第5話 キイナ
わが名は天満大自在天神なり
人として在りし時は道真と名乗りけり
久方ぶりに生身の依代を得て筑紫の國に降り立ちぬ
若き娘なれど賢き者さらに健やかなる体躯にて務め果すに良き事なれど少々我の強さありて心の内に入り込むには時かかりて..い..ま..ま..ま..や...や...ゃ...ゃ...ゃ...ぁ..ぁ..ぁ....あ...あっと完全にキイナという女子学生の体と脳を総て支配した
この時代は言葉が単純化されたな 便利ではある
スマホという呪物は使い勝手もよく現世の状況は諸々把握した
しばらくは「春野キイナ」として過ごす
そもそも社の中でダラダラするのが何より良い
周りでなにやら「飛梅ちぎり」とか「鷽替え神事」とか賑やかにしてるのをチラ見しつつ古の文物をじっくり学び直して時を過ごすのが良いのだ 煩い事はフジワラの者共に任せてしまえ そんな風に長き時を過ごして来たのだが遂に出番と成りしは因果応報、摩訶不思議、おっと言葉が古臭い あっぷでいと、あっぷでいと
「キイナ先輩 ! めっちゃ仕上がっとうですね!」
鈴を転がす様な声で青井リルアが話しかけてきた
食堂という名の建屋にて神楽の体裁きをしながら「カフェオレ」なる甘き茶を薄き紙の器にて呑みしおりに急に煌めく眼差しを向けるとは油断大敵なれど愛い奴よの
「そ、そうたい、今日も踊るっちゃん」冷静に現代の筑紫の訛りで返す
『キイナの潜在意識』から猿楽合戦の様な催しがある事は判っている 良かろう 嫌いではない だが天満大自在天神としての務めも有るのだ
「リコ先輩が呼んでますよ!キイナ先輩 !」
少し苛立った声で八柳ミユが会話に割り込んできた
二人とも素直な性格なので深層意識に容易く入る事が出来た えすえぬえす術という新しき呪いを常にやりおる 世の動きに速く馴染む為に頭の中を覗かせてもらうぞよ
植田リコ、瀬多サクラの潜在意識は騒々しくて苦手じゃ、眠ってる時を狙うか おやっ?リコが悩む映像がミユの意識内に浮かんだな...
「脚本また少し変えるんやろね」とキイナ。
「はいっ、そうみたいです。凄い!やっぱ以心伝心ですね!」ミユは少し驚く。
「長い付き合いやけんね」カフェオレを飲み干して食堂を出るキイナ。
稽古場の第二体育館へ三人で向かう。東風が芳しく吹き冬服のセーラーを揺らした。
リルアはスキップ気味に歩きながら愉しげに言う。
「三年生の四人の絆って憧れですよぉ、ほんとにぃ」
「そげんでんなかよぉ」とキイナ。
「わたし、ホントに、尊敬させていただいてます」とミユ。
『させていただいてます』を聴いてキイナは少しだけ歩みを遅くした。
ミユ「あっ!...わたしったら昭和の敬語ばつこうとる...でもリコちゃんが喜ぶんですよね、関西の漫才から生まれたフレーズですから、うふっ」
「ミユ...」キイナは遠くを眺めながら優しく言う。
「言葉は進化する美しい生き物よ、使っていこう...」
そしてミユの瞳を強く見詰めた。
三人が体育館に入ると入部希望の新入生が十名ほど見学に来ていた。
気付いたリコが大きな声で叫ぶ。
「今から模範演技を見せる!キイナ!はよぅ早よぅ!」
リコ
(さあ、見せて!キイナ!凄い仕上がっとうってさっきサクラがメールくれたよ!)
アイ
(朝とは違ったパフォーマンスかな?楽しみだわ)
サクラ
(....ミユがキイナをずっと見つめてる...なんか変やな...)
見学の新入生
(ざわざわざわざわざわざわ...)
リルア
(ふふん、ふふん、楽しみだぁ~なんやろ、なんやろ)
ミユ
(どうしよう、私...今、キイナちゃんばかり見とるやん
、リコちゃん近くにおるとに...)
そしてキイナの内側で道真は思った。
(うむ、では次回配信する「シン・大鏡」より第一幕「天拝山の雷神」をば披露するとしよう)
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