第13話 『水滸伝』の「二次創作」

 歴史小説、悪漢小説にエロ小説の要素もあわせもつ『水滸伝すいこでん』のほかに、歴史物の『三国演義』、ファンタジーの『西遊記』、『水滸伝』ので好色小説の『金瓶梅きんぺいばい』が、この時代に生まれた「四大奇書きしょ」です。


 この時代にもう「二次創作」があるんですよ。

 『金瓶梅きんぺいばい』は、『水滸伝』の一部分の筋書きを一部変えて(最終的に整合性は取ってありますが)生まれました。『水滸伝』のなかではわりとあっさりと退場してしまう悪役の超絶エロ男が主人公になって、さまざまな女性と関係を結ぶ、という物語です。


 『水滸伝』自体も、最初は「百回本」(「回」は「話」に相当します。全百話構成の本という意味です)として成立したのに、そこに二十話分(二十回)が書き足されて、「百二十回本」というのが成立します。

 「じつは本篇では語られていないエピソードがあった!」みたいな「外伝」が(たぶんオリジナルの作者とは違う作者によって)書かれて、それが本篇につけ加えられてしまう。

 そんなことが『水滸伝』では起こっているのです。


 また、『水滸伝』(百回本)の結末の一部分を発展させて続篇『水滸後伝こうでん』が生まれています。

 『水滸伝』は、統一王朝時代の宋(北宋)の末期を舞台にしていながら、その宋の滅亡の物語がありません(ごく一部のキャラクターの後日談として言及されるのみ)。その宋の滅亡と南宋としての復活を背景に、一部の英雄たちが海外に進出して新天地を切り開くという二次創作が『水滸後伝』です。


 逆に、「つまらない部分は削っておもしろい部分だけ残す」という改変も行われて、「七十回本」という短縮版も作られました。そうすると、その七十回本の結末をもとにして、立場を逆転させて宋江集団を敵とする二次創作が作られたりもしました。


 『水滸伝』は江戸時代の日本でも流行したので、「日本版『水滸伝』」として建部たけべ綾足あやたりが『本朝水滸伝』という物語を書きました。

 これは、皇帝側近の悪臣を奈良時代の道鏡どうきょうに置き換え、悪臣道鏡に藤原ふじわら仲麻呂のなかまろ恵美えみ押勝のおしかつ)や和気わけ清麻呂のきよまろが挑戦するという物語になっています(私は読んだことがありません)。

 藤原仲麻呂も、歴史の事実としては「正義の味方」かどうか。

 道鏡と対立したのは事実だけどむしろ道鏡の先駆者みたいなところもあるのでは、と思いますが。

 この物語ではそうなっているようです。


 「日本の『水滸伝』」的な物語としてさらに広く知られた物語としては曲亭きょくてい馬琴ばきんの『南総里見八犬伝』があります。

 『南総里見八犬伝』は盗賊物語ではなく、最初から正義の味方の物語ですが、『水滸伝』や『水滸後伝』の影響を受けていると見られる描写や場面もあります。


 さらに条件をゆるめれば、「前世の運命に結ばれたメンバーが、運命に引き寄せられて集結し、敵と戦う」というエピソードは数限りなくあります(ただし、そこまで条件をゆるめると「本創作」が『水滸伝』には限らなくなってしまいますが)。カクヨムにもいっぱいあると思います。

 『水滸伝』は、ある種の「ファンタジー」の原型、または「フォーマット」を示してくれている作品でもあるのですね。

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千古、玉を埋むるの地 清瀬 六朗 @r_kiyose

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