第6話 アンディファインド・ポテト

「さぁ、さぁ!もぐもぐタイム〜!」とリルアの声。

キイナの三十分以上の模範演技の後は休憩時間だ。

 途中で売店に買い出しに走っていたリルアが大きなポリ袋に惣菜や御菓子を詰めて体育館に戻ってきた。続いてミユも手押し台車に段ボール箱を三個も載せてやって来る。少し困り顔で笑いながら「ずるいぃー、まってー」と入口の段差で四苦八苦だ。

「コーラと梅昆布茶ちゃんと買ってきたとぉ ? もお、配膳用ドローン使えば良かろうもん」サクラが笑顔で手伝いに行った。

 見学の新入生は全員が入部を決めて既に体育館を出ている。六人は体育館の隅っこでパイプ椅子に座り小さな宴会を始めた。

 リコが「はい!諸君!ちゅうもーく!かんぱーい!」と緑茶のペットボトルを掲げて音頭を取った。そして...

「キイナ!お疲れ様!いやぁ、良かったよー、凄いもう完璧はまり役やん、道真公ぴしゃりやん?ねえ、サクラ?どう思う?どう?どう?どげん思う?」と高速で捲し立て二人の肩を背後から両手でバンバン叩いた。部員数も増えそうで上機嫌の笑顔である。

 キイナはリコに構わずに段ボール箱を指差して「お茶、あ、甘きお茶の薫りが...」とユラリと好みのペットボトルを獲るために動き出した。

「ん?キイナ、ブラックコーヒーやなかと?」とリコ。

サクラは強炭酸コーラをひとくち飲んで「あれこそ、キイナ・アプローチよ」とニヤリと微笑んだ。

「つまり、贅沢三昧の平安貴族は苦くて黒い飲み物など嫌いだという解釈に基づいた演技よ。まぁ、あと5分くらいは役に入り込んで抜けられんっちゃんね」

 サクラは相方キイナの総てを把握しているのだと言わんばかりに評論家気取りだ。

「ばても芳しきかな~」キイナはペットボトルのカフェオレを堪能し始めたが「ばても?ばてもって何?」と傍に居たミユは小首を傾げた。

「あっ、私、説明するけん。古文は得意やけんね」とリコがホワイトボードの前へ行く。

黒の水性マジックで大きくBATEMOと書いて「はい!もう解るよね、ば・て・も、が時を経て~」と其の下にBATTENと書き「ご先祖様たちのバッテンの言い方なんよね~」と雑に言語学の知識を披露するリコ。

「え~、BUT THENが変化したんじゃないんですか~」とミユは更に首をひねった。

 リルアが「ちがうよっ!英語は平安時代には入って来とらんけん!」ニコニコして反論すると「いいも~ん、ミユ理系やけん、古文とらんけんね~」

 ミユは笑顔で素早くリルアの持つロングポテトの小袋から一本を奪い楽しいじゃれあいが始まった。

「あれは菓子なのか、見事な狐色であることよ」とキイナ。

「うふふ、芋の菓子よ。私は色の濃いヤツが好きでありんす、うふふ」とサクラも上機嫌だ。

 (食堂の自販機の前で踊るようにコーヒーを飲むキイナを視た時は流石に不安を感じたが全くの杞憂だったのだ。わが軍の勝利は確実だ)

 安堵してサクラはコーラをグイと飲み干し「ふうぅ~」と一息ついた。

 その時ふと背後に気配を感じ、振り返ろうとした時「後で秘密会議するけん」とリコが耳元に暗い小声で言った。

 (なるほど、監督としては万全を期す為にアレの件を処理したいのだろう)とサクラは思った。

 「こ、これも芋だというのか、甘味が強すぎじゃ!」と大学芋を食べてキイナが大きな声を出した。アイが勧めたようだ。「凄かね~、迫真の演技やね~」と目を丸くするアイ。

「道真様、梅ヶ枝餅もあります!」とリルアが楽しそうに小さな保温ケースを持ってくる。

 そして休憩時間は延長されたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る