怪段

影神

階段の幽霊



近所に長い階段がある。



深夜にその階段を上ると、


女の人に話しかけられると言う。



その際には、



振り返ってはならない。


階段を下りてはならない。



とのルールがあるそうだ。



女の人は階段を上がっている時には、


何もしてこないのだとか、、



何故なら、女の人を階段から突き落とした男が。


突き落とした後に階段を急いで下りて逃げたから。


だから逃げる奴と階段を下りた者は、


男と勘違いされて同じ様に突き飛ばされる。


と、よくある様なそういった話だ。



まあ、話しの筋は通っている。


こう言った話し自体が大概。


辻褄が合ってなかったり、


矛盾してたりするのだが。



この話しは、悪くはない。



女の人からしてみたら。


私の思考は不謹慎なのかもしれないが、、



ひとつだけ気になる点があるとするのならば、


後ろを振り返ってはいけない。


という所だ。



振り返った先に何があるのかは分からない。


もしかしたら、振り返った先には、


亡くなったはずの女性が。


亡くなってしまった姿で、現れるからだろうか。



そんな噂が広まり、地元では有名な階段となったが。


誰かが真似をしてるのか。


本当にその女の人の幽霊が出たのか。



度々押され、怪我をする人が続出した。


そこの階段には街灯が無いから、


もしかしたら、誤って滑っただけかもしれないし。


自分で転んで、押された。と言ってるだけかもしれない。



だが、、深夜に訪れた警察官までもが押されて怪我をした。


という。



だからその階段は、


今となってはフェンスで塞がれてしまっている。



誰かがまた怪我をしない様に、、



でもまあ、横の茂みから入れるんだけれども。。



正面には、鍵の掛かった頑丈そうなフェンス。


周りは真っ暗だった。



この時の私は、魔が差していた。



普通に。何の考えも無しに。


フェンスの中へと入って行った。



何もかもがどうでも良くなり。


ふとした拍子に、階段の事を思い出したのだ。



今思えば、きっと。


私は呼ばれていたのかもしれない。



この話しが流行ったのが小学校低学年の頃で、


フェンスが付けられたのが、


確か高校入って直ぐぐらいだったかな??



「よいしょっ。」


ガサガサガサガサ。



フェンス等。まるで意味を成していないかの様に。


少し枯れた草木から。階段へと入る際には、


意図も簡単に、呆気なく侵入する事が出来た。



「はあ。。」


蜘蛛の巣を払い、携帯の明かりで足元を照らす。



階段の端にはゴミが置いてあったり。


階段に直接落書きをされている所もあった。



「治安悪。」



何と言うか、、


階段に足を踏み入れた瞬間から。


寒気みたいのは、感じていた。



それでも私は、深夜の自分の服装が。


半袖、七分丈ズボンだからだろう。


としか、思っていなかった。



日中は蒸していたりするが、


夜中は、風が吹くだけで寒い。


でも、それは全然嫌いじゃなかった。



日中よりも深夜のが好きだ。



朝から夜まで。


騒音は、私の神経に干渉してくる。



音がうるさい。



うるさすぎる。



よくこの話をすると、精神の話をされるが。


そうではなく、うるさいのはうるさい。



私からすれば他の人の耳が、鈍いだけなのだ。



何でもかんでも精神で通るなら、


そう言った押し付けも精神なのではないだろうか?



そんな私を取り巻く理不尽な事を考えながらも。


階段をゆっくりと上って行くが。



特に問題は起きなかった。



目の前を照らすと、遠くにフェンスが見えた。


「ん???」


何かの違和感に襲われながらも。


私は、階段を上り終えた。



ガシャン、、


運動不足もあってか。


フェンスに掴まりながら、私の足は小刻みに震えていた。



「はあ、、」


疲れた。



ゆっくり振り返ろうとした時。


後ろから声がした。



「、、すいません」



私はビックリした。


フェンスを握る手に力が入る。



女の人の声だ。



「、、すいません」


直ぐ後ろに女の人が居る。



「、、すいません」


答えを待つかの様に、繰り返される言葉。



落ち着け。落ち着け。


震える手をフェンスを握った痛みで誤魔化す。



確か、、話通りなら。


振り返ってはならない。

階段を下りてはならない。


だった、気がする。



、、。


そして、ようやくこのフェンスの違和感に気が付いた。



フェンスがあるから、階段を上がれない。


まさか上にもフェンスがあるとは、考えもしなかった。



どうやってこの階段を上がる、、


振り返ってはならない。


振り返らなければ、階段からは出られない。



階段を下りてはならない。


階段を上がれないから下りるしかない。



「、、すいません」



遂には、女の人の声が私の耳元で聞こえた。


フェンスに強く掴まりながら、


私は勢い良く振り返り、


もう片方の手でもフェンスを掴み、


ゆっくりと腰を降ろした。



勿論目等開けられない。



怖くて怖くて。


心臓がドキドキとした。



目に力が入る。



ゆっくりと、深呼吸をする。


「ふぅ、、」



私の吐いた息と一緒に。


耳元で生暖かい息が吹かれる。


「、、すいません。」



私は気を失った。



雀の鳴き声と共に、私は目を覚ます。


チュン、チュン、、



目の前は綺麗な風景だった。


明るくなる手前の空。



こんな。景色、だったんだ、、



転がり落ちなかった事を奇跡に思う。



幸い最後の階段だけ、長くなっていたからだろうか。


私は腰を上げて、階段を下りた。



誰かと会いたくなかったし、早く帰りたかった。



一歩一歩。


階段を下りると。



後ろに違和感を感じる。



「、、?」



私の歩幅に合わせるかの様に。


ヒールの様な高い音が響く。



コツン、、コツンッ。



怖くなって、急いで下りようとした時。


私は足を滑らせた。



身体が落ちる恐怖。


下へは、まだまだ距離があった。



「はっ。」


視界が後ろを向くと、そこには綺麗な女性が立っていた。



身体が浮いている感覚の恐怖に、思わず目を瞑る。


私は痛みが来るのを待ち構えた。



パシッ、、



誰かが私の腕を掴む。



ゆっくりと目をあけると、


冷たい手が、私の手を掴んでいた。



「大丈夫??」



女性は、優しい表情をしていた。



私は涙が止まらなかった。


「すいません、、すいません、、」



軽率な自分の考えと。


女性が私を助けてくれた事が。


複雑に混ざり合って、泣いてしまった。



自分が恥ずかしく思い。惨めにも思った。



御礼を言おうと、顔を上げた時。


その女性は居なくなっていた。



あれから1年に1回は。


あの階段に花を供えに行く。



相変わらず周りはうるさい。


 

あの時助けてくれた綺麗な女性は、


この階段に出る女の人だったのか、、



今でも真相は分からないけど。



下からフェンスの中を見上げた時。


私の置いた花の近くに、誰かが立っている姿が見えた。


きっと、シルエットからして男性ではないだろう。



遠くてハッキリは分からないけれど。


あの時の様な表情を浮かべている気がして。



『ありがとう。』



そう心の中で感謝すると共に。


早く成仏出来る様にと、静かに手を合わせ願った。







































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怪段 影神 @kagegami

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