第4話 リルアとミユは名探偵

「ミユちゃんが怒ってるんです」

リルアは小首を傾げながら囁いた。

「お、怒っては、おらんけんね」

ミユは小声だが眼を見開いて虚空に向かって言う。

「うん、わかったけん、食堂行こう...」

サクラは先頭にたって足早に廊下を進んだ。

多分あの件だ。上田家のアレだ。


 校庭がみえる窓際のテーブルを選んだ。

満開の染井吉野を観ながら軽く食べようと三人はそれぞれの好きなミニ弁当などを自動販売機で買ってきた。

 春風に舞う薄紅の花びらに纏い付かれる老木が身を捩り根を地に張る景色がサクラは子供の頃から好きだった。古の武人の風情。我も斯くありたし。そんなこと思いながらオニ唐弁当に箸をつけた。


「サクラ先輩はリコちゃん先輩と御近所なんですよね?」

あまおう苺クレープを手にしたままミユは言った。

「うん、まあね...いわゆる幼なじみ的な、ほぼ親戚っぽい関係...親も昔からの付き合いやけんね」

 サクラの言葉にジェラシーを感じたのか少し眉間に力を込めて「だからこそサクラ先輩に相談が有るんです」と低い小さな声でミユは訴えた。

「よかよ、何でも言うてんしゃい」サクラは自信満々に炭酸ジュースをグビリと呑んだ。


 案の定だった。お見合いの件だ。

上田流体術の家柄に生まれた娘は十六歳に成ったら総本家の選んだ相手と「お見合い」をする。この風習は二十世紀後半に廃れていたが最近の昭和ルネサンスの流れにのって復活し10年以上たっている。つまり定着したのだ。


 「わたし、潰しますから」ミユは唇を強く噛んで言う。

リルアは慌てて「落ち着いてよぉ唇きれるよぅ」と静めようとしてロングポテトを手から落としそうになった。

 軽く溜め息をついて「要はリコの結婚前提の縁組みに反対するってことやん?」とサクラは訊く。

「絶対許さない、ぶっ潰すけん!」語気を強めるミユ。

「あははは、リコが受けるわけないって!」とサクラ。


リコの父親の性格は熟知している。おそらく総本家の偉いさんの圧力が強くて嫌々やってるだけやん。それより何故その情報に気付いたのか?それが問題だ。

「リルアちゃーん、なんかやったんやろー?」とカマをかけるサクラ。

「ハッキングとかせんですよぉ、二度とぉー」去年の校内ハッキング選手権優勝者のリルアは首をブンブン横に振る。

「ただぁ、クラスの男子が太宰府市の防犯システムのデータを面白半分で回し読みしとったけん没収したんですぅ、リルア風紀委員ですからぁ」早口で説明を始めた。

今朝の校門周辺の出来事も圧縮データが有ったという。ミユと手分けしてエリア別に全市内の分析していたところ上田家の音声データも全て手に入ったとの事だ。

「それって狙ってやったんよねぇ?」苦笑いのサクラ。

 国防関連のデータ以外は防御が緩い日本の現状を嘆くしかない。若者がゲーム感覚でやってしまうのだ。

「ギリ合法でぇーす」と笑顔のリルア。

「それと市のシステムの弱点はぁ、遠隔操作で二人でリペアしときましたぁ。なんかぁ、めっちゃユルユルでしたよぉ、へへっ」

 しょんなかねー、とサクラは思った。この二人は我が部期待の星だが要注意人物でもあるのだ。兎にも角にも全てに優先されるのは配信公演の成功である。

「なんかなし私が丸く収めるけん良かたい、早う食べんしゃい」

 サクラは食べ続けた。


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