、えっ……これ、人間が食べて大丈夫なのか? 害はないんだろうな?」
ハカセはわざとらしく肩をすくめた。
「さあね」
二つ目の目玉焼きの他は、キャベツを刻んだだけのサラダと、ウインナーを茹でて、あとはご飯とインスタント味噌汁。男の朝食などこの程度のものだ。ダイニングテーブルに並べて二人で食べる。目玉焼きを食べるのは少し勇気が必要だったが、考えてみればいつもハカセが作った怪しい野菜やら果物やら食べているので、今更かと思い結局は普通に食べた。美味しかった。
食べ終わろうというころ、玄関チャイムが鳴った。
僕は壁の時計を見る。午前九時過ぎ。
「来客の予定が?」
「いや」
ハカセは首を傾げながら玄関へ向かう。僕は廊下から、こっそり様子を見守る。
玄関に立っていたのは、一人の少女だった。小学校中学年ぐらいだろうか。
「あの、この住所、ここで合ってますよね」
歳の割にははっきりしゃべる少女に見せられた紙を見て、ハカセは頷いた。
「ここですね」
「じゃ、じゃあ」
少女はバッグから、小さな箱を取り出した。
「これを送ったのは、あなたですか?」
ハカセは頷いた。後ろから見てるので、その表情は見えないが。
「ええ確かに……あれ? でもどうしてアナタが……もしかして」
ハカセは箱と少女を見比べて、言った。
「アナタが食べちゃったんですか!? あれはマミちゃんのために――」
ハカセの言葉を遮るように、少女が叫んだ。
「あなた! わたしを元に戻しなさいよ!」
二人を落ち着かせ、ダイニングテーブルに座らせ、お茶を淹れた。
「えーっとそれで、事情を聞かせてもらえるかな? お名前は? 歳はいくつ?」
僕の問いに、幼い少女は上目遣いで僕を睨みつけた。彼女は結構な美少女で、そういう子がそのようにするとなかなか迫力がある。
「柳谷マリナ。29歳」
「マリナちゃん、にじゅう……はっ?」
僕の戸惑いなど無視して、少女はテーブルの上に置いてあった箱を指差した。
僕は箱を覗き込む。中には手紙と、チョコレートケーキだろうか、黒く細長いお菓子が入っていた。一部は食べられてしまったような形跡があった。僕は手紙を取り出し、広げる。
「そんな、まさか――」
手紙に書いてあったこと、そしてハカセから吐かせた内容を統合すると、こうだ。
ハカセは先日、レンタルDVDで見たアイドル女優にドハマりしてしまった。そしてその女優が出る映画やドラマを片っ端からレンタルして見始めた。ところが、ハカセが最初に感動した映画は、およそ十年前のもので、その時から十年を経たつまり現在のその女優さんは、当時と同一人物とは思えないほど老け……変わってしまっていたそうだ。
かつての輝きを失ってしまった。そう思ったハカセは、彼女が十年前の姿を取り戻せば、きっとまた輝いてくれるのではないか、あの時の感動に匹敵するような作品をまた作ってくれるのではないか、とそのように考えた。
考えたハカセは、作ってしまったのだ、若返りの薬を。そしてそれを、その女優さんの事務所に送りつけてしまった。
「えっ、でも、ファンから送られた食べ物なんて、本人に渡したりしませんよね? 何が入ってるかわからないんだし。あっ」
自分で言ってから気づいた。なるほど、本人は食べなかったわけだ。その代わりにこの人が食べた。そしてきっと、薬が強く効きすぎたとか、そもそも薬が安定していなかったとか、そんなところだろう。
「ど、どうしてそんなヤバそうなものを……」
マリナちゃん、いや、マリナさんは悔しそうに下を向いて言った。
「わ、若返りの薬だ、と書いてあったので」
そう、手紙には書いてあった。食べれば十歳ほど若返ります、と。
「でも普通食べないでしょ。絶対怪しいでしょ」
僕が言うと、マリナさんはキッと僕を睨みつけた。
「あなたには、わたしの気持ちなんかわかりませんよ!」
「わっ……わかるわけねーよ! 普通食わんだろ!」
「まあ落ち着きたまえ」
ハカセにまあまあ、と手で制されて、思わず殴りそうになった。誰のせいでこうなったと思ってるんだこいつは。
それはともかく、マリナさんの話によると、事情とやらはこうだ。
マリナさんは現在は当該女優さんの事務所でマネージャーをやっているが、元々はご本人もアイドルだったらしい。なるほど、言われてみればそういうかわいさがある。だが若い頃は鳴かず飛ばずで、結局は失意のまま引退。だが十代をアイドル活動に費やした結果、芸能界以外で生きていくすべを持たず、そのまま事務所に雇ってもらって現在に至る、とのこと。
「わっ、わたしだってもう一度チャンスがあれば……十代の頃に戻れたらもう一度、あっ、アイドルとして成功できたのに、って……」
マリナさんは下を向いて声を震わせていた。泣くのはなんとか我慢しているようだが、見た目は小学生なのでなんかすごい罪悪感がある。
まあそういうわけで、十歳若返るという言葉に、理性を失ってしまったらしい。本来はさっさと処分するファンからの手作りお菓子をこっそり着服、食べてしまった、と。
バカが二人、バカをやった。それだけのことであるが、それで済ませていい問題ではない。
そもそもはハカセがバカなことをやったのが問題だし、それは僕の監督不行届とも言える……いや、いくらなんでも、怪しい薬を作って女優さんにプレゼントしたりするな、なんて注意が、事前にできたとは思わないけど。僕は悪くないと言いたいけれど。
「それがこんな……小学生だなんて、これじゃあ……普通に生きていくのも難しいじゃない!」
また興奮してきたマリナさんを落ち着かせ、僕は言った。
「えーっと、つまりマリナさんは、この薬の影響を、元通りにして欲しい、と」
マリナさんは一瞬首を縦に振りかけたが、少し考えてから、
「最初の予定通り、十代後半ぐらいまで進めてもらえれば」
「図々しいな」
僕はそれ以上は突っ込まず、ハカセの方を向いた。
「そういうことだ。薬の効果を無効化する薬を作れ」
「無理だ」
ハカセは即答した。
「“薬が効いてるから若返ってる”んじゃない。“薬が効いたから若返った”んだ。そこから元の歳に戻す、年齢を進める、となると、つまりはそのような時間が必要だ。十歳だったら十年、二十歳だったら二十年」
「そんなに待てないって話だろうが。なんかないのか」
「加齢を促進する、というのが考えられるが、それは非常に危険だ。進み過ぎたらどうする? 一気におばあさんとか、場合によっては加齢に伴う多臓器不全で死ぬかも。一か八か、それでもいいっていうならやるけど、そういう薬があるわけじゃない。一から開発する必要がある。それがどのぐらいかかるか……動物実験もしないといけないし。簡単にはいかない。何年もかかるかも」
他人事のように言うハカセにマジで怒りを覚える。
「あとは、そうだなあ……ネックはやっぱり時間だよね。タイムマシンをもう一度作るっていう手もあるけど。このまま十年過ごしてもらって、それからタイムマシンでこの時間に戻ってくるとか。戸籍を偽造する方がずっと簡単だし、とりあえず別人として過ごしてもらって」
「タイムマシン? あなたたち……一体何を言ってるの?」
「でもタイムマシンの製造はもうしないって」
「事情が事情だから仕方ない」
「ちょっ、ちょっと待ってよ!」
マリナさんに呼ばれ、僕らはそろって彼女の方を向く。
「タイムマシンがあるなら、このままわたしをわたしが小学生だった時に戻しなさいよ! 今の記憶があって小学生からやり直せるなら、その方がいいわ! 今度こそ絶対に成功してみせる!」
ハカセは怪訝な顔をする。
「そうすると、本来の小学生のアナタの方は、どうする? 入れ替わるのか? しかしその子が無事に成長していかないと、今のキミは存在し得ないわけだが?」
タイムパラドックスってやつだな。
意味がわかったのか、マリナさんは頭を抱える。
「あとは……あ、そうだあれがあったな。ほら、キミが“精神と時の部屋”って呼んでるヤツ」
ハカセに振られ、そう言えばあったな、と僕は頷いた。
僕が勝手に某漫画にあやかりそう呼んでいる部屋は、この家の地下施設にある。ハカセがタイムマシン、つまり時空間移動の研究をしていた時の副次的発見を利用した部屋で、簡単に言えば異次元空間だ。その呼び名の通り、部屋の中は、外と時間の流れが違う。ただ漫画のそれが、中での一年が外での一日に相当するのに対し、こちらはそんなに甘っちょろいもんではなく……
「部屋の中では、時間がおよそ、三千倍程度の速さで進む。つまり、外での一日が、中では3,000日、割る365で、8年と2ヶ月程度になるということだな。一日半ほどいれば、ご希望どおりの年齢になるだろう。二日半ほど入っていれば全て元通りだ。これが一番早いプランだろうな」
それを聞いたマリナさんは少し考えていたが。
「そ、それってわたしが、中で普通に十年とか過ごすって、そういうことでしょ?」
ハカセは首を傾げた。
「そうだね」
「中で一人」
「うん」
「十年」
「そう……まあ期間はアナタ次第だけど」
「孤独に」
「まあ、そうなるね。ああ、退屈だろうしなんだったらボクのDVDコレクションを――」
「できるわけないでしょー!!」
キレたマリナさんを、ハカセは怪訝な顔で見た。
「ダメかな? 一番確実で手っ取り早いかと」
「どこが手っ取り早いのよ!」
「二日しかかからない」
「あなたにとってはそうでしょうけど、わたしにとっては違うの!」
「まあまあ、まあまあまあまあ」
僕は二人の間に割って入った。
二人が一応、落ち着くのを待って、僕は言った。
「解決策が見つかった」
「え?」
「ホントに? どんな方法?」
二人の視線を受け、僕は自信満々に頷いた。
「“部屋”を使う」
ハカセは頷き、マリナさんは抗議の声をあげようとしたが、僕はそれを手で制して言った。
「ただし入るのは、ハカセ、キミの方だ」
ハカセはいくつかまばたきしてから、言った。
「説明してくれ」
僕は頷いてから口を開く。
「まず今回の件、責任の大半はハカセ、キミにある。それは認めるな?」
ハカセは不満そうにしてみせたので、仕方なく僕は申し添える。
「ろくに考えもせず危ない薬を作って、それを見ず知らずの、いや、一方的に知ってるだけの相手に送りつけた。どんな事故が起こってもおかしくない。天才ならそこまで考えるべきだった。そうだな?」
ハカセは不承不承だが頷いた。
「よし。ではこの問題の解決は、キミの責務だ。ここまではいいな?」
「――うん」
「よし。では解決として一番いいのはなんだ? マリナさんを元に戻す……いや、彼女をできるだけ短時間に、かつ安全に加齢させること。そうだな」
「ああ、だがそれには」
「最後まで聞け。そう、君は言った。そのような薬を作るのには時間がかかる。どのぐらいかかるかわからない。それこそ何年かかるか。そうだな」
ハカセが頷くのを見て、僕は言った。
「ハカセが“部屋”に入れば、時間の問題は解決だ。中で、“加齢薬”を開発しろ。一日で8年、二日で16年だ。さすがにそれほどの時間は必要としないだろう。二日もかからず解決する。一番手っ取り早い。何の罪も……特に罪のないマリナさんに孤独な十年を過ごさせずに済む。そうだろ?」
ハカセはしばらく考えていたが、やがて、悔しそうに頷いた。
研究に必要な機材や実験動物等を運び込み、ハカセが部屋に入ったのはお昼過ぎだった。
「恨むぞ」
部屋に入る直前、ハカセは僕を恨めしそうに見てそう言ったが。
「お門違いだ。恨むなら過去の自分を恨め」
そう言ってやるとハカセは少し考え、それから天井を見て、言った。
「おのれ、過去の自分」
僕はそんな彼の肩を叩く。
「まあでも、ハカセは天才だから、そう長くはかからないだろう。半日……そうだな、夜までには戻れるさ。夕飯作って待っててやるよ。カレーでいいな?」
ハカセを見送り、頑丈な扉を閉める。
「さて、カレーでも作って待ってるかな、暇だし」
「あ、手伝います」
そう言うマリナさん。今は小学校低学年にしか見えないが、そういえば中身は立派な大人だった。料理ぐらいできるだろう。
「そう? 助かります」
「そういえば、彼、ハカセ? 食事とかはどうするのかしら」
「そのへんは心配ないようになってる」
「十年分の食料が?」
「生産設備がある」
「それにしても、あなたたち、一体何者なの? 若返りの薬とかタイムマシンとか――普通じゃないでしょ」
僕はちょっと考えてから、
「まあ僕は普通ですよ。ハカセは普通じゃないけど」
しかしマリナさんは納得せず、
「絶対普通じゃない……」
と呟いていた。
失礼な。あんな変人と一緒にしないでくれ。
ハカセの秘伝のレシピでカレーを仕込み、じっくり煮込んでいる間にハカセがどれほど常軌を逸しているのかを説明したり、彼女の職場での愚痴などを聞いたりしていたら、あっという間に夜になった。
ハカセは表現が多少大げさな男で、彼は「何年かかるか」などと言っていたが、実際にそんなには必要としないだろう、と僕は思っていた。だから割と真剣に夕飯までには出てくるだろうと思っていたので、六時間を経過して、さすがにちょっと心配になってきた。六時間は内部で250日に相当する。
カレーはいい感じにできあがっていた。スパイシーな香りが食欲をそそる。
「お腹、空きません?」
マリナさんが言い、僕は頷く。
「今日の間に出てくるかは、わからないんですよね?」
「うん、まあね」
「食べちゃいましょう」
「そうだね」
カレー皿にご飯をよそい、さてカレーを、と思ったところで、地下からの階段を上ってくる足音が聞こえた。ハカセだ。
「思ったより遅かったな。少し痩せたか?」
ハカセは少しやつれたようだった。伸びた髪の毛を自分で適当に切ったりしたのだろう、頭はボサボサだったし、ヒゲも伸び放題だ。しかし、健康状態には問題がなさそうだった。顔色が優れないのは、精神的なものが理由だろう。300日近く引きこもっていたのだ、多少はおかしくもなろう。
「薬は、できた」
ハカセは開口一番、疲れた様子でそう言うと、食卓テーブルの上に金属トレイを置いた。瓶に入った薬品と、注射器が置かれている。
「えっ、注射なの?」
マリナさんの言葉をハカセは無視し、
「この薬、1mlあたりでおよそ、一年分ぐらい歳をとる。ただし、問題が二つある」
「もったいぶるな、早く言え」
二つ、を表現したつもりだろうが、Vサインしてみせたハカセにイラついて僕の口調は荒くなる。彼は顔をしかめたが、続けた。
「まず副作用がある。だいぶがんばったんだ、これでも。加齢薬自体はすぐにできたんだ。だが安全性を高めるために時間がかかった。最初の試薬では高い確率でラットが」
「いいから言えよ。危険な副作用なのか?」
ハカセは悔しそうにしながら、
「微熱が出る」
と言った。
「微熱? 永久にか?」
「いや、アセトアミノフェンで解熱する。ほっといても寝てれば下がる」
「問題ない。他には?」
「副作用はそれだけだ」
「よし。もう一つの問題は?」
「身体が急激に変化するんだ。色々実験してみたが、安全を確保するなら、一日に一年程度、加齢させるのが限界だ。つまり十年分加齢するには、十日かかる」
「なるほど。十日ね」
僕は暗算しながら、ハカセ、そしてマリナさんを見た。
「なんてことない。15分で済む。今度は二人で“部屋”に入れ」
「えっ、ちょっと……この人と中で十日も過ごせってこと!?」
“部屋”の前に来て、マリナさんはようやく、これから何をするか気づいたらしい。
「15分だよ」
「あなたにとってはそうでしょうけど!」
ハカセはもう何も言わず、諦めた様子で部屋に入っていく。
「大丈夫だ、ハカセは子供には興味ない。というか、科学以外に興味がない」
「そういう問題では――」
「十日も欠勤したら、仕事、マズイでしょ。今日中に終わらせましょうよ」
僕はそう言って、嫌がる彼女を部屋に押し込み、扉を閉めた。
15分後、扉を開けると、中からはハカセと、ものすごい美女が現れた。
「わお……」
子供用の服は合わなくなったからだろう、病院で使ってるようなガウンを着せられたマリナさんは、そんな格好なのに、輝くような美人だった。アイドルをやろうと思うぐらいのことはある。
「どうだい」
どこかげっそりした様子のマリナさんに変わって、ハカセが得意げな様子で聞いてくる。彼は散髪してもらったのかスッキリした頭をしていて、もちろんヒゲも剃っていた。僕は答えた。
「十代後半、いや、二十手前ぐらいに見える」
しかし、マリナさんは元気がなさそうだ。
「29歳、って言ったっけ。
彼女は首を一生懸命に横に振る。
「このままで、いえ、このままが、いい」
「じゃあどうして元気なさそうなの? もっと嬉しそうにしたら?」
マリナさんはお腹を抑えて言った。
「お腹空いた。中のごはん、美味しくなかった。カレー食べさせて」
「ボクはあそこに300日以上居たんだぞ? アナタのために!」
憤慨するハカセを無視して、僕は言った。
「ご飯にしよう。すぐにカレーを温めなおすから」
ハカセには、郵便や小包を出すときは、当分の間は僕に相談するよう約束させた。
「今回はひどい目にあったが、しかし、おかげで若返り薬の研究も進んだし、元に戻す薬も実用レベルに達した。これはいよいよ、マミちゃんに飲んでもらって」
「絶対にダメだ。その薬は封印しろ。いいか、ハカセが発明した薬は、この家の敷地から持ち出すんじゃない。絶対にだ」
「わ、わかりましたよ……」
油断も隙もない。当分は厳重な監視が必要のようだ。
油断できない、といえば、僕たちはもう一つ問題を抱え込んでしまった。
マリナさんだ。あれからちょくちょく、ハカセの家にやってくるのだ。
突然若返ったマリナさんは、アイドル時代を知るファンから整形疑惑などをかけられながらも、少しずつ芸能活動を再開していた。見た目は若返ったが実年齢は29歳。さすがにまたアイドルをというわけにはいかず、ちょっとしたレポートなどをするテレビタレント、それも出演番組の多くは地上波ではなく衛星放送やケーブルテレビなどが中心のようだが、本人的には納得しているらしい。充実した様子で、はじめて会った日より遥かにはつらつとしている。
全盛期の美貌を取り戻し、心身共に充実している様子の彼女は、大変魅力的に見える。そんな美人がわざわざ訪ねて来てくれるのに、どうして僕がそれを嫌がっているのかと言うと。
「ねぇハカセ、不老不死の薬とか、ないの? 作ってよ」
などと言うのだ。
「アナタは永遠に生きたいのか?」
「というより、今の、一番美しい時のままでいたいの! ねぇいいでしょ! 作ってよ」
「不死、などを実現しようと考えるのは科学者としていかがなものかと思うが、不老、というのは興味ある。このあいだの薬の研究を応用すれば」
「やめなさい!」
僕が一喝する。僕がいるときでちょうどよかった。こいつら、放っておいたら、本当になにをしでかすかわからない。
「マリナさん、マジで辞めてくださいよ。今度こそ胎児になったり、逆におばあさんになったりしても、知りませんよマジで!」
おわり
僕とハカセの日常 ゆーき @yuki_nikov
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。僕とハカセの日常の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます