灯る
沙耶
第1話
私には夢がある。一度でいいから自分のために灯ること。思い切り踊ること。
私を迎えた家族は、毎晩明かりを囲んで団らんのひと時を過ごす。大人たちの会話をよそに、末っ子だけはキラキラした眼差しで私を見つめる。時折こっそり炎を揺らすと、いっそう瞳を輝かせる。二人だけの秘密の遊びだ。
ある日、彼女は私を見るなり眉尻を下げた。母親は軽い調子でつぶやく。
「次の蝋燭買っておかないとね」
うつむいた女の子に胸がキュッとなるが、最後のチャンスだ。
みんなが寝静まったころ、私は灯る。誰のためでもなく自分のためだけに。見慣れた部屋はシンと静まり返っている。私は踊った。観客のいないステージで。ゆらり、ゆらゆら、ゆらり。少しずつ力がなくなるのを感じる。あの子にだけは見てほしかったな。さようならの気持ちを込めて、ひときわ大きな炎を揺らした。
「またね」
意識が遠のいていく中、誰かの声が聞こえた気がした。
灯る 沙耶 @SayaPhotoba
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